悪役令嬢は帰り咲く

1章 私が王妃候補ですわ！

プロローグ

　私は物を作るのが好きだった。小学生の頃から工作が好きで、両親には「柚は天才発家だね！」なんて褒められながら育ち、大学では己の知識欲を満たすため科学から経済まで様々な学問に励んだ。
　それくらい、作るのが、解き明かすのが好きだった。四六時中頭の中で構想を巡らせていた。　

　だから、自分に猛スピードで向かってくる車に気付けなかった。

　身体に鉄の塊がぶつかる衝撃、首から聞こえたグキリ、という何かが折れる音。
　痛みはなかった。持っていた荷物が散乱しているのをただぼうっと見ていた。

ーーー最後の記憶だった。


　

　パチリと目を開けるとそこは薄暗い豪華な屋敷だった。
(ここは…)
　寝起きのぼんやりとした頭で考える。
(私は佐倉　プラナ…仕事の帰りに…)
(仕事…でも私まだ5歳…)
そこまで考え至ったところで違和感に気づく
(プラナって誰？そもそも私5歳じゃない…)
(…っていうか、私…死んだんじゃ…？)
ガバッと起き上がると目眩がして顔を覆った。…記憶よりも随分と小さな手のひらで。

　その瞬間自分が誰であるかを思い出す。
(私は、公爵令嬢のプラナ・スターチス！)
私は5歳の公爵令嬢に転生していたのであった…

　不意に部屋のドアが開かれ、誰かが入ってきた。部屋にはランプがあるものの薄暗く顔は見えない。
(誰…？)
その人物がベットの側までやってきて声をあげた
「お嬢様！お目覚めになられたんですね！？私が分かりますか？このルドリアが分かりますか！？」
どうやらメイドのルドリアが様子を見にきたらしい。そういえば熱で魘された記憶があるような気がする。
「ええ、ルドリア」
そう答えるとルドリアは部屋の外へ出て行った。屋敷の人間に私の意識が戻ったことを伝えに行くらしい。　
　
翌朝、日が昇ると部屋の全貌が明かになった。絢爛豪華な調度品、美しい彫刻の施された壁や天井、そしてプラナの姿。
　(可愛い…)
プラナは5歳という齢であったがその美しさは目を見張るものがあった。
美しく波打つプラチナの髪、瞬きをする度に音を立てそうな睫毛、その睫毛に縁取られた深海のような群青の瞳、雪のように白く陶磁器のように滑らかな肌、桜のように淡く色づき潤った唇、そしてハープの音色の如く響く声…プラナは全てが完全に美しく調和した少女であった。