4 / 22
第二幕 再会
しおりを挟む
ホテルまで簡単な地図を書いてもらった。
しかし計算外だ。伯父の家に泊めてもらう予定だったので余計な出費がかさんでしまった。
基本的に裕福な家の娘であるわたしは、稼いだお金はほとんど使わず貯めていたので結構な資産がある。しかし、世の中何が起こるかわからない、極力減らしたくないとも思っていた。
それに帰りたくても帰れない事情がある、どうしてもしばらく家に戻るわけにはいかない。
頬にかかる長い髪を指先で弄ぶ。
このレッドブロンドが目印になるというなら、鬘をかぶるか帽子に押し込んでしまおうか。
そんなことを考えながら歩いていると目の前を見知らぬ男が立っている。体をよけようとすると別の男が道をふさぐ。
背後を振り返ると、また別の男がいる。
着ているものはまぶしいほどの原色。
赤や黄色、青、絵の具をじかに塗りたくったかのようなどぎつい配色はまるで有毒生物の警戒色のようだ。
このあたりのまっとうな紳士達はグレーやライトブラウンの穏やかな配色の衣装をお召しになっている。
それを考えれば、確実にまっとうな紳士ではないだろう。
そして、犯罪者というものも本職はもう少し地味な格好をしているものだ、それを考えれば、これから道を踏み外そうとしている男達というところか。
そしてこんな男達に取り囲まれた理由は、推測されるに二つ。
旅行者だから金を持っているだろうと思われ、実際持っている。強盗か、ふしだらという噂のあるマンドリンと間違われ、婦女暴行。
しまった、鬘や帽子をもっと早く思いつくべきだった。
取り囲まれ、絶体絶命というやつだ。
かつて読んだ転生者チートなど私には無縁だ。私はただの文学系転生者なのだから。
トランクは重すぎて振り回すに不向き、そしてハンドバックは軽すぎて、武器として役には立たないだろう。
顔を見ればどれも不細工で、実に嫌な笑いを浮かべている。
じりじりと男達の輪が狭まってくる。
私は嫌な汗をかきながら周囲を見回す。しかし男達を見た誰もがその場で後ろを向けてその場を立ち去ってしまう。
なんて民度の低い街だ。
ごつごつしたてが私の手をつかもうとしたときいきなり砂ぼこりが私の周りを包んだ。
スカーフで頭を包んだ女が私に駆け寄ってくる。そして、一人の男が何もない空間に殴り倒されたように吹っ飛んだ。
どうやら魔法を使える人間らしい。
魔法使いがやってきたと知って、男達は自らの不利を悟り、足早にその場を後にする。
きちんと吹っ飛ばされた相手も引っ張っていった。
魔法が使える人間もこの世界には昔からいる。
その存在は数百人に一人、転生者より生まれる確率は高いらしい。
しっかりと統計を取った話ではないので何となく感覚で言われている。
女が私の腕をつかんだ、スカーフの中の顔は一瞬鏡を見ているのかと思った。
「マンダリン?」
「もしかして、マグダレン?」
互いに顔を見合わせて、しばらく経ち尽くした。
「これからホテルに部屋を借りに行くの、その前に鬘を使うわ」
私はトランクから鬘を取り出した。
どこにでもいる、栗色の巻き毛の鬘だ。
鬘をかぶって、ホテルに向かう。旅券には白黒の肖像画ついている。鬘でも問題はないだろう。
「どうしてホテル? 家じゃないの?」
「家に行ったら伯父様に尼寺に連行されそうになったのよ」
見れば見るほど私にそっくりだ、むかし双子と間違われたが、今でもたぶん間違われる。
「いったい何があったのよ」
「私にもわからないの」
マンダリンの顔が泣きそうにゆがんだ。
しかし計算外だ。伯父の家に泊めてもらう予定だったので余計な出費がかさんでしまった。
基本的に裕福な家の娘であるわたしは、稼いだお金はほとんど使わず貯めていたので結構な資産がある。しかし、世の中何が起こるかわからない、極力減らしたくないとも思っていた。
それに帰りたくても帰れない事情がある、どうしてもしばらく家に戻るわけにはいかない。
頬にかかる長い髪を指先で弄ぶ。
このレッドブロンドが目印になるというなら、鬘をかぶるか帽子に押し込んでしまおうか。
そんなことを考えながら歩いていると目の前を見知らぬ男が立っている。体をよけようとすると別の男が道をふさぐ。
背後を振り返ると、また別の男がいる。
着ているものはまぶしいほどの原色。
赤や黄色、青、絵の具をじかに塗りたくったかのようなどぎつい配色はまるで有毒生物の警戒色のようだ。
このあたりのまっとうな紳士達はグレーやライトブラウンの穏やかな配色の衣装をお召しになっている。
それを考えれば、確実にまっとうな紳士ではないだろう。
そして、犯罪者というものも本職はもう少し地味な格好をしているものだ、それを考えれば、これから道を踏み外そうとしている男達というところか。
そしてこんな男達に取り囲まれた理由は、推測されるに二つ。
旅行者だから金を持っているだろうと思われ、実際持っている。強盗か、ふしだらという噂のあるマンドリンと間違われ、婦女暴行。
しまった、鬘や帽子をもっと早く思いつくべきだった。
取り囲まれ、絶体絶命というやつだ。
かつて読んだ転生者チートなど私には無縁だ。私はただの文学系転生者なのだから。
トランクは重すぎて振り回すに不向き、そしてハンドバックは軽すぎて、武器として役には立たないだろう。
顔を見ればどれも不細工で、実に嫌な笑いを浮かべている。
じりじりと男達の輪が狭まってくる。
私は嫌な汗をかきながら周囲を見回す。しかし男達を見た誰もがその場で後ろを向けてその場を立ち去ってしまう。
なんて民度の低い街だ。
ごつごつしたてが私の手をつかもうとしたときいきなり砂ぼこりが私の周りを包んだ。
スカーフで頭を包んだ女が私に駆け寄ってくる。そして、一人の男が何もない空間に殴り倒されたように吹っ飛んだ。
どうやら魔法を使える人間らしい。
魔法使いがやってきたと知って、男達は自らの不利を悟り、足早にその場を後にする。
きちんと吹っ飛ばされた相手も引っ張っていった。
魔法が使える人間もこの世界には昔からいる。
その存在は数百人に一人、転生者より生まれる確率は高いらしい。
しっかりと統計を取った話ではないので何となく感覚で言われている。
女が私の腕をつかんだ、スカーフの中の顔は一瞬鏡を見ているのかと思った。
「マンダリン?」
「もしかして、マグダレン?」
互いに顔を見合わせて、しばらく経ち尽くした。
「これからホテルに部屋を借りに行くの、その前に鬘を使うわ」
私はトランクから鬘を取り出した。
どこにでもいる、栗色の巻き毛の鬘だ。
鬘をかぶって、ホテルに向かう。旅券には白黒の肖像画ついている。鬘でも問題はないだろう。
「どうしてホテル? 家じゃないの?」
「家に行ったら伯父様に尼寺に連行されそうになったのよ」
見れば見るほど私にそっくりだ、むかし双子と間違われたが、今でもたぶん間違われる。
「いったい何があったのよ」
「私にもわからないの」
マンダリンの顔が泣きそうにゆがんだ。
2
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!
小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。
これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。
真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる