たとえるならばそれは嵐

karon

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展望を語る

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 皇族として戦場に出た龍炎は、てきぱきと指示を飛ばした。
 すでにあらかじめ状況を見て作戦を立てていたのだろう。それを一歩引いた場所で、朱雷は見ていた。
 指揮系統が一本化されたことで、全体の動きはかなり良くなっていた。そして、士気が異様に上がっていた。
 その一挙一動に敏感に反応する兵士たち。元居たものも新しく来たものも関係なく一様に龍炎に従う。
 その挙手に全軍が一丸となる。皇族とわかる以前から才能のある軍人だと思っていた。だが、陣頭で指揮を執るその姿を見たとき、まだ自分は見くびっていただと思った。
 勝負はあちらに相当の痛手を負わせる形で終わった。
 敵、味方の死体を片付けている間に龍炎達はこれからを話し合うことになる。
 そっと聞いてみた。かつての無謀極まりない計画を実行に移すつもりなのかと。
 にいっと笑うその顔を見た時、ああ、こいつ本気だと確信した。
 自分には無謀に見えたことも、こいつには無謀ではないのだなと思った。そして、その狂気すらはらむ笑顔に自分も、この男に魅入られたと思った。
 人の魂を食らうとはこのことだと思う。それでも自分はほかのもののような狂信はしていないと思われた。
 それでも、どれほど無謀な賭けであろうと、逃げるつもりはなかった。

 韓将軍負傷の悪だくみを聞いた後、龍炎は怪訝そうな顔をした。
「あまり驚いていないな」
「驚いてはいるが」
 しかし龍炎は首をひねったままだ。
「訳ありだろうと薄々察してたからな」
「なんで?」
 ああ、こいつ本気で分かっていないと朱雷はため息をついた。
「お前、結構育ちがいいだろう」
 実際悪いどころではなかった、この国で一番育ちにい家系に生まれている。
「そういうのって、わかるのか?」
「お前、読み書きができるだろう、餓鬼の頃にそれなりに裕福な暮らしをしていた証拠だ。そんな餓鬼がこんな場所に来る。それはお家騒動でもあったと考えるさ」
 龍炎が小難しい本を読んでいる姿を何度か見た。ああいうものを読みこなすほど教養のある人間はこの国田は少数派だ。
 この国の人間は幼少期に教育を受けられるのはせいぜい十分の一ほどだ。
 ある程度成長してから金を払って教育を受ける者もいるが。文盲のほうが多い。
 教育を子供に授ける機関も限られているので仕方のない状況ではあるが。
 どうやら龍炎はこの国の識字率を知らなかったらしい。
 教育を当たり前に受けられる環境にあると案外気づかないものだ。
「字が読めない連中が結構いただろう」
「そういえば、いたな」
「この国の大多数がそうだぞ」
「そうか、それなら目標ができたな」
 龍炎は宙を見た。
「識字率の向上って、どうやるんだろうな」
「知らんよ」
 国を獲るのは決定事項なんだなと朱雷は思った。
「今回の失敗はあちらでは相当な痛手だろうし、その間に国をまとめないとな、最大の敵は時間かな」
 がりがりと頭をかく。
「そういえばお前皇子だった、敬語、忘れてたわ」
 龍炎はそのままあっけにとられた顔をして笑った。
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