たとえるならばそれは嵐

karon

文字の大きさ
58 / 73

見せしめ

しおりを挟む
 三日の猶予それが吉と出るか凶と出るか。月姫は様々な武器類を屋根に上げるのを見ていた。
 陣地はできるだけ上にあるのが望ましい。そう老師は言った。
 モノは上から下に落ちる。矢などを上から下にいたほうが殺傷力は増すし、見晴らしもいい。
 理屈としてはわかる。
 だが、それを実感としてはわからない。自分はチンピラと小競り合いをしたことはあっても実戦など経験していいのだから。
 普段着ていた着物から、他の少年達の小さくなった服を借りた。
 灰色の男物の着物。長い髪だけはどうしようもないので、後ろでまとめて、乱れないように固く編んでおいた。
「ああ、元、何事」
 ほかの場所で作業をしていたはずの元が慌ててこちらにやったきた。
「佶の家がなんか夜逃げしたみたいだ」
 それはとっくにわかっていたはずだ。
「結構な数の使用人が置き去りにされたみたいで、右往左往してたぜ」
「ふうん、あんなふうに話してたから、それなりの数連れて行くと思ったけどねえ」
「あの馬鹿の勝手な行動ってやつじゃねえか?」
 あの恩着せがましい顔が浮かんだ。
「まあ、結局あてにならないって最初からわかっていたからいいけど、それにいなくなってくれたほうがこちらとしては都合がいい」
 指揮系統が複数になれば混乱する。これも老師の言葉だが、それに関しては痛いほどわかる。絶対あの老婆はいらない口出しをして、こちらを混乱させたに決まっている。
「あの連中、残らず取り残されたみたいだな」
 佶家にやとわれていた自警団と称する破落戸のことだ。
「こちらに来られても、どうしようもないが、とりあえずできる限り排除でお願いしたいところね」
「まったくだ」

 生き残るためには手段を選んでいられない。それは誰にとっても同じことだった。
 破落戸たちが考えたのは現在、彼らに対抗する手段として、投入された愚連隊が反逆ののろしを上げつつあるということを密告することだった。
 自分たちが生き残るためなら、自分たちの何十倍の数の人間が死のうと関係ない。
 彼らを見捨てた主と同じ発想だ。
 そして彼らのできる生き方はたった一つしかない。
 強いものに媚びへつらい、それによって活路を開く。
 媚びる材料はあった。あの腹立たしい愚連隊が、反乱軍相手に罠を仕掛けている。
 愚連隊の頭を張っているいけ好かない少女が指揮を執っているらしい。
 復讐にはちょうどいい。
 手土産もあることだしと彼らは浮かれて反乱軍に近づいていった。
 自分達だけが助かるなら、街の人間がどれほど殺されたってかまわない。そして常に自分の都合のいいように物事を考えてきたのだ。
 そして反乱軍の姿が見えた時ふと胸に衝撃を受けた。
 下を見ると胸に矢が刺さっている。
 隣を歩いていた仲間の頭にも矢が刺さっている。
 そしてバタバタと倒れていく。そして自分と仲間の血だまりに倒れ伏す彼らはただ空をつかんでいた。
 虚ろな目を見下ろす誰かが適当にさらしておけと告げた。
 烏が彼らに向かってゆったりと舞い降りていく。
 それを追い払おうとする人間は誰もいなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...