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【前編】「しのぶ」という名の後輩
(3) マンドリン
しおりを挟む平田が投稿しているのは演奏動画だ。
平田自身が毎回編曲をし、伴奏を電子音源に入力してから、それに合わせて独奏をする。
きっかけは今から2年前、定期演奏会の宣伝をするためだった。
しかし、今となっては、自分が演奏する「マンドリン」という珍しい楽器の名前を多くの人に知って欲しいと思い投稿を続けていた。
それにそもそも、六ヶ原高校のマンドリン部に、もはや「宣伝」が必要なほどの演奏会を開催する余力は、もう無いのだ。
かつてのマンドリン部はもう存在しない。
残酷なこの言葉を、平田は自分自身にしか言ったことはなかった。
しかし、それは、声にしないだけで、きっとこの高校の全員が思っているはずだ。
とはいえ、演奏がよかった、動画が楽しかったと言ってもらえることは平田は素直に嬉しく感じるし、最もやり甲斐を感じる瞬間でもある。
「マンドリン、いい音色だよな。小泉もマンドリンの音色が好きらしい。平田の演奏に感化されたんだとさ」
宮坂は平田の目を見てそう言った。
そう、マンドリン。
それこそが平田が多くの人に聴いてもらいたい楽器の名前だ。
イタリア生まれのこの弦楽器は、吹奏楽やバンドで使われる楽器と比べて、随分と知名度が低い。
それでもこうして音色を褒めてもらえるのは、平田にとって有難いことだった。
「もちろん、俺もマンドリンという楽器を知れてよかったと思ってる。おまえの演奏、毎回すごいよな」
宮坂の言葉に謙遜してみせようとするものの、平田は思わず顔が綻んでしまう。
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