聖女は断罪する

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69. 記憶の蓋が揺れ始める

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 母親付きのメイドが母親の紅茶に一滴、小瓶から垂らす。

「あら、どうしたの?」

メイドはいつも少しえらそうにレイラに接する。他のメイドとなにがちがうのだろう、この人はなんて小さなレイラは考えていた。メイドが濁った緑色の小瓶をまだ手に持っている。

「これはおかあちゃまのお薬よ」

そう言いながら小瓶に蓋をしてメイド服のポケットにしまい込んだ。


 レイラはそんな夢を見ていた。熱に浮かされ、ベッドの中を上を向いたり横を向いたりと忙しい。荒い息のままレイラはがっと目を開き起き上がった。

「そうよ、あのメイド、愛人だった」

そうつぶやきそのまままたぼすん、と枕に頭を落とす。ベットのシーツが上下とも湿っている。枕も頭からの汗で湿っている。レイラは不快感を<洗浄>と<乾燥>と<清潔>の生活魔法を一瞬でかけて解消する。その頃には先の夢は忘れ去っていた。

「それだけ出来たら回復できそうだ」

テオが入って来た。ヴィヴィアンヌもいる。

「あれ?温室にいましたよね?」

レイラは現実と自分の内部の焦点がまだ上手く合致していないな、と感じる。

「温室で俺の前で倒れた。……透かした解毒剤を見たのが原因か?」

「……解毒剤」

レイラは先刻までわかっていたはずなのに、今、この瞬間、何を思い出したのか思い出せなかった。が、母親と愛人の二人に関連するなにかだ、という事しか思い出せなかった。

「なにか思い出したのに……」

レイラが呟くとテオがレイラの手を握った。

「無理しなくていい」

「そうだね。少し歌ってあげるから眠りなさい」

ヴィヴィアンヌがベッドのテオと反対側に腰かけレイラの額に手を置き緩やかな呪歌を低く甘い声で囁くように歌い始めた。レイラは薄っすらと笑うと目を瞑り、歌に合わせて呼吸を始める。



 「記憶の呪歌が効果あると良いけど」

テオとヴィヴィアンヌはカーテンを閉めてベッドのヴェールを降ろして部屋をでた。

「何度も聞いているから記憶の扉もそろそろ開いて暮れると思うぞ」

テオが呟く。ヴィヴィアンウも同意した。

「そうだね。体も随分丈夫になってきたからね。衝撃を受け止める素地は出来てると思う」



 半固形の緑色の物体に包まれて窒息する夢を見てレイラは飛び起きた。悪意が煮凝ったようなどろりとした……愛人の目のような緑がレイラを捕捉した。が、レイラがほぼ反射でその悪意を弾き飛ばした。

「レイラ、今のは?」

異変を感じヴィヴィアンヌが部屋へ飛び込んできた。

「……あれはなんなんですか?緑色の悪意の塊に包まれそうになって目が冷めたんですが」

「レイラ、悪意を感じたんだね?」

ヴィヴィアンヌがそう言い、使い魔になにか言うと使い魔は頷いて窓、レイラが悪意を感じた方向の窓から出て行った。

「悪意の痕跡を追って貰ってる。……ただな、王都だと人の意識が入り乱れてて追跡は難しい」

ヴィヴィアンヌが正直な事をいう。

「でもあの悪意のお陰で一つ思い出しました」

ヴィヴィアンヌはレイラの言葉を待つ。

「女の人、メイドの手に握られていた、あの悪意と同じ色の液体を」

レイラはそう言ってヴィヴィアンヌを見た。
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