サバイバル×3なお妃さま

karon

文字の大きさ
16 / 25

予想と現実

しおりを挟む
 その日はあいにくの雨だった。
 ターシャとアストリッド、ビアトリクスは身体を寄せ合って、木の上に作られた隠れ家で一日を過ごした。
 食べ物はターシャのとってきた野苺と前日に焼いておいた兎肉。
 山岳地帯育ちのターシャと野外訓練を受けたことのあるアストリッドは天気を読む技能にたけていたため事前に用意できた。
「やはり雨が降ると肌寒いですね」
「ああ三人で助かった」
 一番細いビアトリクスを真ん中において、三人で座っていた。 
 枝の上にいくらかの買った枯草も積んでおいたので、雨漏りは今のところない。
「行動しないほうがいいのですか」
「濡れても乾かす方法がないからな、濡れたままでいれば体力を消耗する」
 アストリッドの言葉にターシャも同意する。
 遭難者は天気のいい晴れた時よりも雨に打たれたほうが生存率は低いのだ。
「何日も降り込められたらいやですね」
「そこまで降り続く季節じゃないから安心しろ」
 もしそんな季節だったら本気で死活問題だ。
 アストリッドは少し寒気を覚え体を震わせた。
「あの、もしかして」
 どれほど隠れ家の中でじっとしていたくてもこればかりはどうすることもできない。
 できるだけ濡れないように身を隠し、生理的な欲求を満たすこと。
 そしてお互い様なのでそのことには決して触れないこと。
 必要に応じて、ビアトリクスもなんとか自力で上り下りを会得していた。
 付き添ってもらうのはあまりに恥ずかしかったからだ。
 その日はそれなりに平和だった。
 明日火を熾すときどうしようと些細ではあるが深遠な悩みはあったが。

 息をひそめ暗闇の中ひっそりと潜んでいる者達がいた。
「おそらくもうすでにことは決しているはずだ。今が行動すべき時だ」
 そう話し出したのは闇の中、判然としない、それでも随分と年齢を重ねているはずだ。
「ああ、そのためには気取られてはならない」
 そう言って、身を震わせる。
「ターナー卿は先程処刑されたらしい」
「一瞬の死など何が恐ろしいものか、アストリッド殿下はじわじわと迫りくる詩を感じているはずだ、いっそ一思いにしにないと思う程に恐ろしいはず、それから逃れるならば何でもしてくださるはず」
「すでにひ弱なネヴァダ王太子の妃とアルゴン王太子の妃は亡きものとなっておられるだろう。なまじ、武人として鍛えた肉体があったばかりにお気の毒なことだ」
「もともとは同じ騎士団で共に学んだかただ、あまり無体な真似はしたくなかった」
「仕方がないそれが時流というものだ」
 ひそめていた声がやや高くなる。そして一切が沈黙した。
 そしてもっと奥まった場所でもう一つ声がしたことを彼らは知らない。
「目を離すな、妃殿下方のもとに案内させるまでは」
「承知いたしました」
 そして再び彼らは闇に溶ける。

「よく降るねえ」
 少し濡れたビアトリクスを干し草で水けをぬぐってやりながら、ビアトリクスは呟く。
 ビアトリクスは長い髪を三つ編みにしてまとめている。
 髪が痛まないようにという気づかいだ。それができるくらい彼女たちは余裕を持っている。
 三人とも今すぐ命の危険を感じてはいないようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。  私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。  ククルス公爵家の一人娘。  父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。  複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。 (カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...