11 / 48
2.BADSCHOOL
幻想は少年に学園での安寧をもたらすことができるのか
しおりを挟む「ーー魔剣、アウラ!」
(あはははははははは! わらわを抜いたな! わらわを抜いたな!)
アウラの不穏すぎる高笑いは、今は無視だ。
右手で心臓のナイフを引き抜くと反り返った胸から大量の血が噴き出す。そんな光景を恍惚と見上げる。
いちいち死がよぎる。
痛くて不快でおぞましく、寒い。
あの死の恐怖で身体が硬直する。心臓はまだ鼓動しているのか。
意識を手放してしまいそうになるその瞬間。
ぐちゅり、不快な蠢き、噴き出していた血がどす黒い大剣となる。
あの時は持てなかったはずなのに。
だけど今は何故か魔剣を身体から引き抜いた瞬間から、オレの身の丈よりも大きな黒い剣が片手で振れるほどに軽い。
「さっさとお前の使い方を教えろ!」
(いひひ、主はただ思うがままにわらわを振るえばよいのじゃ)
まるで冒涜のように。
まともな太刀筋すらなく、滅茶苦茶に振るわれる大剣。
見据えるは大太刀の形を成した焼死。ああ、さっきの死よりは幾分かマシに思えて、無意識に笑む。
どろりとそのどす黒い剣先が触れた瞬間。
まるで機械の電源を切るかのように呆気なく大太刀の紅蓮が掻き消される。
「何だと……?」
オレに突進しながら驚愕を口にするアハルギ。オレに迫っていた高出力の大太刀の群れがたった一振りで返り討ちにされたんだ、当然の反応か。オレさえも信じられん。
しかし、それでも一瞬後にはすぐに不敵に笑む。この切り替えの早さ、反射じみた戦況把握はランカー故の戦闘センスか。
「それがてめえの聖遺物か? だけどな、そんなもん俺の顕明連には関係ねえ!」
引き掴む最後の一振。構えて迫る。それを回避しようとして「ッ!?」氷の大太刀の攻撃がいつの間にかオレの足元を凍らせている。
そして。
「がッ……!?」
突然身体が動かなくなる。何かとてつもなく重い物がのしかかっているような感覚。膝をつこうにも足が凍っていて動けない。身動き一つ取れやしない。押し潰されてしまわないように耐えるだけで精一杯だ。
それは空間の歪み。
大太刀の刀身に楽園を見た。
いや、これは違う。ただの幻想だ!
振るうたびに堅牢な電子バリアの隙間からフィールドの外の景色が垣間見える。それはフィールドごと空間を歪ませるからこそ成せる所業。
アハルギが右手で振るう大太刀はその刀身に映る景色の質量ごとオレにぶつけている。
近づいただけでこれだ、あんな斬撃をまともに食らったら。
砕け散るじゃない、塵になる。
(あはは、振るえ、振るえ! 命を賭してわらわを愛しておくれ!)
なんか魔剣がわーわー言うとりますけど、今はそれどころじゃない。反論も抗議もままならない。口を開けることすらできないんだ。オレは歯が砕けそうになるほど必死に食いしばっている。
そんなオレの頭上に、無慈悲に。
叩き下ろされる超重量の大太刀。
必死に振り上げた魔剣との対峙。
それだけで成せるのか鬼退治。
全身の骨が軋み、いや、もはや折れている。オレのどこから湧いているのか自分でも計り知れない謎の気力だけで魔剣を頭上に掲げ続けている。
「これで終わりだ、ルジネ・錆・フォルバニング!」
この圧倒的有利な状況で勝利を確信した者の笑みを、この絶望的な状況で敗北を確信したオレが見上げる。
勝敗は決した。
(あははおほほいひひ、妖刀使いの大鬼を屠ることができようとは。この魔力なき忌まわしき世界も捨てたものではないな)
はずだった。
もはや鍔迫り合いすら起こらなかった。
ぬるり、大太刀はいとも容易く真っ二つにされ、質量を持った幻想郷は消え失せる。オレを押さえ付けていた楽園の重量が消える。
「な……」
大きく見開かれた金色の瞳にはこの理解不能な状況への戸惑いと。
身体が急激に軽くなった反動でオレが勢いよく振り抜いた魔剣が自身へとめり込む様がまざまざと映っていた。
何の抵抗もなく皮膚が肉が内臓が骨が断ち切れるその感触が、右手に心臓に全身に広がって、また嘔吐しそうなほどの気持ち悪さが込み上がってくる。
一刀両断。
あまりの切れ味に何事もなかったかのように、その場に着地するとオレを見つめるアハルギ。
「ル……」
何かを言いかけたアハルギの上半身が、ずるり、不自然に傾き、ゆっくりと崩れ落ちる。
観客席から息を呑む悲鳴が小さく聞こえた。
『聖遺物消失、アハルギ再起不能! 勝者、ルジネ!』
高らかに宣言される勝負の結末。
だけど。
今までの大歓声なんてなかったかのようにしんと静まり返るギャラリー。
あまりにも静謐で惨たらしい幕切れ。
誰しもがこの結果を信じられない。
……勝った、のか?
「……マジか」
こんな小さな呟きすら響き渡ってしまいそうだ。
まさかオレが勝っちまうなんて。
あり得ない。負け戦のはずだった。
まぐれだというのもおこがましい。
人生で初めて得た勝利の実感はまるでなく。
それよりも、さっきまでの致命的な負傷が全て消えてなくなっていることを疑問に思いつつ。
ただ、魔剣だけが唯一縋れるものであるかのように骨を模した柄を弱々しく握りしめなら、荒く呼吸を吐き出しその場に立ち尽くしていることしかできなかった。自分が高揚しているのか恐怖におののいているのか、それすらもわかっちゃいなかった。
いつまでも歓声が響き渡ることはなかったけど、そんなことはどうでもよかった。
結果として、メグリの貞操(?)は守られたのだから。
つまり、一件落着?
ーーOgre extermination achievedーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる