吸血鬼

痛む女

　あの人はとても優しい人だった。
　いつだって私に寄り添いかばってくれるような優しい人。
　それがいつの間にか変わってしまった。
　私の髪を掴んで壁に叩きつける。
　骨がきしむ音がした。
　痛い痛い痛い。
　それだけが頭の中でこだまする。
　以前と同じ優しい笑顔であの人は倒れた私を腕をつかんで引き上げる。
　掴まれた腕はとても痛い。強引に引き上げられて腕に体重がかかりミシミシと音がする。
　彼の手に刃物がある。
　私の胸元にその刃先を滑らせた。
　生暖かい血が流れて。
「ああ、奇麗だね」
　彼はそう言って笑う。
　彼は私の身体が血が流れるたびにとてもうれしそうに笑う。
　そして私に口づけした。
　何度も私に囁く。
「愛してる。愛してる」
　優しかったままの彼と同じようにささやく言葉。
　痛い痛い痛い。
　私の頭はそのままその言葉に埋め尽くされた。