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5.EXCALIBUR
魔剣は聖剣と対峙してしまうのか
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「管理委員会の権限、および当局からの要請によりキミのその剣を回収しに来た」
「なんだァ? てめェ……」
初対面の相手に、キレた!! ……久しぶりにキレちまったよ。
まあ、そうは言いつつも、そこにいたのは。
「ア、アーサー……?」
いつでもどこでも色んな場所でクソほど見た顔だった。もちろん、向こうはオレのことなんて知るはずもねえし、こっちだってリアルで見たのは初めてだけど。
何故か思わず身構えてしまう。心臓に刺さる柄に触れる。あっちはまだ何もしていないっていうのに。
気分転換を兼ねて、夜の街に繰り出したのが運の尽きだった。ついでに“ちょっとした探し物”なんて要らん事考えなきゃよかった。
オレはまだ未練がましく仲間を探している。
誰も見向きもしない路地裏。
彼のようなクソッタレがこんな薄暗くて小汚いところにいるのはあまりにも場違いで。
ネオンにまみれたぬるい風に光り輝く金髪がさらさらと揺れる。
まるで少女のように小柄で華奢な身体。白磁のように透明感のある肌。こいつのどこに、オレが警戒する要素があるっていうんだ。
長い金色のまつ毛、その下の大きな青い瞳はどこか憂いを帯びている。たぶん、こういうちょっと陰がありそうなのが人気の秘訣なんだろうな。
その小さな身体にはどこかの貴族が着ていそうな、皺もほこりひとつもない白いスーツを着ていた。この下品なネオンに染まる白いスーツの様はあまりにも不憫に思えた。
まるでどこかの絵本から飛び出してきた王子様だ。この世界観には不似合いすぎる。白馬に乗ってないだけまだマシだ。
そして。
そのか細い腰には、豪勢な青い鞘に納められた大きな剣を挿していた。これが、あの超最強の聖遺物か?
(なんじゃ、あやつは?)いつになく怪訝な声音のアウラ。
そう、こいつは。
「……【イマジンコード】開始以来無敗無敵の絶対的チャンピオン、アーサー」
自分で言っといて吐き気すら催してしまう。なんでこんなのがオレの目の前にいやがるんだ。
ゲームをプレイしてなくたってわかる。メグリとの会話でコイツの話題が出なかった日なんて一度もねえ。そういえば、あの時もこいつの対戦を見上げていたっけ。いい加減うんざりだ。幻想ばっかりで反吐が出る。
「で、何の用事? もしかしてランカー1位様が直々に対戦の申し込み? ハッ、オレ様も偉くなったもんだな。けどさ、今はちょっと忙しいんだ、そんな気分じゃねえし、また出直してきてもらっていいすか?」
「いや、これはゲームじゃない。ルール違反をしたキミの処罰だ」
長ったらしくまくし立てるオレの戯言にも、アーサーの表情は変わらない。固く結んだ薄い唇に、瞬きが少ないガラス玉みたいな大きな青い目は、まるでマジにお人形さんなんじゃないかって思ってしまう。
不用意に触れたら壊れちまいそうな儚げな感じなのに、これでチャンピオンとかマジで信じられねえ。今までのランカーとは全然雰囲気が違う。
直に見たら画面で観てるより余計に弱そうじゃねえか。
「あの日、キミは事情聴取のために呼ばれた。その聖遺物をどうしたのか、とね」
あの日。きっと、テロ事件の日のことだ。
やっぱり、この魔剣について呼び出されていたのか。
けど、どうして、こいつがそれを知ってんだ?
あ、こいつもキリさんやシノエさんみたいな当局の治安維持部隊のひとりだったのか?
そうだ、あの後メルベルトさんは助かったんだろうか、キリさんに訊いても教えてくれなかったし。あの日以来【イマジンコード】には出ていないみたいだけど。
いや、今はそれはいい。
「だけど、あの事件でのキミの活躍を見て当局は事情聴取なんて必要ないと結論付けた」
とにかく、あの時の戦闘を、そう、しとりに弾丸を撃ち込まれたはずのオレが蘇ったこともおそらく見られている。
そして、それはわざわざランカー1位を送り込むような事態だって判断された。
これは、とてもヤバい状況なのでは?
「君はその魔剣が何なのか知ってるのか?」
「は? 知らないね、いくら訊いても教えてくれねえんだわ」
この聖遺物はなんだ。
オレは一体何と契約した。
いや、マジでホントに誰か教えてくれないかな。
じりじりとした不可解な焦燥の中で、ふと芽生えたそんな切実な思いに応えてくれた……んなわけはないだろうけど。
「それは正真正銘本物の聖遺物、■■■■■■」いやにさらりと。
(おや、わらわの名を知る者がおるとは、こやつ何者じゃ?)
少し嬉しそうなアウラの声はもちろんアーサーには聞こえていない。だけど、どうしてかこのふたりがオレの知らない秘密を共有しているのは面白くない。オレには相変わらずアウラの真名が聞き取れない。
というか。
本物の聖遺物? なんじゃそりゃ。
「そんな安っぽいファンタジーなんか信じられるか。オレはこいつを心臓にぶっ刺してるんだぞ。本物ならとっくに死んでるじゃねえか」
ここはシンギュラリティを超越した最先端の世界だぞ。そんな手垢まみれの剣と魔法のおとぎ話なんてメグリじゃねえんだから知ったこっちゃねえ。
ファンタジーなんて頭の中のバグみたいな妄想で十分だ。今はそんな話はしてねえ。
すると、アーサーの表情がみるみるうちに驚愕に変貌していく。あの、憂いを帯びた眼差しさえ今はその見る影もなく大きく見開かれている。なんだ、意外と人間らしい表情もするじゃん。
「お、おい、本当にそんなことをしてしまったのか!?」
「え、う、うん」
え、その反応、何? なんですごい心配そうな憐れむような表情してるの? ……え?
「……え、マジで本物? え、マジなの、アウラ?」
(いやー、どうだろうなー、わらわにもちょっとわからぬなー)
「おま、ちょ、お前、これ、ちょ、ホントに、え、お前、これはちょっと、いや、おま、これは、ダ、ダメだろッ!」
(動揺しすぎじゃ)
「動揺しすぎじゃないか?」
「なんだァ? てめェ……」
初対面の相手に、キレた!! ……久しぶりにキレちまったよ。
まあ、そうは言いつつも、そこにいたのは。
「ア、アーサー……?」
いつでもどこでも色んな場所でクソほど見た顔だった。もちろん、向こうはオレのことなんて知るはずもねえし、こっちだってリアルで見たのは初めてだけど。
何故か思わず身構えてしまう。心臓に刺さる柄に触れる。あっちはまだ何もしていないっていうのに。
気分転換を兼ねて、夜の街に繰り出したのが運の尽きだった。ついでに“ちょっとした探し物”なんて要らん事考えなきゃよかった。
オレはまだ未練がましく仲間を探している。
誰も見向きもしない路地裏。
彼のようなクソッタレがこんな薄暗くて小汚いところにいるのはあまりにも場違いで。
ネオンにまみれたぬるい風に光り輝く金髪がさらさらと揺れる。
まるで少女のように小柄で華奢な身体。白磁のように透明感のある肌。こいつのどこに、オレが警戒する要素があるっていうんだ。
長い金色のまつ毛、その下の大きな青い瞳はどこか憂いを帯びている。たぶん、こういうちょっと陰がありそうなのが人気の秘訣なんだろうな。
その小さな身体にはどこかの貴族が着ていそうな、皺もほこりひとつもない白いスーツを着ていた。この下品なネオンに染まる白いスーツの様はあまりにも不憫に思えた。
まるでどこかの絵本から飛び出してきた王子様だ。この世界観には不似合いすぎる。白馬に乗ってないだけまだマシだ。
そして。
そのか細い腰には、豪勢な青い鞘に納められた大きな剣を挿していた。これが、あの超最強の聖遺物か?
(なんじゃ、あやつは?)いつになく怪訝な声音のアウラ。
そう、こいつは。
「……【イマジンコード】開始以来無敗無敵の絶対的チャンピオン、アーサー」
自分で言っといて吐き気すら催してしまう。なんでこんなのがオレの目の前にいやがるんだ。
ゲームをプレイしてなくたってわかる。メグリとの会話でコイツの話題が出なかった日なんて一度もねえ。そういえば、あの時もこいつの対戦を見上げていたっけ。いい加減うんざりだ。幻想ばっかりで反吐が出る。
「で、何の用事? もしかしてランカー1位様が直々に対戦の申し込み? ハッ、オレ様も偉くなったもんだな。けどさ、今はちょっと忙しいんだ、そんな気分じゃねえし、また出直してきてもらっていいすか?」
「いや、これはゲームじゃない。ルール違反をしたキミの処罰だ」
長ったらしくまくし立てるオレの戯言にも、アーサーの表情は変わらない。固く結んだ薄い唇に、瞬きが少ないガラス玉みたいな大きな青い目は、まるでマジにお人形さんなんじゃないかって思ってしまう。
不用意に触れたら壊れちまいそうな儚げな感じなのに、これでチャンピオンとかマジで信じられねえ。今までのランカーとは全然雰囲気が違う。
直に見たら画面で観てるより余計に弱そうじゃねえか。
「あの日、キミは事情聴取のために呼ばれた。その聖遺物をどうしたのか、とね」
あの日。きっと、テロ事件の日のことだ。
やっぱり、この魔剣について呼び出されていたのか。
けど、どうして、こいつがそれを知ってんだ?
あ、こいつもキリさんやシノエさんみたいな当局の治安維持部隊のひとりだったのか?
そうだ、あの後メルベルトさんは助かったんだろうか、キリさんに訊いても教えてくれなかったし。あの日以来【イマジンコード】には出ていないみたいだけど。
いや、今はそれはいい。
「だけど、あの事件でのキミの活躍を見て当局は事情聴取なんて必要ないと結論付けた」
とにかく、あの時の戦闘を、そう、しとりに弾丸を撃ち込まれたはずのオレが蘇ったこともおそらく見られている。
そして、それはわざわざランカー1位を送り込むような事態だって判断された。
これは、とてもヤバい状況なのでは?
「君はその魔剣が何なのか知ってるのか?」
「は? 知らないね、いくら訊いても教えてくれねえんだわ」
この聖遺物はなんだ。
オレは一体何と契約した。
いや、マジでホントに誰か教えてくれないかな。
じりじりとした不可解な焦燥の中で、ふと芽生えたそんな切実な思いに応えてくれた……んなわけはないだろうけど。
「それは正真正銘本物の聖遺物、■■■■■■」いやにさらりと。
(おや、わらわの名を知る者がおるとは、こやつ何者じゃ?)
少し嬉しそうなアウラの声はもちろんアーサーには聞こえていない。だけど、どうしてかこのふたりがオレの知らない秘密を共有しているのは面白くない。オレには相変わらずアウラの真名が聞き取れない。
というか。
本物の聖遺物? なんじゃそりゃ。
「そんな安っぽいファンタジーなんか信じられるか。オレはこいつを心臓にぶっ刺してるんだぞ。本物ならとっくに死んでるじゃねえか」
ここはシンギュラリティを超越した最先端の世界だぞ。そんな手垢まみれの剣と魔法のおとぎ話なんてメグリじゃねえんだから知ったこっちゃねえ。
ファンタジーなんて頭の中のバグみたいな妄想で十分だ。今はそんな話はしてねえ。
すると、アーサーの表情がみるみるうちに驚愕に変貌していく。あの、憂いを帯びた眼差しさえ今はその見る影もなく大きく見開かれている。なんだ、意外と人間らしい表情もするじゃん。
「お、おい、本当にそんなことをしてしまったのか!?」
「え、う、うん」
え、その反応、何? なんですごい心配そうな憐れむような表情してるの? ……え?
「……え、マジで本物? え、マジなの、アウラ?」
(いやー、どうだろうなー、わらわにもちょっとわからぬなー)
「おま、ちょ、お前、これ、ちょ、ホントに、え、お前、これはちょっと、いや、おま、これは、ダ、ダメだろッ!」
(動揺しすぎじゃ)
「動揺しすぎじゃないか?」
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