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ネヴァダ王太子の後悔
しおりを挟むチャールズは報告書を読んでいた。
焼き菓子にまぶされていたものはどうやら粉糖だけではなかったようだ。
粉糖に紛れて細かくすりつぶされた薬物が検出された。
「おそらく殺されてはいないだろうが、女三人となると結構な大荷物だ、特にアーサー殿の奥方は大柄な女性だった。それだけの大荷物、運び出すルートは結構絞られると思うんだが」
王城というものはひっきりなしに物が運び込まれてくるものだ、当然荷物の搬入口は常に動いている。
食料、衣料品、多々の生活物資、何しろ住んでいる人間、働いている人間の数が尋常ではないのだ。
だから相当な大荷物を積んで帰ってくることも珍しくはない。それこそ楽勝で女三人ぐらいの質量を隠して運び出される。
「当然アーサー殿はそちらを調べているのだろうな」
「明らかに怪しい荷物を黙って通した管理官のことについても」
傍らの側近が言い添えた。
王太子などという身分になれば、一人になれる時間などほぼ存在しない。常に誰かしらが付き添っている。
そばに控えている側近は比較的よく見る顔だった。
「ターシャはどうしているかな」
ターシャはネヴァダ王国でも辺境に位置する領地を持つ伯爵令嬢だった。
伯爵という爵位は王族に嫁すにはぎりぎりというところだろう。
周囲の反対もあった。それを押し切ったのはチャールズというより、王家が抱えている問題があってこそだ。
初代ネヴァダ王は遠縁筋の貴族の娘を王妃にした。そこまで聞けばそれのどこがおかしいと言われるだろう。
その王妃は実家を重んじるあまり、親族の娘を王太子妃に据えるよう画策した。そしてその娘も、そんなことを繰り返したそののち、王族に心身が健康でないもの、明らかに生まれつき異常をきたしているものが生まれる確率が増えだした。
それは他国の王女を王妃に据えたとき小康状態に戻った。
系図を最小が調べ上げた時、恐ろしい事実が発覚した。
あまりにも多すぎる、一つの家系からの王妃の誕生、それによる弊害。
近親結婚を繰り返すことによる弊害はすでに家畜等で確認されている事実だった。
これ以上あの家系から王妃を出すわけにはいかないという国内貴族たちの主張と代々王妃を出すことによって、県政を保ってきたかの一族。
ネヴァダ王宮は泥仕合の様相を経てきた。
チャールズがターシャと出会ったのはそんな時期だった。
ターシャはずっと田舎の領地に引っ込んでいたため王宮や王都の見るもの聞くものが珍しいと目をキラキラさせていっていた。
自分が王太子だとしばらく気づかないでいるようだった。
王太子という肩書にしては自分の容姿がかなり地味だと自覚はあった。
チャールズ自身もターシャが語る田舎の領地の話に耳を傾けた。
しかし、あの泥沼化した惨状がなければ、チャールズはターシャを妻にとは考えなかっただろう。
ターシャを認めさせたのは歴史の長い伯爵家の出身で、王都に権力地盤がなく、なおかつターシャ自身が自分の身内を時代の王妃にごり押しするつもりも能力もなくほかに有望な女子がいないと確認されたからだ。
「こんなことに巻き込むつもりじゃなかったんだけどな」
チャールズは目を伏せた。
控えめに笑うターシャの顔が瞼の裏に浮かんだ。
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