恋の無駄騒ぎ

karon

文字の大きさ
5 / 33

第四章

しおりを挟む
 レイナートは宴会の準備のために仕事場に詰めていた。
「兄上」
「おや、アントニオ甥はどうした。楽隊はどうしている?」
 弟の姿にレイナートは軽く笑った。
「うちの息子はそれで天手古舞だ。それと妙な話を聞いた」
「妙な話とは」
「夢のような、夢と思ったほうがいいかもしれない」
 何やら思わせぶりなしぐさにレイナートはいらだった。
「いったい何なのだ」
 レイナートの弟アントニオは大きく息をついた。
「ペドロ殿の側近の一人騎士クローディスだが、どうやらお前の娘ヒローインに惚れたらしい」
 レイナートの目が大きく開いた。
「先ほど庭を横切った使用人の一人が聞きつけた。どうやらあの男の恋煩いは重いようだ」
「夢のような話だな、まあ夢と思っておこう。まこととなるなら」
 そういうレイナートの顔はどこか感慨深そうで。
「ヒローインに言うのか」
「ほのめかすぐらいはしてもいいかもしれない、しかしその話をお前にしたのは分別のあるものであろうな。」
「それに関しては、もともと口が堅いし、厳重に口止めもしておいた」
 二人はひそひそと話し合う。

 ペドロの弟ヨハンはどこか物憂げにしていた。
「旦那さま、何やら物思いにふけっておられるようですな」
 ヨハンは白けた目で目の前の部下コンラートを見た。
「知ったことか、ああ、何もかもくだらない」
「そのように気鬱になられても良いことなどありませんよ」
「生まれてこのかた貴の晴れたことがない、良いことなどあったためしもない」
 そう言って忌々し気に空を睨んだ。
「ああまったくあの兄のそばで大輪と咲く薔薇よりも、離れたところで小さく咲くの薔薇になりたいものだ、何もかも兄ばかりがいい思いをする。私に残るのはカスばかり」
 そして壁を拳でたたいた。
「いつかあの首に食らいついてやりたいものだ。さぞやせいせいするだろう」
「どうされました旦那様」
 もう一人の従者がイラついた様子の主に驚いた。
「ポラチョ、どうした」
「先ほどあの方の様子を見てまいりました。城主の御もてなしにご満悦の様子でございました」
「何だ、悪しき知らせか」
 ポラチョはそっと目を伏せた。
「どうやらペドロ様は御縁談を考えておられるようで」
「それはいったい誰と誰の話だ」
「自らの片腕と呼ぶ騎士クローディス殿。そしてその相手は城主レイナートのご息女ヒローイン殿」
 ヨハンはしばらく考え込んでいた。
「なるほど、その試みが破れれば随分と面白いことになりそうだ。あの兄が赤っ恥をかく羽目になるならこちらの気も晴れようそれでどこでそれを聞きつけた」
「ペドロさまとクローディス殿が何やら内緒話、それに関しては少々長くなりますがとにかくその娘語をかき口説きクローディス殿に下げ渡すとか」
「クローディスか、前々から気に食わないと思っていた。あの忠臣面を見るたびに気分がふさぐ」
 そしてヨハンはにんまりと笑う。
「今はおとなしくしていよう、後の楽しみのためにな、ポラチョお前は俺の役に立ってくれような」
 ポラチョはその場で頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...