女神様の使い5歳からやってます

めのめむし

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第5章 崩れた日常

第148話 異世界?

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 そこは、草木も生えていない荒野だった。
見渡す限りに生物もいない、あるのは大小様々な岩だけ。
寂しげな風が吹いている。

 荒野の空中の一点に歪みが生じた。
その歪みから、勢いよく飛び出す赤い魚型の生物。

 魚型の生物は猛スピードで飛んだ後、急旋回をして、空中に静止した。

「ハッ、ここはどこだ!」

 御使い小桜美羽が神気と魔力で創造した、金魚ちょうちんのきんちゃんだった。

 きんちゃんは、美羽の存在を探る。

「美羽様がどこにもいない。ここは一体どこなんだ」

 美羽の気配が探れないとわかると、きんちゃんは弾丸のように飛び立った。

「美羽様ーーーーーーーーーー!」
(あの時、邪神にはめられて転移ゲートのようなものを潜ってしまった。
で、あるなら、ここはマーヴィカン帝国から離れている場所の可能性もある。

 ……いや、あの転移の時の感覚は……考えたくはないが、ここはまさか異世界ではないか。
 だとしたら、まずい。戻る方法がない。美羽様が捕らわれていると言うのに)

 きんちゃんは焦燥に駆られていく。

 今は美羽が邪神に捕らえられて、封印を施されそうだったのだ。
もしここが異世界だったら、助けに行く手段がない。

 そもそも、ミウに会えないということになってしまう。

 きんちゃんは美羽のためだけに生きている。
美羽がいない世界など想像もしたくなかった。

 しかも、美羽の危機に助けになれないなど、言語道断である。

「あの時、私がもっと慎重にしていれば。
思えば、美羽様が嫌な予感がすると言っていた。
なぜ、あの時にきちんと聞かなかったのだ。

 美羽様の勘が当たるということは私が一番よく知っているはずなのに!

 ……それに、それに私はあの時、ミウ様が制止した声が聞こえていた。
ああ、なんということだ。初めて美羽様の言葉を無視してしまった。
その結果がこの体たらくか。

 美羽様にお詫びしなければ。しかし、会えないことには……」

 きんちゃんは激しく後悔をした。
今から考えれば、邪神がフラフラしていたのも、トドメを刺すために胴体を狙うことを見越した誘導だったのだろう。
思えば、美羽の捕らわれた姿を見た時から、冷静ではなかった。

「邪神め! 邪神めーーー!」

 邪神に対する激しい憎悪が込み上げてくる。
美羽を捕らえていることなど到底受け入れられない。
美羽と離れ離れになるなどあり得ない。

 それをやった邪神が許せなかった。

「待て、私。落ち着くのだ。怒りに任せてもダメだ。邪神は必ず殺す。それは大前提にして、今は美羽様にどう合流するかだ。
まずはここがマーヴィカン帝国から離れた場所なのか、それとも本当に異世界なのか。とにかく見極めよう」

 しかし、きんちゃんの脳裏には、美羽が神気を封印されている姿、酷い目にあっている姿、命を失ってしまう姿が次々に浮かんでくる。
そして次に湧いてくるのは、やはり耐え難い焦燥感だった。

 きんちゃんは自分の内部の神気を循環させる。
すると、気持ちが落ち着いてくる。
 
「大丈夫。今は美羽様を信じよう。美羽様が無事でいてくれる。あのお方の強さを信じよう」

 
 きんちゃんは、猛スピードで飛び回り、美羽の存在を探った。
しかし、きんちゃんも薄々気がついている。
美羽ときんちゃんのつながりは強固だ。
どこか遠くでもいるのなら、存在を感じることができるはずなのである。

 以前に、美羽がメキロスフィアで自爆して津波に飲まれた時、取り乱して美羽を見つけることができなかったが、冷静になって存在を探れば見つかるはずなのである。
 
 それが、見つからないということは、ここは違う世界ということなのだろう。
 
 さりとて、探さないわけにはいかないのが今の状況であった。

 猛スピードで飛んでいるため、眼下に見える景色がずいぶん変わった。
もう、不毛の荒野ではなく、豊かな森が広がっている。

 遠くには高い山なども見えるが、見覚えのない山の形ばかりだ。

 (ここはやはり異世界と認めなければならないかもしれません)

 ここまでくる間に、だいぶきんちゃんは落ち着いた。

 「美羽様、申し訳ありませんが、今は一人で乗り切ってください。時間がかかっても必ず美羽様の元へ戻ります」

 きんちゃんは自分に言い聞かせるように、そう呟いた。

「街に行って、異世界転移の方法を探しましょう。それには魔法生物の私では、少々面倒ですね。
まあ、いざとなったら、姿も消せるし問題はありませんが、協力者が欲しいものです」

 どうするか思案をしながら、飛び続けていると、前方にあり得ない気配を感じた。

「み、美羽様?」

 気配は厳密には美羽ではないとわかる。
しかし、完全に違うかといえば否定はできない。

「とにかく行って確かめましょう」

 きんちゃんがその気配の方に飛んでいくと、2台の馬車と4騎の騎馬が進んでいた。

 気配を探ると、1台は幌付きの馬車で、御者が1人、中に5人の男が乗っている。
もう1台は、木の檻になっている馬車で、御者と10人の女性が入っていた。
10人の女性は奴隷なのだろう。

 檻の方に件の人物がいるようだ。

「どうやら、奴隷のようですね。様子を見るに、碌でもない輩でしょうし、強引に止めてみましょうか」

 きんちゃんが先頭の馬車の前の空中で止まる。

 そして、声に魔力を混ぜて魔言にした。

 『止まれ!』

 すると、馬も御者も凍りついたように動かなくなった。

 前の馬車が急に止まったので、檻の方の馬車は急停車して、御者が何事か叫んでいる。

 幌付きの馬車の中からも何か叫び声が聞こえる。

「やはり、言葉がわからないですね」

 幌付きの馬車から武装した男たちが出てくる。騎馬も、きんちゃんを取り囲むように来た。
全員武器を構えて何事か叫んでいる。
 
「言葉が通じないので、肉体言語といきましょうか」

 馬車の前のきんちゃんを要にして扇状に大量の剣や槍、盾などを一瞬で展開した。
剣や盾などはほとんどがオーガか魔人の武器なので、大きく迫力がある。

 焦る男たちの周りに剣を近づけていき、ほとんど刺さるくらいまで近づけると、男たちは静かになった。

「私の肉体言語もなかなかのものです」

 きんちゃんは、そういうと、悠々と檻のある馬車まで行く。

 そこには10人の女性たちが檻の中で不安そうにしていた。

 その中に、一人の少女がいた。

 その少女は黒髪で年齢は7歳くらい。とても綺麗な顔立ちをしていた。

「美羽様?」

 きんちゃんは、気配があまりにも似ていたので、思わず美羽の名前を口にした。
ただ、少女は美人だが美羽には似ていなかった。

 しかし、少女はきんちゃんのその言葉を聞いて、勢いよく顔をあげて、檻にしがみつき、何かを訴えてきた。
 
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