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世界観、導入
―― めでたしめでたし ーー②
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「それで、決心はついたのか?」
「一晩寝ずに、いや全然眠れなくてずっと考えてたんだ、」
ケヴィンの声は少しだけトーンダウンしていて。
でも、このがやがやとした喧噪の中でも確かに響いた。まるで無関係な周りの人たちさえも静かに耳を傾けているかのように。
そして、それと相反してわたしの心はなぜかぎりぎりと締め付けられている、なぜか無性に息苦しかった。わたしにとって決して良くない話だ、なんとなくそんな気がして、ケヴィンの次の言葉を聞くのがすごくイヤだった。
「オレはきっとこの機会をずっと待っていたんだ。オレはパーティに参加するよ」
「ちょっと! 本気なの、ケヴィン!?」
その言葉の重大さはわたしにはさっぱりピンとこなかったけど、驚いたリイサが叫び声を上げたことで、なんとなく察してしまった。ああ、やっぱり良くないお話だ。
「ああ、もちろん本気だ、リイサだって知ってるだろ? ところで……、」
そして、リイサの返事を聞く前に、ケヴィンは浮かない表情をしていたわたしへと視線を向ける。きっと、良くわからない話をしている、とでも思われたのだろう。まあ、あながち間違ってはいないんだけど。
「キティはどうする? 一緒に来るには危ないと思うが……」
「あ、わ、わたしも……」
「おい、この真っ白はなにか出来るのか?」
「いや、キティは……」
「街の外、危ない」
口数の少ないピスクルのたったそれだけの言葉に、ピスクルの無機質で何を考えているかわからない眼差しに怯む。同じくらいの年齢、わたしよりちょっと小さい背丈なのに、きっとわたしなんかよりずっといろんなことを知っていて、そして、考えている。
「…わたし、何もできない」俯いて、辛うじて。
それはわたしが一番わかってるんだ。だから、言葉にするのはイヤだったのに。
「おいおい、勘弁してくれよ、俺らはまだ駆け出しなんだ。子どものお守りをしながら冒険できるほどは強くはねえんだぞ」
アンバークロウはうんざりとため息を吐き出すと大きく首を横に振る。
「ねえ! そんな言い方って……」
リイサが抗議してくれようとしたけど、でも、途中で言い淀んでしまった。そう、反論してくれるにしてもアンバークロウは何も間違ったことを言ってない。きっと、彼らの旅は過酷で、ちっぽけで何もできないわたしはどう考えてもお荷物なんだから。
でも、でも、でも、
「ね、ねえ、それじゃあわたしにも剣を教えてよ、魔法もきっと覚えるはずよ。だから一緒に連れて行ってよ! わたしにはケヴィンみたいに進むべき道も目指すべき夢も何もないの!」
「キティ……」
ケヴィンはその緑色の瞳に、憐れむような悲しむような表情を滲ませながらわたしを見つめる。どうしてそんな眼差しを向けられているのか、なんとなくわかる、わかりたくもないけどわかってしまった。
わたしは、ケヴィンの物語には邪魔なんだ。
わたしがいるとケヴィンの物語がはじまらないかもしれない。ここで終わってしまうかもしれない。
重苦しい空気が流れる。その重さに耐え切れず俯く。
「クソ、俺が悪者みてえじゃねえか」腕を組むアンバークロウがイライラと木の床をつま先で叩く音だけが響く。そのつま先をじっと見つめる。
「……オレはずっと冒険に憧れていたんだ」
ぽつり、ケヴィンはふと呟いた。このいたたまれない空気を打開しよう、なんて小粋な気遣いじゃない。小さな、まるで自分自身に語り掛けるような声だった。
だけど、それでも、確かな覚悟が、芯が、意志があって。
だから、その言葉はその場にいるみんなを振り向かせた。わたしだけがハッとして目を見開いていた。冒険、憧れ、わたしはそんなの知らない。
「リイサ、君は笑うだろうけどさ、オレはずっと勇者になりたかったんだ。その夢が今目の前にある。オレをあの萎びた村から連れ出してくれようと手を差し伸べてくれている人たちがいる。オレはこのチャンスを逃したくないんだ」
ケヴィンの言葉には熱があった。今まで燻っていた情熱が再点火したような。そして、改めてケヴィンはわたしに向き直る。その理知的な緑色の瞳に固い決意を込めて。
「だから、申し訳ない。キティ、君とはここでお別れだ」
「一晩寝ずに、いや全然眠れなくてずっと考えてたんだ、」
ケヴィンの声は少しだけトーンダウンしていて。
でも、このがやがやとした喧噪の中でも確かに響いた。まるで無関係な周りの人たちさえも静かに耳を傾けているかのように。
そして、それと相反してわたしの心はなぜかぎりぎりと締め付けられている、なぜか無性に息苦しかった。わたしにとって決して良くない話だ、なんとなくそんな気がして、ケヴィンの次の言葉を聞くのがすごくイヤだった。
「オレはきっとこの機会をずっと待っていたんだ。オレはパーティに参加するよ」
「ちょっと! 本気なの、ケヴィン!?」
その言葉の重大さはわたしにはさっぱりピンとこなかったけど、驚いたリイサが叫び声を上げたことで、なんとなく察してしまった。ああ、やっぱり良くないお話だ。
「ああ、もちろん本気だ、リイサだって知ってるだろ? ところで……、」
そして、リイサの返事を聞く前に、ケヴィンは浮かない表情をしていたわたしへと視線を向ける。きっと、良くわからない話をしている、とでも思われたのだろう。まあ、あながち間違ってはいないんだけど。
「キティはどうする? 一緒に来るには危ないと思うが……」
「あ、わ、わたしも……」
「おい、この真っ白はなにか出来るのか?」
「いや、キティは……」
「街の外、危ない」
口数の少ないピスクルのたったそれだけの言葉に、ピスクルの無機質で何を考えているかわからない眼差しに怯む。同じくらいの年齢、わたしよりちょっと小さい背丈なのに、きっとわたしなんかよりずっといろんなことを知っていて、そして、考えている。
「…わたし、何もできない」俯いて、辛うじて。
それはわたしが一番わかってるんだ。だから、言葉にするのはイヤだったのに。
「おいおい、勘弁してくれよ、俺らはまだ駆け出しなんだ。子どものお守りをしながら冒険できるほどは強くはねえんだぞ」
アンバークロウはうんざりとため息を吐き出すと大きく首を横に振る。
「ねえ! そんな言い方って……」
リイサが抗議してくれようとしたけど、でも、途中で言い淀んでしまった。そう、反論してくれるにしてもアンバークロウは何も間違ったことを言ってない。きっと、彼らの旅は過酷で、ちっぽけで何もできないわたしはどう考えてもお荷物なんだから。
でも、でも、でも、
「ね、ねえ、それじゃあわたしにも剣を教えてよ、魔法もきっと覚えるはずよ。だから一緒に連れて行ってよ! わたしにはケヴィンみたいに進むべき道も目指すべき夢も何もないの!」
「キティ……」
ケヴィンはその緑色の瞳に、憐れむような悲しむような表情を滲ませながらわたしを見つめる。どうしてそんな眼差しを向けられているのか、なんとなくわかる、わかりたくもないけどわかってしまった。
わたしは、ケヴィンの物語には邪魔なんだ。
わたしがいるとケヴィンの物語がはじまらないかもしれない。ここで終わってしまうかもしれない。
重苦しい空気が流れる。その重さに耐え切れず俯く。
「クソ、俺が悪者みてえじゃねえか」腕を組むアンバークロウがイライラと木の床をつま先で叩く音だけが響く。そのつま先をじっと見つめる。
「……オレはずっと冒険に憧れていたんだ」
ぽつり、ケヴィンはふと呟いた。このいたたまれない空気を打開しよう、なんて小粋な気遣いじゃない。小さな、まるで自分自身に語り掛けるような声だった。
だけど、それでも、確かな覚悟が、芯が、意志があって。
だから、その言葉はその場にいるみんなを振り向かせた。わたしだけがハッとして目を見開いていた。冒険、憧れ、わたしはそんなの知らない。
「リイサ、君は笑うだろうけどさ、オレはずっと勇者になりたかったんだ。その夢が今目の前にある。オレをあの萎びた村から連れ出してくれようと手を差し伸べてくれている人たちがいる。オレはこのチャンスを逃したくないんだ」
ケヴィンの言葉には熱があった。今まで燻っていた情熱が再点火したような。そして、改めてケヴィンはわたしに向き直る。その理知的な緑色の瞳に固い決意を込めて。
「だから、申し訳ない。キティ、君とはここでお別れだ」
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