ファントムレイド

高町 凪

文字の大きさ
8 / 17
解明編

憧れの二人

しおりを挟む
私、吉柳茜には憧れている人が二人いる。一人は姉である紅羽お姉ちゃん。もう一人は暁のマスターである凜お兄ちゃん。
二人ともとても強くて格好よくて、困っている人にはすぐに手を差し伸べられる、そんな二人の背中を見て私は追いかけてきた。


とある田舎にファントムが出現したという報告を受け、紅羽と茜は現場へ向かうとすぐに戦闘を開始していた。

「ごめん茜! そっちに一匹逃しちゃった!」
「まかせて!お姉ちゃん!」

茜はファントムの攻撃を躱すと同時に相手の右足を切りつけ、さらに身を翻すと高速の三段突きを放った。

「グォォォォッ!!!」

悲鳴を上げて倒れるファントムに首をめがけてとどめの一撃を刺し、ついにファントムは息絶えた。

「よし!こっちは終わったわね。お姉ちゃんのほうは・・・」

と紅羽のほうを見やるとすでに戦闘を終了し、周囲の警戒を行っていた。

「あ、茜。そっちも終わったのね」
「うん。お姉ちゃんは相変わらず強いね。あっという間終わってるんだもん」
「そういう茜だって以前に比べてたらずいぶん強くなってるじゃない。お姉ちゃんいつ追い抜かれるかハラハラするわ」
「えへへ。そうかな。まあまだまだ頑張らないとだけどね」

会話をしつつもしばらく警戒していたが、これ以上ファントムが出現する気配はなさそうなので、二人は帰宅することに。

「けどほんと強くなってるよ。最後に使ったあの技、吉柳神槍術の三華でしょ? 少し前までは最後の三段目が上手くいかない~って嘆いてたじゃない」

吉柳神槍術とは吉柳家に古くから伝わる槍術のことで、紅羽はこれの免許皆伝を取得している。

「まあね。何とかできるようになったんだよ。実戦で使うのは初めてだったけど」
「ふふ、その実践で上手くできたのならいいじゃない。やっぱり成長してるわよ、茜は」
「・・・えへへ、ありがと、お姉ちゃん」

自分はまだまだと思っているが、それでも褒められればやはり嬉しいものだ。


私は7歳の頃から槍術を学び始めた。理由は単純ですでに吉柳神槍術の奧伝へと至ろうとしていたお姉ちゃんを見て、カッコイイ、自分もあんな風に槍を使えたら、と思ったからだ。

お姉ちゃんは当時14歳にしてすでにアライブに所属し、お兄ちゃんと一緒に戦場を駆け巡っていた。まあ、お兄ちゃんはもっと歳は下でたしか10歳のはずだったが。ともかく、お姉ちゃんがファントムと戦ってたくさんの人を救っていることを知ったときは、さらに憧れたのだ。
自分もすぐに追いつきたいと毎日必死に修行した。遊ぶ時間も寝る時間も削れる時間は全部削って、必死に修行した。



そんなある日、すぐ近くの町でファントムが出現した。ちょうどそこに居合わせてしまった私は、愚かにも今の自分の腕でどこまで通用するか試してみたくなったのだ。

でも結果は当然ダメダメで、あげく命を落としかねない状況になってしまった。振りかぶるその巨大な腕に思わず目を瞑り、もうだめだと思った瞬間、聞こえたのはファントムの悲鳴だった。

「えっ?」
「君・・・大丈夫?」

これがお兄ちゃんとの最初の出会いだった。
刀に付いた血を振り払い鞘に納めるその姿がなんだか凛々しく見えて、でも自分と歳がそう変わらなさそうなのに、自分よりもずっと強い彼に少しの嫉妬を抱いた。だが。

「立てる?」

そういって自分に手を差し伸べた彼を見てすぐにその感情は消えた。

(ああ、そっか。この人もお姉ちゃんと同じなんだ)

困っている人に手を差し伸べて、ピンチの時には必ず駆けつけてくれる。この人も、そういうタイプなんだ。

「はい、大丈夫です。その、助けてくれてありがとうございます」

彼の手を取りながら立ち上がり、お礼を言うと。

「はは、無事なら何よりだよ」

彼は笑顔でそう言ったのだった。




それから年月が過ぎていく中で、あの時助けてくれたのが紅羽と一緒に戦っているというお兄ちゃんであることを知ったり、アライブを抜けて暁なる組織を起ち上げたことを知り、自分も入ることを決意したりといろいろあった。

そして今、私は変わらずお姉ちゃんに追いつくために修行を続ける。唯一自分の中で変わったことがあるとしたら、目標がもう一つできたことだろう。

「お姉ちゃん、私ね」
「うん?」

「速くお姉ちゃんに追いつくよ。そして・・・お兄ちゃんと、ちゃんと肩を並べて戦えるように」
「・・・ふふ、そっか。じゃあ私ももっと頑張らないとね」
「ええ~、お姉ちゃんがこれ以上強くなったら追いつけなくなるじゃ~ん!」

(もう一つの目標は、自分を救ってくれたお兄ちゃんと一緒に戦えるようになって、今度は私がお兄ちゃんを支えてあげるんだ。)

そう決意を新たに茜は今日も槍を振るう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

処理中です...