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目的、この物語のテーマ
―― 【倫理狂い 】 ――④
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「あたしは、【倫理狂い 】――世界を失うもの。ぜんあくをつかさどっているけど、そんなのはどうでもいいの」
わたしは何か解放してはいけないものの封印を解いてしまった。
この物語は有害で、読んでしまうなんて以ての外、開いただけでひとを狂わせてしまう。そう、認識不能な不可視の化け物の叫び声のように。
とてもまずいことをしてしまった。だから彼女は囚われていたんだ。彼女を一目見たらその瞬間に認識災害を引き起こす。そういう類のものに違いない。
もう、遅い。そう気付いた時には、きっと、もう遅いんだ。
もう、その眼差しに射すくめられて、動けない。
もう、すでに魅了されている。
こんなものが“始源拾弐機関”なの? 淫欲以外の何の力も感じられない、これじゃあ、まるでサキュバスじゃないか。快楽を貪るだけの彼女こそが善悪を司っているですって? そうだとしたら、善悪とはいったい何なの?
彼女のぬめる裸体から発せられるこの不可解な甘い香りが思考を麻痺させている。
彼女の物語を聞きたいかどうかわからなくなってしまった。恐怖と誘惑に抗う理性がごちゃ混ぜになって思考を鈍らせている。そのどれが勝ったとしてもどれもロクな結果になりはしないってことだけは理解できた。
「あんたはきれいだね、そのかみのけもめもわんぴーすもしたぎもぴあすのあなもこるせっとももえるちもくつもうたごえもはだのいろもばっぐもぜんぶすてきうらやましい」
力なくわたしの足下に這いずる【倫理狂い】。白い裸体が艶めかしく床を這う光景は、まるで理性を絡め取らんとする蛇を思わせる。このまま毒で冒されて丸呑みに食べられてしまいそう。それでも、危険だとわかっているのに逃げられない。
ぬるり、彼女はわたしの足首を掴む。その力は弱く、それでもなぜか引き離すことができない。もう毒が回ってしまったの? それとも石化の魔眼?
「うらやましいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい、あたしはうしなってばっかりなのに、あんたはもらってばっかり」
依然として焦点は合っていない、しかし、それでも、彼女の濁った眼差しはわたしを捉えて離さない。
「ちょ、ちょっと待ってよ、わたしはただアナタとお話がしたいだけなの! アナタの物語を聞かせてほしいだけなの!」
「いひひ、あたしにものがたりなんてないよ、ただなにもかんがえないで、きもちよくなりたいだけ」
対話ができない。彼女はわたしの身体をずるずると這い上がってくる。わたしの身体が、彼女が羨ましいと言った全てが、彼女のぬめる体液で穢されていく。その粘滑らかな裸体に抱き留められて、そのか細い手足が蠢く触手のように絡み付いて、今度はわたしがとろりと拘束される。吊り下げられているはずはないのに、酩酊感で宙に浮いているみたい。
“始源拾弐機関”という物語が、ワクワクしてキラキラして心躍るようなものばかりだと錯覚していた。
あまりにも残酷な内容だったり、教訓性もほとんど感じられない話なら、評判が悪くて第二版以降は削除されるべき物語だって確かにあるはずなのに。そんなことすら失念していた、いや、きっとわたしの物語にそんなものはないのだと盲信していた。
全てが間違いだと気付いた。だけど、それを後悔するにはあまりにも遅すぎた。
わたしは何か解放してはいけないものの封印を解いてしまった。
この物語は有害で、読んでしまうなんて以ての外、開いただけでひとを狂わせてしまう。そう、認識不能な不可視の化け物の叫び声のように。
とてもまずいことをしてしまった。だから彼女は囚われていたんだ。彼女を一目見たらその瞬間に認識災害を引き起こす。そういう類のものに違いない。
もう、遅い。そう気付いた時には、きっと、もう遅いんだ。
もう、その眼差しに射すくめられて、動けない。
もう、すでに魅了されている。
こんなものが“始源拾弐機関”なの? 淫欲以外の何の力も感じられない、これじゃあ、まるでサキュバスじゃないか。快楽を貪るだけの彼女こそが善悪を司っているですって? そうだとしたら、善悪とはいったい何なの?
彼女のぬめる裸体から発せられるこの不可解な甘い香りが思考を麻痺させている。
彼女の物語を聞きたいかどうかわからなくなってしまった。恐怖と誘惑に抗う理性がごちゃ混ぜになって思考を鈍らせている。そのどれが勝ったとしてもどれもロクな結果になりはしないってことだけは理解できた。
「あんたはきれいだね、そのかみのけもめもわんぴーすもしたぎもぴあすのあなもこるせっとももえるちもくつもうたごえもはだのいろもばっぐもぜんぶすてきうらやましい」
力なくわたしの足下に這いずる【倫理狂い】。白い裸体が艶めかしく床を這う光景は、まるで理性を絡め取らんとする蛇を思わせる。このまま毒で冒されて丸呑みに食べられてしまいそう。それでも、危険だとわかっているのに逃げられない。
ぬるり、彼女はわたしの足首を掴む。その力は弱く、それでもなぜか引き離すことができない。もう毒が回ってしまったの? それとも石化の魔眼?
「うらやましいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい、あたしはうしなってばっかりなのに、あんたはもらってばっかり」
依然として焦点は合っていない、しかし、それでも、彼女の濁った眼差しはわたしを捉えて離さない。
「ちょ、ちょっと待ってよ、わたしはただアナタとお話がしたいだけなの! アナタの物語を聞かせてほしいだけなの!」
「いひひ、あたしにものがたりなんてないよ、ただなにもかんがえないで、きもちよくなりたいだけ」
対話ができない。彼女はわたしの身体をずるずると這い上がってくる。わたしの身体が、彼女が羨ましいと言った全てが、彼女のぬめる体液で穢されていく。その粘滑らかな裸体に抱き留められて、そのか細い手足が蠢く触手のように絡み付いて、今度はわたしがとろりと拘束される。吊り下げられているはずはないのに、酩酊感で宙に浮いているみたい。
“始源拾弐機関”という物語が、ワクワクしてキラキラして心躍るようなものばかりだと錯覚していた。
あまりにも残酷な内容だったり、教訓性もほとんど感じられない話なら、評判が悪くて第二版以降は削除されるべき物語だって確かにあるはずなのに。そんなことすら失念していた、いや、きっとわたしの物語にそんなものはないのだと盲信していた。
全てが間違いだと気付いた。だけど、それを後悔するにはあまりにも遅すぎた。
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