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第一幕 襲撃
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喉の渇きを覚えて私は適当なカフェに入った。
冷たい飲み物を頼むと、仕事のノートを取り出す。
〈イジーアス 人を馬鹿にするなライサンダー、確かに私はこの男を愛している。
私のものは私の愛しているものにやるんだ)
真夏の世の夢、舞台の脚本だが、読み物として読んでもなかなか楽しい。
シェイクスピア作品でも人気は高い。
しかし、なかなか訳するとなると難物だ。
第二幕のボトム。単語をとんでもない単語と読み違える。
その単語は必ず似たような響きでなければならない。
原文の言語でその言葉の響きが似ていても、訳した言語で似ているとは限らないため、適当な言葉を用意しなければならない。
これがなかなか難しい。
似た言葉で、とんでもない意味。
私の頭はしばらく単語で埋め尽くされた。
考え込んでいるうちに、私は周囲の様子に対して迂闊になっていたのかもしれない。
何者かが、背後に回り込んで、冷たい水を頭からかけたのにも気づかなかったからだ。
まず最初に私がしたのは、冷たさを感じた瞬間に、手に盛ったノートを体から引き離して髪から滴る水から守ることだった。
そして背後を振り返る。
この街に来たのは幼い頃が最後だ、だから、伯父一家しかこの街に知り合いはいないはずだ。
そして全く見ず知らずの若い女が私の背後に立っていた。
さっき私の頭からかけた水の入っていたコップを持って、まるで汚物を見るようなさげすんだ表情をしている。
「こんなところで何をしているの、マンドリン、ここは貴女のような女が来るような場所じゃないのよ」
私は人違いを主張してみることにした。
マンドリンの父親と、私の父親は兄弟で、そして私の母とマンドリンの母親に至っては双子の姉妹だった。
双方幼馴染同士で、それぞれの兄弟と結婚したのだ。そのため、マンドリンと私は従姉妹同士ではあるが、限りなく血統は姉妹に近い。
おそらく兄の花嫁にマンドリンが選ばれる日は来ないだろう。家族が賛成するはずもなく、マンドリンとしても危険は侵さないだろう。
私とマンドリンは幼い頃一緒にいれば双子の姉妹によく間違われた。それは幼い頃だからと思っていたが、結構至近距離で私を見て気づかないところを見ると、今もそうなのだろうか。
店内を見回すが、店の従業員が困ったような顔で、タオルを持って行っていいのだろうかと悩んでいる。
私はノートをテーブルの濡れていない場所に置く。頼んでおいた飲み物はさっきより増えている、もう飲めそうもない。
「貴女、どなた?」
濡れた髪を後ろに撫でつけながら尋ねる。
初対面の相手なんだから当然だが、相手はひるんだ様子もない。
「何よ、文句があるの、マンダリン、あんたみたいな女が真昼間からこんな表を歩いているもんじゃない、恥を知らないの」
「私、マンドリンじゃ、ないの」
私は一言一言はっきりと言ったが、いきなり張り倒された。
「恥知らず」
そう吐き捨てて、その女はさっさと店を出ていく。
「明らかに傷害罪なのに、止めないの?」
店員を横目で見る。
そして私はハンドバックから旅券を取り出す。
「ちょっと、これを見てもらえる」
タオルを手に駆け寄ってきた店員に旅券の署名を見せた。
それで私がマンドリンではないことが分かってもらえた。
「それはそうと、マンドリンの噂って何?」
平身低頭という姿勢でタオルを差し出し、さらに別の飲み物を用意してくれた店員に、聞くだけ聞いてみる。
多分あの女はマンドリンとそれほど親しい付き合いではない気がした。
「ここ一月ほど、ですけど、そのふしだらなとか」
歯に挟まったような言い方だ。
「たぶん、その髪が」
私のレッドブロンド、赤みが強く光沢の強い髪はこの辺りでは珍しく、マンドリンぐらいしかいないらしい。
私の国では珍しいがそれほどいないというわけではないのだが。
伯父は仕事の都合でこの国に引っ越してきたそれも私やマンドリンが幼い頃に。
とりあえず、今晩は伯父のところに泊まれないだろう。適当なホテルを店の人に紹介してもらえないか頼んだ。
冷たい飲み物を頼むと、仕事のノートを取り出す。
〈イジーアス 人を馬鹿にするなライサンダー、確かに私はこの男を愛している。
私のものは私の愛しているものにやるんだ)
真夏の世の夢、舞台の脚本だが、読み物として読んでもなかなか楽しい。
シェイクスピア作品でも人気は高い。
しかし、なかなか訳するとなると難物だ。
第二幕のボトム。単語をとんでもない単語と読み違える。
その単語は必ず似たような響きでなければならない。
原文の言語でその言葉の響きが似ていても、訳した言語で似ているとは限らないため、適当な言葉を用意しなければならない。
これがなかなか難しい。
似た言葉で、とんでもない意味。
私の頭はしばらく単語で埋め尽くされた。
考え込んでいるうちに、私は周囲の様子に対して迂闊になっていたのかもしれない。
何者かが、背後に回り込んで、冷たい水を頭からかけたのにも気づかなかったからだ。
まず最初に私がしたのは、冷たさを感じた瞬間に、手に盛ったノートを体から引き離して髪から滴る水から守ることだった。
そして背後を振り返る。
この街に来たのは幼い頃が最後だ、だから、伯父一家しかこの街に知り合いはいないはずだ。
そして全く見ず知らずの若い女が私の背後に立っていた。
さっき私の頭からかけた水の入っていたコップを持って、まるで汚物を見るようなさげすんだ表情をしている。
「こんなところで何をしているの、マンドリン、ここは貴女のような女が来るような場所じゃないのよ」
私は人違いを主張してみることにした。
マンドリンの父親と、私の父親は兄弟で、そして私の母とマンドリンの母親に至っては双子の姉妹だった。
双方幼馴染同士で、それぞれの兄弟と結婚したのだ。そのため、マンドリンと私は従姉妹同士ではあるが、限りなく血統は姉妹に近い。
おそらく兄の花嫁にマンドリンが選ばれる日は来ないだろう。家族が賛成するはずもなく、マンドリンとしても危険は侵さないだろう。
私とマンドリンは幼い頃一緒にいれば双子の姉妹によく間違われた。それは幼い頃だからと思っていたが、結構至近距離で私を見て気づかないところを見ると、今もそうなのだろうか。
店内を見回すが、店の従業員が困ったような顔で、タオルを持って行っていいのだろうかと悩んでいる。
私はノートをテーブルの濡れていない場所に置く。頼んでおいた飲み物はさっきより増えている、もう飲めそうもない。
「貴女、どなた?」
濡れた髪を後ろに撫でつけながら尋ねる。
初対面の相手なんだから当然だが、相手はひるんだ様子もない。
「何よ、文句があるの、マンダリン、あんたみたいな女が真昼間からこんな表を歩いているもんじゃない、恥を知らないの」
「私、マンドリンじゃ、ないの」
私は一言一言はっきりと言ったが、いきなり張り倒された。
「恥知らず」
そう吐き捨てて、その女はさっさと店を出ていく。
「明らかに傷害罪なのに、止めないの?」
店員を横目で見る。
そして私はハンドバックから旅券を取り出す。
「ちょっと、これを見てもらえる」
タオルを手に駆け寄ってきた店員に旅券の署名を見せた。
それで私がマンドリンではないことが分かってもらえた。
「それはそうと、マンドリンの噂って何?」
平身低頭という姿勢でタオルを差し出し、さらに別の飲み物を用意してくれた店員に、聞くだけ聞いてみる。
多分あの女はマンドリンとそれほど親しい付き合いではない気がした。
「ここ一月ほど、ですけど、そのふしだらなとか」
歯に挟まったような言い方だ。
「たぶん、その髪が」
私のレッドブロンド、赤みが強く光沢の強い髪はこの辺りでは珍しく、マンドリンぐらいしかいないらしい。
私の国では珍しいがそれほどいないというわけではないのだが。
伯父は仕事の都合でこの国に引っ越してきたそれも私やマンドリンが幼い頃に。
とりあえず、今晩は伯父のところに泊まれないだろう。適当なホテルを店の人に紹介してもらえないか頼んだ。
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