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4.ジョフロア

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 ノアイユ家縁のジョフロアといえば王弟殿下で、ノアイユの姫を娶り北方の辺境を守る王家の剣、王家の竜のはずだ。
 ディオンはそんなことを考えている。お茶を入れる入れないと言う騒ぎの最中、背の高い仮面の男が入ってきた。
 白に近い金髪、空のような青い瞳が見て取れる。

「叔父上」

ディオンの声かけにジョフロアは冷たく答える。

「ここにいる人間には家名はない。お前はただのディオンだし私はただのジョフロアだ。間違えてはいけない」

ジョフロアは冷静だ。

「君たちは各実家に被らせた損害を返済するために集められた。ここにいるだけでなく、後三人が後日追加の予定だ」

皆黙って言葉を待つ。

「レイ、キミは少し特殊だ。家には被害がほとんどない。しかし、キミが入れ上げた女性がとある書類を持ち出して、な。君の亡き母親の部屋にあった書類と日記帳をな。……だから、君はここに売られた。わかるな?」

レイの顔色が一気に悪くなった。商会の裏仕事の帳簿と母親が請け負っていた暗部の仕事の契約書を持ち出されていたのだ。

「……ええ」

レイはやっとのことで返事をした。

「なのでレイは他のメンバーとミッションが違う。他のメンバーは最低2年後には自分が使った額の1/3、3年後には半分を稼ぎで返す事。返せねば、この『ホストクラブ』から鉱山に身売りしてもらう。……5年後に返せたメンバーは騎士爵位と新たな家名を陛下から賜る。それ以降だと平民としての暮らしが待っている。それがレイ以外のメンバーのミッションだ」

ジョフロアの口調などことなく面白がっている。

「レイ、君は経営者側に回る。この『ホストクラブ』を2年で黒字にすること、そしてここにいるメンバーを出来得る限り、5年以内に卒業させる事だ。全員5年以内に卒業させればこの店をレイのものに出来る。そして今の『王国公認』をそのまま使える」

レイはまだ顔色が悪いが頭の中で計算を始めたようだ。

「レイ、君のお父上はここを成功させることでかの女性が持ち出した書類の事を不問にすると仰っている」

ジョフロアはすでに面白がっているのを隠そうとしていない。

「私は君たちの監督員を兼ねている」

ジョフロアは禁止事項を申し渡す。

・夜間無断外出の禁止
・実家や実家関係者からの資金の補助の禁止

最大なのは

・体を売らない

であった。メンバーのうち誰かが体を売った事が発覚したら鞭うちの上、全員が鉱山奴隷に落ちる、と一番罰則がきつかった。

「一発アウトかよ」

ノエルの呟きにジョフロアは満足そうにうなずいた。
 実家や実家関係者には指名をされるだけで資金援助とみなすとジョフロアが発言する。

「指名?」

ディオンが疑問を呈する。

「ああ、そうか。ホストクラブというのは、お客様から指名を貰ってその席に着く、というのが基本の仕事だ。席に着けば飲み物の用意やサービスは君たちがするのだよ。ま、飲み屋の女性のやるような事だ」

レイが手を挙げる。

「皆婚約者とお茶会なんかしてるので、昼間にお茶会をしたり、夕方からのオペラや劇のエスコートなんかもサーヒスに含めても?」

ジョフロアはアンドレをじっと見る。

「婚約者とのお茶会を一度もしていない奴もいるがな。……ま、それも良いだろう」

ステファニーもくっと笑ったようだった。

「まずは2週間、お茶とエスコートで研修と行きたいんですが」

レイは他のメンバーを見た。

「わかった。一旦、部屋へ案内させよう。レイはまだ少し付き合ってくれ」

ジョフロアはいつの間にか部屋の隅にいた侍従に合図を送り、アンドレ達を部屋に連れて行った。
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