イマジンコード・オーバー・ザ・シンギュラリティ~少年は幻想魔剣の夢を見るか~

儀仗空論・紙一重

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3.GAMESTART

人間性とはどこに在るか?

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「お、ここまで来るとはすごいね。ウルフもヴァンプも何してるんだか」

 その男はこのあまりにも絶望的な状況なんて省みず、無感動にそう言った。絶対にすごいと思ってねえだろ、こいつ。

 そうか、メグリはフラッグを守りきったのか。

 さすが戦闘能力無しで上位ランカーに君臨する【イマジンコード】最強の想像力だ。豊かにも程があるだろ。

「あ、ターシャもか」

(人を呪わば穴二つ。呪詛返しじゃな) 

 あのバカみたいな強大な力の代償か。

 そういえばオレの身体をバキバキに砕きやがった呪縛はもうない。

 ハイリスクハイリターン。こんなところでマジの身を以て思い知らされるとはな。

 はたして、呪いとはなんなのか。

 魂の存在すらデジタルとロジカルで解明された。

 呪いはオレのどこの何を縛り付けていたのか。

 身体か、(デジタルとしての)魂か、それとも……

(いひひ、主の本質は一体どこに在るのかや~?)

「ま、簡単な話さ。ターシャの呪いに必要なのは、身体の一部。そんなのネットならどこにだって転がってる」

 人間の定義は拡大した。

 人間の身体の一部の定義もまた然り。

 髪、血、皮膚、遺伝子情報、換装した身体の一部(機械部品も含め)、電子カルテ、録音音声、仮想アバター。

「な、簡単だろ? 呪いなんて」

 もしかしたら、この世界で誰かを呪い殺す、なんて案外容易いことなのかもしれない。

「つーことは、ルジネ、あいつがこのチームのリーダーだ」

「オーケー、……で、リーダーはどいつだ?」

 クソダサい丸メガネの奥のニヤニヤ笑い。

 ひょろひょろの身体にヨレヨレのスーツ、その上にボロボロに茶ばんだ白衣を羽織る。

 そんなやつがたくさん。

 そう、陰気臭そうなやつがたくさんいやがるんだが。

 つぎはぎだらけで生気のない、死体を継ぎ合わせて無理矢理稼働させたような、そんなのが。

「たくさんいる!」

 今まで何の目的もなくふらふら彷徨っていたそれらが、一斉にオレ達の方を向く。

「何なんだ、こいつら。こんなの一人でもお友達になりたかねえのに何匹いやがるんだよ」

「知るか、つーか、てめえもどっちかっつーとあっち寄りの人種だろうが」

「ひっどい! そんなこと思ってたの!?」

「いや、自覚あったんじゃねぇのかよ」

 オレ達のクソほどどーでもいい痴話喧嘩なんてお構い無し。

 無秩序の軍勢が群れをなしてこっちに向けて怒涛を開始する。

 ああ、くそ、今はそんなこと言い合ってる場合じゃねえ。あとでちゃんと話し合おう。

 アハルギの方もそう思ってはいたらしく。

 互いに一瞬だけ目を合わせ、迫り狂うメガネ野郎共を睨み付ける。

「僕はフランカルマ、聖遺物はこの手術道具だ、」

「出てこいや、本物!」

「いやいや、話聞こうぜ、陰キャ」

「知ってるかい? フランケンシュタインの怪物。あんまり古い聖遺物じゃないけどさ、結構鬱陶しいだろ?」

(神の御写しか? ずいぶんと不味そうじゃ)

 複数の口がすぐ耳元で、いや、はいごから、違う、遠くから同じことを言う。クソ、確かに鬱陶しい! 頭がおかしくなりそうだ!

 どこに本体がいる?

 おおむねこいつらの作戦はこうだったんだろう。

 魔女の呪いでリーダーとその護衛を動けなくし、どっかに隠れることができるもう1人がリーダーを叩く、あるいはフラッグを壊す。

 第二の矢として、狼男が突貫し、体力が尽きた相手にフランケンシュタインの怪物が群がる。

 新人狩りとしてはいい作戦だ。

 だけどな。

「ここは俺がなんとかする。ほのかちゃんはリタイアする気はなさそうだしな」

 ひょろひょろの怪物共を氷漬けにして砕きながら、もうほとんど気を失っているほのかを抱きかかえるアハルギ。

 足手まといだと思ってしまうだろう。

 それでも最後までこのゲームに参加させてあげたい。ほのかの言葉を無下にはしたくない。

 だから。

 最低限の止血と応急手当はした。といっても、オレの服使って頭ぐるぐる巻きにしただけだけど。

「……大丈夫、だ。我も、戦うぞ。ここで倒れていては内殻の刺客の名がすたる」

「刺客は名が知れちゃまずいんじゃねぇの?」

 身の丈ほどもある黒い大剣だ、剣技のへったくれもなく振り回しただけでも。

 それは、どす黒い血飛沫の嵐を巻き起こし、周囲の怪物を木っ端微塵する。

 ぐちゃぐちゃの肉片になって散らばる。

 血は噴き出さないけど、腐った臓物から生暖かく吐き気を催す湯気が立ち上る。こんなことろまでリアルに再現しやがって。

「さっさと行けッ、ほのか! 戦場を駆け抜けろ!」 

「御意!」

 こっちだって作戦に関しちゃ負けてねえ。

 作戦変更だ。

 というか、完全に行き当たりばったりで、もうこうなったら一斉突撃だ。

 アハルギが雑魚を薙ぎ払う。そうすりゃ、リーダーは勝手に出てくるだろ。

 そこをほのかちゃんが先陣きって掻き乱して。

 動揺したリーダー本体をオレがぶっ叩く。

 ははは、こんな作戦、どこからどう見たって。

(あはは、サイコーにイカれておる、最低最悪じゃ!)

 いくら切り刻んだってどんどん湧いてくる怪物。

 きっとそういう機能だ。

 良心さえなければ無限にフランケンシュタインの怪物を造り出せる、非人道的な聖遺物。

 あの物語はどいつもこいつも良い奴だったから成り立っていた。

 自身の似姿を、造り出した生命を道具としか見ていない。

 今この状況はあまりにも気色悪いだけじゃないか。

「小通連! 全てを焼き払え!」

 アハルギの身体だってもう限界だ、さっきのロケットブースターが何の代償もなく使えるはずがない。

 アハルギの聖遺物、三明之剣もその強力さと引き換えに魔力消費は凄まじいだろう。

 背中から3本目の腕を展開したアハルギは、その全ての大太刀を直接手に取って振るう。

 少しでも魔力を温存するためだ。

 それに、電脳体であるアハルギには、体力回復という概念がそもそもない。

 休むという行為には、放熱くらいの意味合いしかなく、アハルギのスタミナは魔力量と同じなのだ。

 アハルギとフランカルマの聖遺物は互いに相性が悪い。

 消耗戦にしかならない。

 だからこそ。

「怪物なんて怖くない! 怖くない!」

 オレとほのかが消耗する相手に突っ込む。

 魔力を使い過ぎればアハルギはそのままリタイアとなってしまう。

 その前に決着をつける。

 ほのかの聖遺物、つらぬき丸は次々と怪物を切り刻みながら、そのきらめく刃の輝きを増していく。

 そうか、あの聖遺物はゴブリンの位置を知らせてくれるんじゃない。

 正確には、脅威となるものの位置を知らせてくれる機能なんだ!

 確かに縦横無尽に戦場を駆けるほのかにぴったりの聖遺物だ。

「リーダーはあやつだ、ルジネ!」

「ありがとう、ほのか!」

 ほのかがリタイアしてくれなくて助かった。

 じゃなかったから、この状況に絶望していたところだ。

 まだまだ怪物は数を増している。製造が留まることを知らない。

「頼、む、……ルジネ」

 とうとうアハルギの動きが止まり、押し留めていた怪物共が標的をオレに定める。

 倒れ込むと同時にほのかが投げ付けた小刀が光り輝き、その先に。

「ちっ、見つかったか」

「おらァッ! ぶっ殺してやる!」

(いひひ、そうじゃ! 誰も彼もわらわの前で叫べ、叫べ!)

 さらに急造した2体の怪物を叩き切り、そのまま突撃する。

「ひ、ひぃ!」

「新人狩りなんてしてる暇あるならなぁ、オレらみたいにチームワークを学べ!」

 狂喜じみた笑い声と共に無慈悲に振り下ろされる魔剣。

 その惨たらしさをゲーム終了の合図が盛大に掻き消してくれた。



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