1 / 17
来訪者
しおりを挟む
何度も何度も閑静な住宅街の中同じところをぐるぐる回っている男達がいる。
職業はあり得ないことに警察官だ。
一人はがっちりとした壮年の男性、もう一人まだ若い髪をこれ以上は切れないほど短く刈りこんだ、細身の男性だった。
「おかしいな、確かこの辺りにあったはずなんだが」
壮年の男性が首をかしげる、同じく若いほうも手の中のメモを手に、番地の記されたは標識を見比べ首をかしげている。
「おかしいな、引っ越したわけじゃないよな」
「それはないはずなんですが」
そして、何度も通り過ぎた、この辺りでたった一軒しかない店を横目で見る。
それは女性が使うような小物を売っている店だ。薄緑色に塗られた壁の中硝子戸の向こうには精緻な飾り物がいくつも見える。
ちょっと目にしたぐらいでも随分と手の込んだ細工ものだ。
「あそこで聞くしかないか」
警察としても人に道を聞くのはメンツにかかわることなのだがと、何度も入ろうとするのをためらったのだが。
硝子戸を開けて中に入ると、店の奥に若い女が座っていた。
緩やかにまいた栗色の髪を後ろに流し、緑色の目が予期せぬ来客に大きく見開かれる。
「どうなさいました」
なかなかに美しいその女性は、どうやらこの店の店主らしい。
そう判断したのは、他に従業員の姿が見えないからだが。
「呪具屋闇夜鷹をご存知ですか」
言われて、その女性はにっこりと笑う。
「あちらに、そこに向かう道がありますよ」
そう言って扉から身を乗り出し、何度も歩いたはずの道を指さした。
そっちは何回も行ったと喉元までせりあがった言葉を飲み込んで、一応礼を言ってその店を後にした。
不信感を覚えながら、再び何度も通ったはずの道を進むと、見覚えのない脇道があった。
こんもりとした木々の隙間に、明らかに人の通る道がある。
何度も通ったはずなのに、全く気が付かなかった。
「あの」
若いほうがおびえた顔をして後ずさる。
「行ってみよう」
壮年のほうがすたすたと歩いていく、その後を及び腰で若いほうが進む。
「空間を歪めてあるな」
力のある呪具屋であれば、空間すら歪ませることもできる。
そのための術式は自力で開発する。
地図上ではありえない小道を進めば、闇色に塗られた建物が見えた。
壁も扉も窓枠もすべてが漆黒に塗られた真黒な家。どうしてこんな異様な家に気付かなかったのか不思議ですらある。
艶消しの黒の扉を開ければ、仮面をつけた人形が一礼する。
腕の球体関節がむき出しなのですぐ人形だとわかったが、きっちり服を着つけていれば人間と見まごうばかりにその動きはスムーズだった。
人形に先導されて、主の住処に向かう。
建物の中はさすがに真っ黒に塗られていなかった。白壁に黒い柱や筋交いが走っている。
建物の中心にあると思われる応接間に入ると、すでに主はそこに立っていた。
中肉中背ほどの身体つきで全身を黒いケープですっぽりと覆い、目深にかぶったケープの下から無表情な顔がのぞいている。
それはとても奇妙な顔だった。
整っているうちには入るだろうに、若いとも年を取っているとも取れず、男とも女とも取れない。
それが口を開く。
「御用件は何でしょう」
壮年の男は身分証明書を出した。
「私は、マディソンと申します、身分は刑事部長。あなたをアリアン・テッド殺害の容疑で取り調べさせていただきます。
主の表情は変わらなかった。しかし次の言葉は出てこない。沈黙はしばらく続いた。
職業はあり得ないことに警察官だ。
一人はがっちりとした壮年の男性、もう一人まだ若い髪をこれ以上は切れないほど短く刈りこんだ、細身の男性だった。
「おかしいな、確かこの辺りにあったはずなんだが」
壮年の男性が首をかしげる、同じく若いほうも手の中のメモを手に、番地の記されたは標識を見比べ首をかしげている。
「おかしいな、引っ越したわけじゃないよな」
「それはないはずなんですが」
そして、何度も通り過ぎた、この辺りでたった一軒しかない店を横目で見る。
それは女性が使うような小物を売っている店だ。薄緑色に塗られた壁の中硝子戸の向こうには精緻な飾り物がいくつも見える。
ちょっと目にしたぐらいでも随分と手の込んだ細工ものだ。
「あそこで聞くしかないか」
警察としても人に道を聞くのはメンツにかかわることなのだがと、何度も入ろうとするのをためらったのだが。
硝子戸を開けて中に入ると、店の奥に若い女が座っていた。
緩やかにまいた栗色の髪を後ろに流し、緑色の目が予期せぬ来客に大きく見開かれる。
「どうなさいました」
なかなかに美しいその女性は、どうやらこの店の店主らしい。
そう判断したのは、他に従業員の姿が見えないからだが。
「呪具屋闇夜鷹をご存知ですか」
言われて、その女性はにっこりと笑う。
「あちらに、そこに向かう道がありますよ」
そう言って扉から身を乗り出し、何度も歩いたはずの道を指さした。
そっちは何回も行ったと喉元までせりあがった言葉を飲み込んで、一応礼を言ってその店を後にした。
不信感を覚えながら、再び何度も通ったはずの道を進むと、見覚えのない脇道があった。
こんもりとした木々の隙間に、明らかに人の通る道がある。
何度も通ったはずなのに、全く気が付かなかった。
「あの」
若いほうがおびえた顔をして後ずさる。
「行ってみよう」
壮年のほうがすたすたと歩いていく、その後を及び腰で若いほうが進む。
「空間を歪めてあるな」
力のある呪具屋であれば、空間すら歪ませることもできる。
そのための術式は自力で開発する。
地図上ではありえない小道を進めば、闇色に塗られた建物が見えた。
壁も扉も窓枠もすべてが漆黒に塗られた真黒な家。どうしてこんな異様な家に気付かなかったのか不思議ですらある。
艶消しの黒の扉を開ければ、仮面をつけた人形が一礼する。
腕の球体関節がむき出しなのですぐ人形だとわかったが、きっちり服を着つけていれば人間と見まごうばかりにその動きはスムーズだった。
人形に先導されて、主の住処に向かう。
建物の中はさすがに真っ黒に塗られていなかった。白壁に黒い柱や筋交いが走っている。
建物の中心にあると思われる応接間に入ると、すでに主はそこに立っていた。
中肉中背ほどの身体つきで全身を黒いケープですっぽりと覆い、目深にかぶったケープの下から無表情な顔がのぞいている。
それはとても奇妙な顔だった。
整っているうちには入るだろうに、若いとも年を取っているとも取れず、男とも女とも取れない。
それが口を開く。
「御用件は何でしょう」
壮年の男は身分証明書を出した。
「私は、マディソンと申します、身分は刑事部長。あなたをアリアン・テッド殺害の容疑で取り調べさせていただきます。
主の表情は変わらなかった。しかし次の言葉は出てこない。沈黙はしばらく続いた。
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる