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Prologue
異世界情緒ーー①
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走って走って走って走り疲れて、知らない街でノロノロ立ち止まる。
もうすっかり日は落ちてしまった。
この世界には大きな月が3つもあるっていうのに、そのどれもが夜を明るくはしてくれなくて、見上げてもなんだかしょんぼり薄暗い。きらきら星も見えなくて、今のわたしの気分みたい。
すっかりお城に行くことを忘れていた。せっかく書いてもらった紹介状はスカートのポケットの中でくしゃくしゃになっていて。
なんて最低最悪な気分なんだ。
こんな時間にお城に行っても今日は門前払いだろう。行くあてもなくとぼとぼ歩くのはなんて苦痛なんだろう。
ぽつりぽつり、家の明かりが灯り始めて、もう外を歩いてる人なんてほとんどいなくて、日中のあの騒がしさが嘘みたいだ。あんなにいたたくさんのひとは一体どこに行っちゃったんだろう。
ああ、わたしもこの街から消えてしまって、どこかに行って一休みしたかった、全部忘れてぐっすり眠ってしまいたかった。
でも、みんながいる宿屋には行きたくなかった。追い出されるよりずっとひどい。きっとみんなはわたしを迎えてくれるけど、そんな中にいてひどく惨めな気分で夜を過ごしたくなかったから。ずっと真夜中でいいのに!
仲直りもまともにできないなんて、わたしはなんて陰気な性格なのかしら。
走って歩いて、それでも、もやもやは全然吹っ切れてなくて。すっかり疲れ果ててさっぱりいうことを聞いてくれない足をどうにかとぼとぼと引きずっている。
「あ……」
宿屋以外にわたしが知ってる場所なんて、ここしかない。
窓を覗いてみると、蝋燭の小さな明かりがゆらゆら揺れている。
最後の力を振り絞ってドンドン扉を叩いてみた。この大きくて重厚な扉はわたしを受け入れてくれるだろうか。日中は扉を軽くしていてくれたあの魔法はまだ掛かっているのだろうか。
しばらく何も起きなくて、悔しくて悲しくて目から何かが溢れ出しそうになる。訳がわからないけど、なんとなくそれが零れてしまうのはイヤで。
わたしはぎりっと奥歯を噛みしめて堪えながら今来た道を引き返そうと何も答えてくれない扉に背を向ける。
すると、わたしの背中でそっと少しだけ扉が開く音、そして、その音にびくっと振り返ると、「うわっ!」あの重厚なはずの扉が勢いよく開け放たれる。
「キティさん!? どうしたのこんな時間に!?」
「……宿屋はイヤだったの」
「そっか。ま、とにかく中に入って。外は冷えてきているでしょう」
館内の温もりがふわりと頬を撫でる。
なんとなく躊躇したわたしが小さく俯くやいなや、エルルカはほとんど強制的にわたしを図書館へと引き入れた。ほとんど力尽きていたわたしはなされるがまま。
エルルカは暖炉があるために図書館から離れた一室にわたしを案内してくれて、毛布と温かい紅茶を淹れてくれた。この大仰な暖炉もエルルカの魔法で燃やしているらしく、魔法が苦手なエルルカにとっては火を入れるのにも一苦労なのだとか。
「おじいちゃんには会えた?」
「……行ってない」後ろめたくて消え入りそうな。
「そっか」
「……」紅茶がかじかんだ両手をじんわりと温めてくれる。
「明日一緒に行く?」
「……うん」わたしの声はもうほとんど聞こえなくて、だからわたしは大きく頷いた。
「それじゃあ、今日はもう休もうか」
「……うん」
エルルカはこの図書館に住み込みながら働いているのだという。自分の部屋や浴室もあって閉館時には食堂の厨房も自由に使えると言っていた。「快適すぎてほとんど外に出ないから完全に引きこもりね」
でも、それでも、エルルカはわたしと違って、この図書館の本を管理する仕事をしていて、素敵な魔法を使ってなんだってできるじゃないか。そんな、あまりにも卑屈な考えに俯いていると、エルルカはなんでもお見通しなのか、
「私もね、小さいときには何もできなくて、それが悔しくて、どうしたらなんでもできるようになるんだろうって、この図書館でいっぱい調べたの、」
と、なぜかわからないけど、そんな小さな思い出を彼女の中で蘇らせて、エルルカは小さく苦笑した。
もうすっかり日は落ちてしまった。
この世界には大きな月が3つもあるっていうのに、そのどれもが夜を明るくはしてくれなくて、見上げてもなんだかしょんぼり薄暗い。きらきら星も見えなくて、今のわたしの気分みたい。
すっかりお城に行くことを忘れていた。せっかく書いてもらった紹介状はスカートのポケットの中でくしゃくしゃになっていて。
なんて最低最悪な気分なんだ。
こんな時間にお城に行っても今日は門前払いだろう。行くあてもなくとぼとぼ歩くのはなんて苦痛なんだろう。
ぽつりぽつり、家の明かりが灯り始めて、もう外を歩いてる人なんてほとんどいなくて、日中のあの騒がしさが嘘みたいだ。あんなにいたたくさんのひとは一体どこに行っちゃったんだろう。
ああ、わたしもこの街から消えてしまって、どこかに行って一休みしたかった、全部忘れてぐっすり眠ってしまいたかった。
でも、みんながいる宿屋には行きたくなかった。追い出されるよりずっとひどい。きっとみんなはわたしを迎えてくれるけど、そんな中にいてひどく惨めな気分で夜を過ごしたくなかったから。ずっと真夜中でいいのに!
仲直りもまともにできないなんて、わたしはなんて陰気な性格なのかしら。
走って歩いて、それでも、もやもやは全然吹っ切れてなくて。すっかり疲れ果ててさっぱりいうことを聞いてくれない足をどうにかとぼとぼと引きずっている。
「あ……」
宿屋以外にわたしが知ってる場所なんて、ここしかない。
窓を覗いてみると、蝋燭の小さな明かりがゆらゆら揺れている。
最後の力を振り絞ってドンドン扉を叩いてみた。この大きくて重厚な扉はわたしを受け入れてくれるだろうか。日中は扉を軽くしていてくれたあの魔法はまだ掛かっているのだろうか。
しばらく何も起きなくて、悔しくて悲しくて目から何かが溢れ出しそうになる。訳がわからないけど、なんとなくそれが零れてしまうのはイヤで。
わたしはぎりっと奥歯を噛みしめて堪えながら今来た道を引き返そうと何も答えてくれない扉に背を向ける。
すると、わたしの背中でそっと少しだけ扉が開く音、そして、その音にびくっと振り返ると、「うわっ!」あの重厚なはずの扉が勢いよく開け放たれる。
「キティさん!? どうしたのこんな時間に!?」
「……宿屋はイヤだったの」
「そっか。ま、とにかく中に入って。外は冷えてきているでしょう」
館内の温もりがふわりと頬を撫でる。
なんとなく躊躇したわたしが小さく俯くやいなや、エルルカはほとんど強制的にわたしを図書館へと引き入れた。ほとんど力尽きていたわたしはなされるがまま。
エルルカは暖炉があるために図書館から離れた一室にわたしを案内してくれて、毛布と温かい紅茶を淹れてくれた。この大仰な暖炉もエルルカの魔法で燃やしているらしく、魔法が苦手なエルルカにとっては火を入れるのにも一苦労なのだとか。
「おじいちゃんには会えた?」
「……行ってない」後ろめたくて消え入りそうな。
「そっか」
「……」紅茶がかじかんだ両手をじんわりと温めてくれる。
「明日一緒に行く?」
「……うん」わたしの声はもうほとんど聞こえなくて、だからわたしは大きく頷いた。
「それじゃあ、今日はもう休もうか」
「……うん」
エルルカはこの図書館に住み込みながら働いているのだという。自分の部屋や浴室もあって閉館時には食堂の厨房も自由に使えると言っていた。「快適すぎてほとんど外に出ないから完全に引きこもりね」
でも、それでも、エルルカはわたしと違って、この図書館の本を管理する仕事をしていて、素敵な魔法を使ってなんだってできるじゃないか。そんな、あまりにも卑屈な考えに俯いていると、エルルカはなんでもお見通しなのか、
「私もね、小さいときには何もできなくて、それが悔しくて、どうしたらなんでもできるようになるんだろうって、この図書館でいっぱい調べたの、」
と、なぜかわからないけど、そんな小さな思い出を彼女の中で蘇らせて、エルルカは小さく苦笑した。
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