恋の無駄騒ぎ

karon

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第十八章

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「ご機嫌ですな」
 ペドロの弟ヨハンが陰鬱に呼びかけた。
「おやどうした弟よ、いつになく機嫌が悪いようだが」
 ヨハンは大きくため息をついた。
「兄上、よんどころないことを相談せねばならないのです」
 いかにも絞り出すような声、それにただならぬものを感じてペドロは弟に近寄った。
「おや、では二人で話すことにしようか?」
 クローディスはそっとその場を離れようとした。
「クローディス殿にとってとても大変なことでございます、立ち去らないでください」
「私にとってですって」
 いったい何を言われるのかとクローディスは目を白黒させた。
「明日はあなた様の婚礼のはず」
「確かにその通りですが」
 いきなり自分に話が飛んだのでクローディスは戸惑った。
「わかり切ったことだろう」
「ああ、なんということを知ってしまったのだろう」
 ヨハンは大きく叫んでそのまま顔を両手で覆った。そしてさめざめと泣き真似をして見せた。
「いったい何ごとです、何故そのように取り乱すのです」
 さすがに相手のあまりに大仰なしぐさにクローディスの方がとりみだした。
「貴殿が私に対してあまり好意的でないと思っておることはわかっております。また私が貴殿に対し含むことがあると誤解していることもですが、これを黙って見過ごすわけにはまいりません」
 あまりの剣幕にペドロとクローディスの二人は茫然として相手の狂態を見ていた。
「兄上、貴方は大切な部下の花嫁を見誤られましたな、明日には花嫁になろうというのにあの娘は夫となる男以外の男と逢引していたのです」
「まさか、あの清純なヒローインが」
 クローディスはあまりのことに気色ばんだ。
「清純、ああ、見た目だけは清純ですな、ですがあれは見てくれだけの張りぼて、その中身は何が詰まっているかは神のみぞ知るというわけで」
「ああ、あまりにひどい、どうしてそんな誹謗中傷を」
 クローディスは危うくヨハンの首を絞めそうになるほど憤った。
「兄上、それならば証拠を見せましょう、あの淫売は今宵もあの男を引き入れるでしょうな、それを目の当たりにすれば兄上もクローディス殿も現実を受け入れるでしょうから」
 ヨハンはそう言って深夜にヒローインの部屋の前に来るがいいと二人をそそのかした。
 その時、あまりの衝撃に打ちのめされていた二人は気づかなかった。
 先ほどまではいかにもしおらしい顔をしていたヨハンが今ではにんまりと笑っていることを。
 そして、二人がヨハンの手引きでヒローインの私室のそばに控えていた。
 深夜ゆっくりと扉が開いた。
 若い女がヒローインの寝室から出てきた。
「あれはヒローインの外套だ」
 クローディスはそう呻くように呟く。

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