162 / 235
目的、この物語のテーマ
―― 【倫理狂い 】 ――④
しおりを挟む
「あたしは、【倫理狂い 】――世界を失うもの。ぜんあくをつかさどっているけど、そんなのはどうでもいいの」
わたしは何か解放してはいけないものの封印を解いてしまった。
この物語は有害で、読んでしまうなんて以ての外、開いただけでひとを狂わせてしまう。そう、認識不能な不可視の化け物の叫び声のように。
とてもまずいことをしてしまった。だから彼女は囚われていたんだ。彼女を一目見たらその瞬間に認識災害を引き起こす。そういう類のものに違いない。
もう、遅い。そう気付いた時には、きっと、もう遅いんだ。
もう、その眼差しに射すくめられて、動けない。
もう、すでに魅了されている。
こんなものが“始源拾弐機関”なの? 淫欲以外の何の力も感じられない、これじゃあ、まるでサキュバスじゃないか。快楽を貪るだけの彼女こそが善悪を司っているですって? そうだとしたら、善悪とはいったい何なの?
彼女のぬめる裸体から発せられるこの不可解な甘い香りが思考を麻痺させている。
彼女の物語を聞きたいかどうかわからなくなってしまった。恐怖と誘惑に抗う理性がごちゃ混ぜになって思考を鈍らせている。そのどれが勝ったとしてもどれもロクな結果になりはしないってことだけは理解できた。
「あんたはきれいだね、そのかみのけもめもわんぴーすもしたぎもぴあすのあなもこるせっとももえるちもくつもうたごえもはだのいろもばっぐもぜんぶすてきうらやましい」
力なくわたしの足下に這いずる【倫理狂い】。白い裸体が艶めかしく床を這う光景は、まるで理性を絡め取らんとする蛇を思わせる。このまま毒で冒されて丸呑みに食べられてしまいそう。それでも、危険だとわかっているのに逃げられない。
ぬるり、彼女はわたしの足首を掴む。その力は弱く、それでもなぜか引き離すことができない。もう毒が回ってしまったの? それとも石化の魔眼?
「うらやましいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい、あたしはうしなってばっかりなのに、あんたはもらってばっかり」
依然として焦点は合っていない、しかし、それでも、彼女の濁った眼差しはわたしを捉えて離さない。
「ちょ、ちょっと待ってよ、わたしはただアナタとお話がしたいだけなの! アナタの物語を聞かせてほしいだけなの!」
「いひひ、あたしにものがたりなんてないよ、ただなにもかんがえないで、きもちよくなりたいだけ」
対話ができない。彼女はわたしの身体をずるずると這い上がってくる。わたしの身体が、彼女が羨ましいと言った全てが、彼女のぬめる体液で穢されていく。その粘滑らかな裸体に抱き留められて、そのか細い手足が蠢く触手のように絡み付いて、今度はわたしがとろりと拘束される。吊り下げられているはずはないのに、酩酊感で宙に浮いているみたい。
“始源拾弐機関”という物語が、ワクワクしてキラキラして心躍るようなものばかりだと錯覚していた。
あまりにも残酷な内容だったり、教訓性もほとんど感じられない話なら、評判が悪くて第二版以降は削除されるべき物語だって確かにあるはずなのに。そんなことすら失念していた、いや、きっとわたしの物語にそんなものはないのだと盲信していた。
全てが間違いだと気付いた。だけど、それを後悔するにはあまりにも遅すぎた。
わたしは何か解放してはいけないものの封印を解いてしまった。
この物語は有害で、読んでしまうなんて以ての外、開いただけでひとを狂わせてしまう。そう、認識不能な不可視の化け物の叫び声のように。
とてもまずいことをしてしまった。だから彼女は囚われていたんだ。彼女を一目見たらその瞬間に認識災害を引き起こす。そういう類のものに違いない。
もう、遅い。そう気付いた時には、きっと、もう遅いんだ。
もう、その眼差しに射すくめられて、動けない。
もう、すでに魅了されている。
こんなものが“始源拾弐機関”なの? 淫欲以外の何の力も感じられない、これじゃあ、まるでサキュバスじゃないか。快楽を貪るだけの彼女こそが善悪を司っているですって? そうだとしたら、善悪とはいったい何なの?
彼女のぬめる裸体から発せられるこの不可解な甘い香りが思考を麻痺させている。
彼女の物語を聞きたいかどうかわからなくなってしまった。恐怖と誘惑に抗う理性がごちゃ混ぜになって思考を鈍らせている。そのどれが勝ったとしてもどれもロクな結果になりはしないってことだけは理解できた。
「あんたはきれいだね、そのかみのけもめもわんぴーすもしたぎもぴあすのあなもこるせっとももえるちもくつもうたごえもはだのいろもばっぐもぜんぶすてきうらやましい」
力なくわたしの足下に這いずる【倫理狂い】。白い裸体が艶めかしく床を這う光景は、まるで理性を絡め取らんとする蛇を思わせる。このまま毒で冒されて丸呑みに食べられてしまいそう。それでも、危険だとわかっているのに逃げられない。
ぬるり、彼女はわたしの足首を掴む。その力は弱く、それでもなぜか引き離すことができない。もう毒が回ってしまったの? それとも石化の魔眼?
「うらやましいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい、あたしはうしなってばっかりなのに、あんたはもらってばっかり」
依然として焦点は合っていない、しかし、それでも、彼女の濁った眼差しはわたしを捉えて離さない。
「ちょ、ちょっと待ってよ、わたしはただアナタとお話がしたいだけなの! アナタの物語を聞かせてほしいだけなの!」
「いひひ、あたしにものがたりなんてないよ、ただなにもかんがえないで、きもちよくなりたいだけ」
対話ができない。彼女はわたしの身体をずるずると這い上がってくる。わたしの身体が、彼女が羨ましいと言った全てが、彼女のぬめる体液で穢されていく。その粘滑らかな裸体に抱き留められて、そのか細い手足が蠢く触手のように絡み付いて、今度はわたしがとろりと拘束される。吊り下げられているはずはないのに、酩酊感で宙に浮いているみたい。
“始源拾弐機関”という物語が、ワクワクしてキラキラして心躍るようなものばかりだと錯覚していた。
あまりにも残酷な内容だったり、教訓性もほとんど感じられない話なら、評判が悪くて第二版以降は削除されるべき物語だって確かにあるはずなのに。そんなことすら失念していた、いや、きっとわたしの物語にそんなものはないのだと盲信していた。
全てが間違いだと気付いた。だけど、それを後悔するにはあまりにも遅すぎた。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる