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生まれる前の場所
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再び、過去へと舞い戻る。
セシリアにつきつけられた刃。それが滑っていく。
あの時の再現。血の帯を引いてセシリアが倒れる。
「なにも変わらないじゃないか」
倒れたセシリアを見下ろしてテオドールが呟く。
「過去に干渉するには大きな力がいる。だから、変わるのはほんの少し」
時の妖精がそう言って血だまりを指差す。
血だまりは小さかった。以前見たときは床に散ったセシリアの長い髪の端まで血まみれになるほど大きかったはずだ。だが今は手のひらぐらいの小さな血だまり。
「少しだけ刃物の角度を変えた。それが精いっぱいだよ」
床に倒れたセシリアが小さくうめいた。傷は浅くはないが、それでもまだ生きている。
サザン伯爵がセシリアを抱き起こすと首に巻いたチーフをセシリアの止血に使うため引き抜いた。
あわただしく人が動く。男達を捕縛するもの、ぐったりとしたセシリアを、あわてて運んでいくもの、それぞれが忙しく動いて行く。
その後はほぼ同じ展開をたどった。
セシリア殺人未遂の罪で、アレイスタ皇子とその配下は次々と断罪されていく。
そして妻であり娘であるセシリアを殺されかけたということで、サザン伯爵と父親が罪に問われなかったことも。セシリアが生きている以外は全く同じように事態は進む。
そしてテオドールはいつの間にか見知らぬ場所に来ていた。
そこはどこまでも白い世界。周囲は霧が漂いあたりに何があるかはっきりとしない。
足元すら踏んでいる大地が柔らかいのか硬いのか判然としない、何もかもあやふやな世界。
そんな中、一つだけ極彩色な存在があった。
目の前に立つ時の妖精。そして、時の妖精が捧げ持つ、ガラスの箱の中にいるテオドラの赤いドレス。
その色だけが際立って鮮やかだった。
「ここは生まれる前の子供がいる世界。お前が時の流れを変えたから、今ここでテオドラが生まれようとしている」
一瞬でテオドラの入っているガラスの箱に無数のひびが入った。
我落ちたガラスの隙間から、テオドラの瞼がぴくんと痙攣したのが見えた。
そして、テオドラが徐々に目を開こうとするたびに、視界に入る自分の身体が希薄になっていくのが分かった。
テオドラが完全に目を開いた時に、自分は消えていく。
そう覚悟を決めた時に不意に、何かに手をつかまれた。
テオドラがくっきりとした目を開いて、テオドールの手を握りしめていた。
その手の感触に思わず息をのむ。そしてテオドールの意識は闇にのまれていった。
目を開いたテオドールは、自分が自室の寝台の上にいることに気づいた。
セシリアにつきつけられた刃。それが滑っていく。
あの時の再現。血の帯を引いてセシリアが倒れる。
「なにも変わらないじゃないか」
倒れたセシリアを見下ろしてテオドールが呟く。
「過去に干渉するには大きな力がいる。だから、変わるのはほんの少し」
時の妖精がそう言って血だまりを指差す。
血だまりは小さかった。以前見たときは床に散ったセシリアの長い髪の端まで血まみれになるほど大きかったはずだ。だが今は手のひらぐらいの小さな血だまり。
「少しだけ刃物の角度を変えた。それが精いっぱいだよ」
床に倒れたセシリアが小さくうめいた。傷は浅くはないが、それでもまだ生きている。
サザン伯爵がセシリアを抱き起こすと首に巻いたチーフをセシリアの止血に使うため引き抜いた。
あわただしく人が動く。男達を捕縛するもの、ぐったりとしたセシリアを、あわてて運んでいくもの、それぞれが忙しく動いて行く。
その後はほぼ同じ展開をたどった。
セシリア殺人未遂の罪で、アレイスタ皇子とその配下は次々と断罪されていく。
そして妻であり娘であるセシリアを殺されかけたということで、サザン伯爵と父親が罪に問われなかったことも。セシリアが生きている以外は全く同じように事態は進む。
そしてテオドールはいつの間にか見知らぬ場所に来ていた。
そこはどこまでも白い世界。周囲は霧が漂いあたりに何があるかはっきりとしない。
足元すら踏んでいる大地が柔らかいのか硬いのか判然としない、何もかもあやふやな世界。
そんな中、一つだけ極彩色な存在があった。
目の前に立つ時の妖精。そして、時の妖精が捧げ持つ、ガラスの箱の中にいるテオドラの赤いドレス。
その色だけが際立って鮮やかだった。
「ここは生まれる前の子供がいる世界。お前が時の流れを変えたから、今ここでテオドラが生まれようとしている」
一瞬でテオドラの入っているガラスの箱に無数のひびが入った。
我落ちたガラスの隙間から、テオドラの瞼がぴくんと痙攣したのが見えた。
そして、テオドラが徐々に目を開こうとするたびに、視界に入る自分の身体が希薄になっていくのが分かった。
テオドラが完全に目を開いた時に、自分は消えていく。
そう覚悟を決めた時に不意に、何かに手をつかまれた。
テオドラがくっきりとした目を開いて、テオドールの手を握りしめていた。
その手の感触に思わず息をのむ。そしてテオドールの意識は闇にのまれていった。
目を開いたテオドールは、自分が自室の寝台の上にいることに気づいた。
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