スイーパーズ

karon

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老師は公務員とお茶を飲む

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 プリントアウトされた見取り図や書類には言っていたターゲットの顔写真をテーブルにぶちまけ老師はお茶を飲んでいた。
「失礼します」
 玄関から入ってきたに違いないのに、いきなり入ってきたような気がして思わずのけぞる。
 どうも、打ち合わせに参りました。
 そう言って書類を差し出す。
「マフィアと、棒諜報機関の二股掛けねえ」
 写真を弄びながら老師は呟く。
「剛毅なもんだ」
「とにかく、そろそろあちらがたも二股かけられたことを気付き始めているようです」
 そう言って、新しい書類を出してきた。
「まあ、お茶でも」
 茶器を置いてあるテーブルに言ってお茶を淹れる。
「ありがとうございます」
 佐藤和夫はそう言って静かに茶碗に口をつける。
「あんた、無造作に飲むよなあ」 
 老師は感心したように言う。たれた目じりにしわが寄っている。
 半ば白くなり始めた髪、決して人前では脱がない帽子などと相まっていかにも人のよさそうな顔に見える。
 佐藤和夫も静かに微笑んで。
「異物混入なら、コーヒーに入れても嗅ぎわける自信がありますから」
 あくまで穏やかな笑みを崩さない。
「毒物にはとくに詳しいもので、嗅ぎ分けられないものでも口に入れたらすぐにわかるので吐き出せますよ」
 少々年の言った、いかにも人のよさそうな男性と、若いサラリーマンの談笑風景だが、口にしていることはずいぶんと辛らつだ。
「まあ、二股掛けね」
 そ言って再び写真を指で挟んで振る。
「それならそれで共倒れを狙っちゃう、そっちのお偉方も怖いがねえ」
 それが計画の肝、目に見える形で暗殺されることによって、双方が疑心暗鬼になってつぶし合い共倒れを誘うこと。
 嫌な記憶を思い出してしまった。
 李香蘭と趙飛竜を拾った時もそ言う状況だった。
 自分たちを縛る組織が壊滅したにもかかわらず、最後の命令を守ろうと殺し合いを続けていた子供たち。
 思わず拾ってきてしまったが、なぜあの時そんな気まぐれを起こしたのかいまだに自分でもわからない。
「あの二人の名前、本名ですか」
 ずっと気になっていたのだろう。
「いや、あいつらは、香蘭のほうはナンバーを飛竜のほうはアルファベット羅列を自分の名前だって主張しててな」
「それであなたがつけた」
 そしてしばし遠い目をして虚空を見ていた。
「何が言いたい?」
「正直、どっちもどっちだと思いますよ」
 三国志と第二次世界大戦。メジャーだが、日本人からすれば安直の極みな命名だった。
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