寓意による遺言

karon

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 うちの馬鹿姉が、殺人容疑なんぞかけられてしまった。
 なんでそんなもんをかけられたかって、それはある殺人事件の被害者が、姉の恋人だったからだ。
 そしてその被害者には姉のほかに五人の彼女がいた。
 うん、殺人の動機は言うまでもないな、そういう爛れた多角関係に疲れたから、ないしは騙されていたと知って激怒、あるいは独占欲、そのどれかだろう。
 そんなわけで、容疑者はその六人の女に絞られてしまった。
 残念なことに、女癖が悪い以外には金銭トラブルなどの問題はなかったのだ。
 お馬鹿な姉は事件が起こるまで、他の女の存在に気が付かなかったと言っている。
 うかつすぎると思うが、そういうことをする奴はまあいろいろ慎重なんだろう。
 プロの詐欺師みたいなもんだ。
 だから姉は騙されていた被害者ということにもなるが。
 もし起訴されてしまったら、情状酌量として認めてもらえるかもしれないが、それが慰めになるんだろうか。
 とりあえず、父親は激怒している。本人も何に激怒しているかわからない。とにかく激怒して、そしてなんかしら破壊されている音がしている。俺は近づきたくない。
 母親は泣いている。
 そりゃ泣くよとしか言えない。
 爺さんがあまりに頼りにならない息子をあっさり見限って、弁護士を派遣してくれた。
 それ以上のことはできないようだが、それは感謝しておく。
 とにかく、殺された大馬鹿野郎は二階堂雄一。
 故人であるが、その死を悼むつもりは毛頭ない。
 諸悪の根源であり、疫病神。姉が容疑者になったのでは無ければその死を心から寿ぎたい。
 それに関しては両親、そして祖父も同感だと思っている。
 美術を専攻している大学生。
 それ以外の情報は入ってこない。
 そして六人の女。
 まず姉。
 毛利蝶子、女子大生。英文なんかを専攻しそのうち就職してお見合い、もしくは職場恋愛でもして寿退社して主婦になることをたぶん親世代は期待しているであろうごく普通の女子。
 牧羽鏡子、同じく女子大生。名前しか知らん。
 扇谷誠、フリーターらしい。
 八ツ屋未来、事務員。工卒で働き始めた勤労女性。
 佐藤絵里、名前しか知らん。
 新藤真理、姉の同級生。多角関係に気づいていたかちょっと怪しい。
 計六人。スケジュール管理だけで頭がぶっちぎれそうな気がするが。色欲に狂った人間は不可能を可能にするらしい。
 六人全員容疑者だが、特にあの姉が怪しまれているのは理由がある。
 あの腐れ外道が死ぬ間際、ちょっと困ったことをしてくれたのだ。
 手に扇を握っていた。それも蝶の絵の付いた。
 刺されて最後の力を振り絞ってその扇を握ったらしい。
 今の段階で分かるのはそれだけだ。
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