でっっかいイモムシかわいいね!!

ぺーる

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虫屋の性? 業だろ

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 最寄り駅の改札を抜けたところで、わかりやすい男が手を振っていた。でっかい。身長も横幅もなかなかにある、ふわっとした長袖シャツの下に明らかに緩めの肉が詰まってる。髪はゆるくパーマがかかってて、丸眼鏡。腰にかけたサコッシュからはどう見ても昆虫図鑑がはみ出している。いつもと変わらぬ、ゆるい変人。うちの農学部が誇る沢渡教授だ。

「おつかれさまです。早かったですね」
「いやぁ、だってほら、こういうのは鮮度が大事ですからねぇ。何年ぶりですかねえ、オオムラサキのこんな立派な幼虫……いやもう、さっきの写真見て興奮して電車乗っちゃいましたよぉ」

 そう言ってほにゃ、と笑う。相変わらずの虫屋っぷり、信頼できる。さっさと連れて帰ることにした。チャリ押して歩きつつ、簡単に状況説明する。違法投棄らしいこと、拾ったときの状態、いまは餌を食い始めてちょっと元気が戻りつつあること。教授は興味津々で相槌を打っていた。

「うんうん、食欲旺盛なようでなにより! 花畑くん、これからが大変ですよぉ? ただ食べてるうちはともかく、これから脱皮して、蛹化して、羽化……うまくいったら立派な個体になりますよお。たぶんねぇ、この感じ、羽化まで見届けたくなっちゃいますねぇ」
「……やっぱ、そうなります?」
「なりますよぉ。ボクも支援しますし、なにより花畑くん、そういう人でしょ?」

 そういう人、ねぇ。内心で頭を抱える。わかっちゃいたけど、俺が育てるのか。いやいや、そもそもうち設備ないし、狭いし。だからといっていまさら見捨てるなんて選択肢は欠片もない。というか、なんとなく脳裏によぎる、自分の居住スペースを9割明け渡して俺の部屋ってかオオムラサキの部屋になる未来。だってあんな目で見上げられたらな……と、ため息まじりに教授を先導してアパートへと向かった。

 途中、教授が「楽しみですねぇ」だの「お名前は?」だのと嬉々として話しかけてくる。そのたびに俺は「まだ仮預かりです」「名はつけません」と応戦したが、正直もう、負ける気しかしなかった。

「全部仮ですけどね。あくまで仮」
「ふふふ、それはおうちの子になる前の、仮、ですよねぇ」
「やめてください、まだなってません」

 返しながらも、正直なとこ気持ちは固まってた。拾った時点でこうなるのは見えてたとも言える。部屋に戻って、教授を通して靴を脱がせる間に段ボールの様子を見に行く。もに、と幼虫はまだ元気に葉を齧ってた。食が進んでる。よしよし。

「うわー……! これは……これはまた、かわいく育ってますねぇ!」

 教授が覗き込んだ途端、感嘆の声が上がった。しゃがみこんで、じっくり観察を始める。スマホじゃなくて、手帳とペンを取り出して、なにやらスケッチまで始めた。好きだなぁほんと。

「この突起の発達具合、成長段階ちょうど良いですねぇ。皮膚の張りも出てきた。栄養状態回復すれば、たぶんいい成虫になりますよぉ。これ、羽化までいけたらかなり希少な記録になりますねぇ」

 教授が嬉しそうに語ってる横で、俺はエノキの枝をまた一本、そっと差し入れる。イモムシはちょいと頭を動かして、また葉へ齧りついた。しゃり、しゃり。ずっと食ってんなぁ、かわいい。俺は思わず小さく息を吐いた。まだまだ、これからだけど。きっとこいつは、生き延びてくれる。いや、生かしてやる。どうせ里親なんか、端っから探す気なかったろ、俺。大概に虫屋だもんな。
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