呪具屋闇夜鷹

karon

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女優

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「マルテネスは真正の女優でした、彼女は演劇を愛していた、どんな役でもやってみたいと望んでいましたが、残念なことに、彼女の容貌はもらえる役を恐ろしく狭めた。そのことに彼女は大いなるストレスをため込んでいた。そして顔を変える呪術を求めた」
 仮面をかぶると声までも変わる。
 とつとつと語るその姿は、先ほどまでの小物屋の女主人と醸し出す空気まで変わっていた。
 仮面という代物は、良くも悪くも人を役者にするらしい。
「だから、仮面を求めた、私が支払いの条件として求めたのは、仮面をつけた状態で役をもらい、その報酬の半分を支払うというものでした、そして支払い続けられなければ仮面を取り上げるというもの、もっとも支払いは順調でしたけれど」
「なるほど、だから分割か」
「彼女は完全に、二人の女を使い分けていた。だから、犯人はどちらの女を殺すつもりだったのでしょうね」
 呪具屋の問いかけに、マディソンは声を詰まらせた。
「どちらのというと?」
「マルテネスか、アリアンか、どちらに死んでほしかったのでしょうね」
 呪具屋の言葉にマディソンは考え込む。
 マルテネスは喜劇俳優としては中堅どころだ。しかし特に恨まれているという噂は聞かない。
 アリアンは、オールマイティの女優として徐々に売れ始めていたが、極端に人づきあいが少なく接点のある人間がほとんどいない。
 元々マルテネスが作り上げた架空の女優なのだから当たり前だが。
「動機のある人間が見つからん」
「それはそれは、私としても、彼女は演劇のみに打ち込んでいるとしか思えませんでしたが」
 呪具屋はそう言って、再び仮面をはずした。
「お帰りは、あちらから、仕掛けをもう一度動かすのは面倒なもので」
 そう言って示した方向を見れば、自動人形が扉を開ける。そこから小物屋の店先が見えた。
たっぷりとした長衣を脱げば、先ほどの来ていた服を下に着こんでいた。
「着替えるのが面倒で」
 そう言って軽く舌を出した。
「そう言えば、その仮面をつけたまま飯が食えるのか?」
 なんとなく気になって聞いてみた。
「もちろん、食べられませんよ、ですから、仕事先で食事はほとんどとりませんね」
「なるほど、アリアンが人づきあいが悪いと言われるわけだ」
 一緒に飲み食いができないなら、付き合いは難しいだろう。
「それはそうと、バナディースというと、あのバナディース家かね」
「夫は、次男ですので、あちらの稼業ではそう重要な位置にはいませんよ」
「しかし、この辺りでは有名な名家だ、その家の奥様が、商売に手を染めているとは」
「ですから、仮面が必要なんですよ、小物屋のほうは、趣味の延長の、ほとんど儲けのない商売という形をとっています。実際赤字ですよ」
 金を持っている人間は身内の女を働かせるのを嫌う。女達が主婦業すら何もせず遊びほうけているのを自分の甲斐性の証とでも思っているのだろう。
 フェアリスの顔をマディソン警部は見詰めた。
「何か?」
「いや、何でも」
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