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第十九章
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滑るように女は廊下を進む。
その足取りは静かだが迷う様子もない。
そして庭園に出た。夜の庭園灯りは月明かりだけ、女の姿は陰に溶け込む。
そしてもう一つ影が現れた。
それは体格のいい男だとだけわかった。物腰を見れば騎士以上の身分だろう。
男が差し出した手を女は受け取る。
そして抱擁が始まった。
二人はぴったりと抱き合ってうむことなく口づけを送りあっていた。
それを見ているものがあると気付いている様子はなかった。
凍り付いたようにクローディスは二人を見ていた。
「嘘だ、私にはあんな情熱的にふるまったことなど一度も」
気取られぬように小さな声で、しかし血を吐くようなうめき声。
二人がひたすら抱き合っているのを茫然と見ていた。
そして二人が藪の中に倒れこんだ時、耐えきれぬとその場を後にした。
「何か音がしませんかしら」
マーゴットが不思議そうな顔で呟いた。
ポラチョはマーゴットの着ている外套を撫でながら薄く笑う。
「やはり上等な外套が似合うな。美人はやっぱり違う」
「ああ、これはヒローイン様からこっそり借りたものですから、でもやはり気が引けますわ、汚さないように皺にならないようにしなければ」
そうするようにマーゴットをそそのかしたのがほかならぬポラチョであったのだが。ヒローインの外套はどうやら狙った効果を上げたようだ。
「ああ、気にしなくても、どうせあのお姫様はそんな外套何十も持っているだろうに」
「それでも借りたものですもの、もちろんちゃんと返せばお優しいヒローイン様は快く私を許してくださるでしょうけれど」
ポラチョは後ろをこっそりと覗き見た。
その場に佇む主の姿を見つけてにんまりと笑う。
どうやら首尾よく事が運んだようだ。これで一千枚の金貨が手に入る。
欲深い笑みを浮かべてポラチョは再び女をかき抱いた。
「こうなれば私も覚悟を決めなければ」
先ほどのあまりの光景に頭がおかしくなりそうだがクローディスは言葉を絞り出した。
「どうするつもりだ?」
主であるペドロがそう言った。
「むろん弾劾します。あの淫売にふさわしい扱いをするまで、婚礼の場ではっきりとあの女の罪を暴き立ててやります」
クローディスは怒りのあまり震えながらそう言った。
「仕方あるまい、私としてもあの女があのようだったとは、人を見る目も曇ったものだ」
そんな会話がなされているとは知らず、ヒローインは夢の中だった。
その足取りは静かだが迷う様子もない。
そして庭園に出た。夜の庭園灯りは月明かりだけ、女の姿は陰に溶け込む。
そしてもう一つ影が現れた。
それは体格のいい男だとだけわかった。物腰を見れば騎士以上の身分だろう。
男が差し出した手を女は受け取る。
そして抱擁が始まった。
二人はぴったりと抱き合ってうむことなく口づけを送りあっていた。
それを見ているものがあると気付いている様子はなかった。
凍り付いたようにクローディスは二人を見ていた。
「嘘だ、私にはあんな情熱的にふるまったことなど一度も」
気取られぬように小さな声で、しかし血を吐くようなうめき声。
二人がひたすら抱き合っているのを茫然と見ていた。
そして二人が藪の中に倒れこんだ時、耐えきれぬとその場を後にした。
「何か音がしませんかしら」
マーゴットが不思議そうな顔で呟いた。
ポラチョはマーゴットの着ている外套を撫でながら薄く笑う。
「やはり上等な外套が似合うな。美人はやっぱり違う」
「ああ、これはヒローイン様からこっそり借りたものですから、でもやはり気が引けますわ、汚さないように皺にならないようにしなければ」
そうするようにマーゴットをそそのかしたのがほかならぬポラチョであったのだが。ヒローインの外套はどうやら狙った効果を上げたようだ。
「ああ、気にしなくても、どうせあのお姫様はそんな外套何十も持っているだろうに」
「それでも借りたものですもの、もちろんちゃんと返せばお優しいヒローイン様は快く私を許してくださるでしょうけれど」
ポラチョは後ろをこっそりと覗き見た。
その場に佇む主の姿を見つけてにんまりと笑う。
どうやら首尾よく事が運んだようだ。これで一千枚の金貨が手に入る。
欲深い笑みを浮かべてポラチョは再び女をかき抱いた。
「こうなれば私も覚悟を決めなければ」
先ほどのあまりの光景に頭がおかしくなりそうだがクローディスは言葉を絞り出した。
「どうするつもりだ?」
主であるペドロがそう言った。
「むろん弾劾します。あの淫売にふさわしい扱いをするまで、婚礼の場ではっきりとあの女の罪を暴き立ててやります」
クローディスは怒りのあまり震えながらそう言った。
「仕方あるまい、私としてもあの女があのようだったとは、人を見る目も曇ったものだ」
そんな会話がなされているとは知らず、ヒローインは夢の中だった。
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