呪具屋闇夜鷹

karon

文字の大きさ
12 / 17

古い仮面

しおりを挟む
 とはいえ、そのような話が出たら、呪具屋のところに行かないわけにもいかず。マディソンは呪具屋の前に立つ。
 正確には、その裏手の小物屋だが。
 店主はおらず、無表情な人形が店番をしていた。
「通るぞ」
 人形は滑らかに会釈する。表情がこわばっていなければ生きた人間と見まごうばかりだ。
 呪具屋は、仮面をつけてそこにいた。
 その手にもう一つの仮面を手にしている。
「それは?」
 手にした仮面は、かろうじて人の顔と分かるぐらいに大雑把に作られた仮面だった。
 白く塗られた無機質なそれを呪具屋はそっと撫でた。
「これは父の仮面」
 おそらく怪訝そうな顔をしていただろうと思った。
 いったいどういう時にその仮面を使っていたのか見当もつかない。
「この仮面をつけて、父は貴方に会っていたはず」
 この目鼻がかろうじて判断がつく程度のぞんざいな仮面をつけていたと言われても自分が覚えているのは端正な顔だけだ。
「精神に影響を与える呪具の使用を今は禁止されているけれど、当時はまだ法が徹底していなかったから」
 そう言って細い指が仮面をなぞる。
「この仮面をつければ、相手が最も快いと思われる顔に見えるよう調整されている。父は、ほとんどの時間、この仮面をつけて生活していた」
「あんたには、その顔はどう見えていたんだ?」
「小さい頃は、父の素顔とほとんど変わらなかったと思う、子供にとって、親の顔ほど安心できるものはないから。それからあとは、父の素顔をベースにして、少し美化された程度か」
 までぃそんは、その仮面を見下ろす。誰もつけていない状態では、ただの粗削りな仮面にしか見えない。
「つまり、同じ顔を見ていたつもりで、みんな別の顔に見えていたわけか?」
「そう」
「じゃあ、呪具や本人にはどんな顔に見えていたというんだ」
「それは知らない、おそらく父の心の中にだけある顔だったんでしょうね」
 転生者という噂、もしかしたら、今の顔ではなく転生前の顔が先代には見えていたのかもしれない。あるいは、彼にとって理想の美貌だったのか。
「今は使うことができないけれど、使わないならということで、うちに置いてあることだけは許されている」
「そうか」
 しばらく仮面を凝視していたが、本題を思い出した。
「すまないが、マルテネスについて聞きたいことができた」
「なにか?」
「マルテネスはあんたの本名を知っていたか?」
「教えていなかった。教える必要もない」
「マルテネスは貴女の素性は知らなかった。間違いないね」
「もしかして、疑われているのか?」
 やれやれと顎に手をやって仮面をはずした。
「もし知られたとしても、殺害するほどのことではないと思うがね、多少のトラブルにはなるが、死活問題とは言い難い」
 それは最初に自分も思った。しかし、世の中には、そういう簡単な計算ができない人間も王王にいる。だからこそ、マディソンのような人間が必要なのだ。
「マルテネスが死んだ以上、知らなかったと証明することはできないってことか」
 やれやれと、呪具屋は首を振る。
「早く新犯人が捕まることを祈ります、協力は惜しみません」
 それだけ言うと、フェアリスは口をつぐんだ。
 これ以上何も聞き出せないだろう。マディソンはそう考えると、その場を辞した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...