イマジンコード・オーバー・ザ・シンギュラリティ~少年は幻想魔剣の夢を見るか~

儀仗空論・紙一重

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2.BADSCHOOL

幻想は少年に学園での安寧をもたらすことができるのか

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「ーー魔剣、アウラ!」




(あはははははははは! わらわを抜いたな! わらわを抜いたな!)

 アウラの不穏すぎる高笑いは、今は無視だ。

 右手で心臓のナイフを引き抜くと反り返った胸から大量の血が噴き出す。そんな光景を恍惚と見上げる。

 いちいち死がよぎる。

 痛くて不快でおぞましく、寒い。

 あの死の恐怖で身体が硬直する。心臓はまだ鼓動しているのか。

 意識を手放してしまいそうになるその瞬間。

 ぐちゅり、不快な蠢き、噴き出していた血がどす黒い大剣となる。

 あの時は持てなかったはずなのに。

 だけど今は何故か魔剣を身体から引き抜いた瞬間から、オレの身の丈よりも大きな黒い剣が片手で振れるほどに軽い。

「さっさとお前の使い方を教えろ!」

(いひひ、主はただ思うがままにわらわを振るえばよいのじゃ)

 まるで冒涜のように。

 まともな太刀筋すらなく、滅茶苦茶に振るわれる大剣。

 見据えるは大太刀の形を成した焼死。ああ、さっきの死よりは幾分かマシに思えて、無意識に笑む。

 どろりとそのどす黒い剣先が触れた瞬間。

 まるで機械の電源を切るかのように呆気なく大太刀の紅蓮が掻き消される。

「何だと……?」

 オレに突進しながら驚愕を口にするアハルギ。オレに迫っていた高出力の大太刀の群れがたった一振りで返り討ちにされたんだ、当然の反応か。オレさえも信じられん。

 しかし、それでも一瞬後にはすぐに不敵に笑む。この切り替えの早さ、反射じみた戦況把握はランカー故の戦闘センスか。

「それがてめえの聖遺物か? だけどな、そんなもん俺の顕明連には関係ねえ!」

 引き掴む最後の一振。構えて迫る。それを回避しようとして「ッ!?」氷の大太刀の攻撃がいつの間にかオレの足元を凍らせている。

 そして。

「がッ……!?」

 突然身体が動かなくなる。何かとてつもなく重い物がのしかかっているような感覚。膝をつこうにも足が凍っていて動けない。身動き一つ取れやしない。押し潰されてしまわないように耐えるだけで精一杯だ。

 それは空間の歪み。

 大太刀の刀身に楽園を見た。

 いや、これは違う。ただの幻想だ!

 振るうたびに堅牢な電子バリアの隙間からフィールドの外の景色が垣間見える。それはフィールドごと空間を歪ませるからこそ成せる所業。

 アハルギが右手で振るう大太刀はその刀身に映る景色の質量ごとオレにぶつけている。

 近づいただけでこれだ、あんな斬撃をまともに食らったら。

 砕け散るじゃない、塵になる。

(あはは、振るえ、振るえ! 命を賭してわらわを愛しておくれ!)

 なんか魔剣がわーわー言うとりますけど、今はそれどころじゃない。反論も抗議もままならない。口を開けることすらできないんだ。オレは歯が砕けそうになるほど必死に食いしばっている。

 そんなオレの頭上に、無慈悲に。

 叩き下ろされる超重量の大太刀。

 必死に振り上げた魔剣との対峙。

 それだけで成せるのか鬼退治。

 全身の骨が軋み、いや、もはや折れている。オレのどこから湧いているのか自分でも計り知れない謎の気力だけで魔剣を頭上に掲げ続けている。

「これで終わりだ、ルジネ・錆・フォルバニング!」

 この圧倒的有利な状況で勝利を確信した者の笑みを、この絶望的な状況で敗北を確信したオレが見上げる。

 勝敗は決した。

(あははおほほいひひ、妖刀使いの大鬼を屠ることができようとは。この魔力なき忌まわしき世界も捨てたものではないな)

 はずだった。

 もはや鍔迫り合いすら起こらなかった。

 ぬるり、大太刀はいとも容易く真っ二つにされ、質量を持った幻想郷は消え失せる。オレを押さえ付けていた楽園の重量が消える。

「な……」

 大きく見開かれた金色の瞳にはこの理解不能な状況への戸惑いと。

 身体が急激に軽くなった反動でオレが勢いよく振り抜いた魔剣が自身へとめり込む様がまざまざと映っていた。

 何の抵抗もなく皮膚が肉が内臓が骨が断ち切れるその感触が、右手に心臓に全身に広がって、また嘔吐しそうなほどの気持ち悪さが込み上がってくる。

 一刀両断。

 あまりの切れ味に何事もなかったかのように、その場に着地するとオレを見つめるアハルギ。

「ル……」

 何かを言いかけたアハルギの上半身が、ずるり、不自然に傾き、ゆっくりと崩れ落ちる。

 観客席から息を呑む悲鳴が小さく聞こえた。

『聖遺物消失、アハルギ再起不能! 勝者、ルジネ!』

 高らかに宣言される勝負の結末。

 だけど。

 今までの大歓声なんてなかったかのようにしんと静まり返るギャラリー。

 あまりにも静謐で惨たらしい幕切れ。

 誰しもがこの結果を信じられない。

 ……勝った、のか?

「……マジか」

 こんな小さな呟きすら響き渡ってしまいそうだ。

 まさかオレが勝っちまうなんて。

 あり得ない。負け戦のはずだった。

 まぐれだというのもおこがましい。

 人生で初めて得た勝利の実感はまるでなく。

 それよりも、さっきまでの致命的な負傷が全て消えてなくなっていることを疑問に思いつつ。

 ただ、魔剣だけが唯一縋れるものであるかのように骨を模した柄を弱々しく握りしめなら、荒く呼吸を吐き出しその場に立ち尽くしていることしかできなかった。自分が高揚しているのか恐怖におののいているのか、それすらもわかっちゃいなかった。

 いつまでも歓声が響き渡ることはなかったけど、そんなことはどうでもよかった。

 結果として、メグリの貞操(?)は守られたのだから。

 つまり、一件落着?




  ーーOgre extermination achievedーー
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