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宿泊第一夜
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鈿花は小さくため息をついた。
いくら何でも妃が馬車の中で眠るわけがない。夜は適当なその土地の豪族なりの屋敷に泊めてもらう手はずになっていた。
妃全員というわけではない。そんな広い屋敷はない。
それぞれの妃は分散して、そんなお屋敷が固まってあるわけではないのでそれぞれの位置は離れている。
しかし、どういう手違いがあったのか一つ屋敷に二人の妃が止まることになった。
一人は貴妃、そして厄介なことにもう一人は淑妃だった。
皇帝と皇后はもっと先に行った場所の屋敷に泊まっている。
かつて貴妃を追い落とすために協力しろと要請してきた淑妃と、貴妃を同じお屋敷に泊めるとは何を考えているんだと。この宿を手配した役人に思わず想像で襟首を泡を吹くまで締め上げていた。
それぞれ無表情だ。妙な真似をされた場合、こちらは足の不自由な妊婦だ。不利は間違いない。
鈿花は重心を移す。
その鈿花を貴妃は手で制した。
「今晩はご一緒ですわね」
にっこりと笑う。そちらのほうが大所帯ですもの、便宜は図らせていただきますわ」
貴妃の連れは鈿花を入れて三人、たいして相手は十人を超える数の従者を連れていた。
「ああ、そう、そうさせてもらうわ」
そう言いつつ、目をすがめるしぐさに隠し切れない殺意が宿っている。
使う部屋は、淑妃が二階、貴妃が一階だった。
妊婦ということを考慮して、階段を極力使わせないようにということだろうか。
考慮することはもっと他にあるのではないかと思われた。
元と李恩は徳妃についている。徳妃ははるか後方にいるので、連絡のつけようがない。
貴妃が一階なのは、妊婦だからというだけでなく、おそらくこちらのほうが部屋数が少ないからだというのもわかる。
間違いなく、二階のほうが広々とした客間になっているのだろう。
少人数なので、狭くても部屋数が少なくとも困らないので別にいいが。
広い主寝室を貴妃が、控えの間にある寝台を三人で交代して使う。
なぜかというと、旅先は何があるかわからないので、いざという時のために、だれか一人は起きていなければならない。夜は割り当てを決めておいて後退して休むことになっている。
まず、最初は鈿花が、寝室についていた。
相手は早々に眠ってしまい、明かりもかすかなので、何をして気を紛らわすこともできない。
退屈と戦う時間と相成った。
何しろ、淑妃が、同じ宿に泊まっているのだ、居眠りなどとてもできない。
かすかな寝息が聞こえてきた。
長い髪をくくっただけの姿でぐっすりと眠っている。
寝顔に、かつての顔を思い出す。
少し頬がそげた。
夜中に起きだしてもいいように、水差しの水を取り替えたり、こまごまとした雑用をこなす。
不意に小さな声がした。
「起きたの?」
「香樹?」
香樹とは、いくばくか年上だった、近所のお姉さんだった。
「どうしたの?」
「ごめんなさい」
それから再び寝息が聞こえた。
「昔の夢でも見ているのかしら」
いくら何でも妃が馬車の中で眠るわけがない。夜は適当なその土地の豪族なりの屋敷に泊めてもらう手はずになっていた。
妃全員というわけではない。そんな広い屋敷はない。
それぞれの妃は分散して、そんなお屋敷が固まってあるわけではないのでそれぞれの位置は離れている。
しかし、どういう手違いがあったのか一つ屋敷に二人の妃が止まることになった。
一人は貴妃、そして厄介なことにもう一人は淑妃だった。
皇帝と皇后はもっと先に行った場所の屋敷に泊まっている。
かつて貴妃を追い落とすために協力しろと要請してきた淑妃と、貴妃を同じお屋敷に泊めるとは何を考えているんだと。この宿を手配した役人に思わず想像で襟首を泡を吹くまで締め上げていた。
それぞれ無表情だ。妙な真似をされた場合、こちらは足の不自由な妊婦だ。不利は間違いない。
鈿花は重心を移す。
その鈿花を貴妃は手で制した。
「今晩はご一緒ですわね」
にっこりと笑う。そちらのほうが大所帯ですもの、便宜は図らせていただきますわ」
貴妃の連れは鈿花を入れて三人、たいして相手は十人を超える数の従者を連れていた。
「ああ、そう、そうさせてもらうわ」
そう言いつつ、目をすがめるしぐさに隠し切れない殺意が宿っている。
使う部屋は、淑妃が二階、貴妃が一階だった。
妊婦ということを考慮して、階段を極力使わせないようにということだろうか。
考慮することはもっと他にあるのではないかと思われた。
元と李恩は徳妃についている。徳妃ははるか後方にいるので、連絡のつけようがない。
貴妃が一階なのは、妊婦だからというだけでなく、おそらくこちらのほうが部屋数が少ないからだというのもわかる。
間違いなく、二階のほうが広々とした客間になっているのだろう。
少人数なので、狭くても部屋数が少なくとも困らないので別にいいが。
広い主寝室を貴妃が、控えの間にある寝台を三人で交代して使う。
なぜかというと、旅先は何があるかわからないので、いざという時のために、だれか一人は起きていなければならない。夜は割り当てを決めておいて後退して休むことになっている。
まず、最初は鈿花が、寝室についていた。
相手は早々に眠ってしまい、明かりもかすかなので、何をして気を紛らわすこともできない。
退屈と戦う時間と相成った。
何しろ、淑妃が、同じ宿に泊まっているのだ、居眠りなどとてもできない。
かすかな寝息が聞こえてきた。
長い髪をくくっただけの姿でぐっすりと眠っている。
寝顔に、かつての顔を思い出す。
少し頬がそげた。
夜中に起きだしてもいいように、水差しの水を取り替えたり、こまごまとした雑用をこなす。
不意に小さな声がした。
「起きたの?」
「香樹?」
香樹とは、いくばくか年上だった、近所のお姉さんだった。
「どうしたの?」
「ごめんなさい」
それから再び寝息が聞こえた。
「昔の夢でも見ているのかしら」
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