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キリングドールたちの午後
しおりを挟むスケジュールをパソコンで立ち上げる。
このパソコンはモデムを後から取り付ける旧式のデスクトップだ。そしてモデムは取り付けられていない。
ハッカーが怖いからだ。はっきり言って、電波の状態で中空を情報を行き来させるなんてそんな恐ろしいことよくできるなというのが老師の言い分だ。
古いと思うが、仕事用はネット接続しない。無論別にインターネット用の最新型も用意してある。
そっちは趙飛竜が使っている。
「地図データと周辺の公共機関」
「まずディスクに落としてちょうだい」
このパソコンをネットにつないだら老師のお小言がうんざりするほど長い。
二人は日本語で話している。何故母国語でしゃべらないのかといえば、通じないからだ。
中国は広い。そのため方言なんてもんじゃなく、土地が変われば言語も変わるのだ。冗談抜きで、中国国内で製造された映画に中国国内で字幕が付くのだ。
そのためいっそ日本語でしゃべりあっていたほうが意思疎通を図りやすいのだ。
狙撃地点の候補を探すため地図と周辺の建物の高さを調べる。
基本的に交通手段は佐藤和夫が用意してくれるのだが、それでも万が一ということもあるので、調べておくにこしたことはない。
CDを受け取ると、パソコンに挿入する。
李香蘭の周囲はCDと識別シールだらけだ。
「狙撃なんてパンと一発で終わるもんじゃないよね」
そのパンと一発の前の下調べこそ大切なのだと老師は口を酸っぱくして教えてくれた。
「失礼いたします」
影のように入ってきたのは佐藤和夫だ。
声を掛けられて李香蘭は悲鳴をかみ殺した。
いつの間に建物の中に入り込んだのだろう。
「鍵、開いていましたよ」
そう言って、ディスクが入りそうな箱を振って見せる。
もちろんなければディスクが入っていた。
「どっちのパソコンだ?」
ネット接続されているほうとされていないほう、二つを見比べて、李香蘭に渡す。
「とりあえずリストアップした周辺建物の内部図面です」
「ご苦労様」
「いえ、ほかの人の仕事の成果を持ってきただけですよ」
「いつもは何をしてるわけ」
「税務署で働いておりますが」
こともなげに言われて、二人は口をあんぐりとあけた。
「今は出張というか、出向という形をとっております。公務員として勤務実態を作るのも仕事の一つですから」
「CIAとかとずいぶん違うね」
以前、そっちともめたことのある趙飛竜がネットを覗き込むのをやめて呟く。
「しかたありません、これが日本です」
佐藤和夫は苦笑した。
「そちらの国ではどうかわかりませんが、郷に従えってやつですよ」
国と言われて二人はそれぞれ視線をそむけ合う。
国なんか二人は知らなかった。組織の一員としてだけ教えられた、自分のいた国がどういう風に世界で言われているか、自分の国で何が起こっているかそんなこと知らないし考えたこともなかった。
二人は物心つくかつかないうちに別々の組織に育てられ、組織のこと以外考えられないように洗脳されていた。
組織が相打ちという形で壊滅した後も、まだ戦おうとしていたところを老師に二人まとめて叩きのめされ、気が付いたらここにいた。
気まずい空気がしばらく流れた。
「とりあえず、そのディスクは使い終わったら捨ててください」
なんだか焦っているような佐藤和夫は早口でそう言うと、風のように去って行った。
「足音、しなかったな」
「腐っても諜報機関」
二人は歩いている姿を見ただけでも相手の実力を把握できる。
「そう言えば、ステルスっていつ来るんだろうな」
「さああ?」
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