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壊れた茶碗は戻らない
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テオドールはぼんやりと父とセシリアのやり取りを見ていた。
二人は向かい合わせに座って、お茶の時間を楽しんでいる。
「どうかな、わかりそう?」
にやにやと時の妖精がテオドールの横で笑う。
「わかるも何も」
父は仕事をして、セシリアは基本部屋にこもって読書家裁縫さもなければ園芸三昧。
二人は顔を合わせても、普通だ。
二人顔を見合わせて食事をし、朝起きれば挨拶をし、セシリアの花壇に極力父は近寄るまいとして、それを気付かないのか気づかぬふりか引きずっていくセシリアという構図を何度も見た。
言ってみれば普通に仲良くしている。
それに、セシリアはずいぶんとテオドールの予想とは外れた女だった。
セシリアが悪い、セシリアが悪い。子供の頃から聞いていた母の呟く声。
それによってセシリアという女性の人間性にテオドールは偏見を大きく育てていた。
だがセシリアは普通の善良な女性に見えた。
そしてテオドールの目からしても子供っぽい。
「なんだか予想とずいぶん違う、それはわかった」
過去を知って何ができると言うのか、今更ながら、テオドールはこの提案を後悔していた。
この館はずいぶんと明るい。見れば確かに見覚えのある建物なのに、テオドールの記憶の中の館はずっと薄暗かったように思える。
果断に生えている植物。それも、テオドールの記憶からすれば小さいものが大きいのに、緑の色合いもずっと鮮やかな気がする。
セシリアが何をしてあの館をああも変えてしまったのか、わからないけれど。それはすでに終わったこと。それをテオドールが何をすれば元に戻るというのだろう。
壊れた茶碗はどうやって壊れたか分かったとしてもそれを元に戻すことなどできはしないのに。
能天気な顔で焼き菓子などつまんでいる二人に理不尽な怒りが込み上げてきた。
誰のせいでこんなややこしいことになっているんだ。
父の側近が険しい顔でお茶会を中断させた。
耳元で何事か囁くと父の表情もこわばる。
「どうなさいましたの?」
さすがに由々しい事態と気付いたのかセシリアも不安そうに問いかけてきた。
「いや、これから俺は中座する。貴女はまだお茶菓子が残っているからそれを食べていなさい」
そう言って父はあわただしく席を立つ。残されたセシリアは所在投げに茶碗をもてあそんでいたが、クッキーの乗った皿を持ち上げると、後ろで控えていた女中に渡した。
「食べる気がしなくなったの、貴女が食べて」
そう言ってテーブルに肘をついて、掌に顎を乗せる。
「お嬢様、お行儀が」
その格好を見た女中がたしなめても、セシリアはそのまま黙りこんでしまった。
テオドールはこのままセシリアが動かないと予測して、あわただしく席を立った父の後を追うことにした。
二人は向かい合わせに座って、お茶の時間を楽しんでいる。
「どうかな、わかりそう?」
にやにやと時の妖精がテオドールの横で笑う。
「わかるも何も」
父は仕事をして、セシリアは基本部屋にこもって読書家裁縫さもなければ園芸三昧。
二人は顔を合わせても、普通だ。
二人顔を見合わせて食事をし、朝起きれば挨拶をし、セシリアの花壇に極力父は近寄るまいとして、それを気付かないのか気づかぬふりか引きずっていくセシリアという構図を何度も見た。
言ってみれば普通に仲良くしている。
それに、セシリアはずいぶんとテオドールの予想とは外れた女だった。
セシリアが悪い、セシリアが悪い。子供の頃から聞いていた母の呟く声。
それによってセシリアという女性の人間性にテオドールは偏見を大きく育てていた。
だがセシリアは普通の善良な女性に見えた。
そしてテオドールの目からしても子供っぽい。
「なんだか予想とずいぶん違う、それはわかった」
過去を知って何ができると言うのか、今更ながら、テオドールはこの提案を後悔していた。
この館はずいぶんと明るい。見れば確かに見覚えのある建物なのに、テオドールの記憶の中の館はずっと薄暗かったように思える。
果断に生えている植物。それも、テオドールの記憶からすれば小さいものが大きいのに、緑の色合いもずっと鮮やかな気がする。
セシリアが何をしてあの館をああも変えてしまったのか、わからないけれど。それはすでに終わったこと。それをテオドールが何をすれば元に戻るというのだろう。
壊れた茶碗はどうやって壊れたか分かったとしてもそれを元に戻すことなどできはしないのに。
能天気な顔で焼き菓子などつまんでいる二人に理不尽な怒りが込み上げてきた。
誰のせいでこんなややこしいことになっているんだ。
父の側近が険しい顔でお茶会を中断させた。
耳元で何事か囁くと父の表情もこわばる。
「どうなさいましたの?」
さすがに由々しい事態と気付いたのかセシリアも不安そうに問いかけてきた。
「いや、これから俺は中座する。貴女はまだお茶菓子が残っているからそれを食べていなさい」
そう言って父はあわただしく席を立つ。残されたセシリアは所在投げに茶碗をもてあそんでいたが、クッキーの乗った皿を持ち上げると、後ろで控えていた女中に渡した。
「食べる気がしなくなったの、貴女が食べて」
そう言ってテーブルに肘をついて、掌に顎を乗せる。
「お嬢様、お行儀が」
その格好を見た女中がたしなめても、セシリアはそのまま黙りこんでしまった。
テオドールはこのままセシリアが動かないと予測して、あわただしく席を立った父の後を追うことにした。
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