38 / 48
5.EXCALIBUR
少年は全てを失って何を想うのか
しおりを挟む
「ルジネは何も悪いことなんてしてない! 幼なじみのワタシが言うんだから間違いないわ!」
オレ達の間に割って入ってきた招かざる闖入者に対し思わず後方に飛び退くアーサー。
そして、そんな空高くから落下してきたちっさい未確認飛行物体は、一切の現状も把握しないまま無条件でオレを擁護する。甘い、甘すぎる!
そして、そのまま激情に任せて。
「ファンタズム・セットアップ、アリス・イン・ワンダーランド!」
間髪入れない幻想具現化。さては相当怒ってらっしゃるな。
周囲の無機質で無味乾燥とした景色を躊躇なく侵食しながら、捩じくれ曲がった木々とトランプとお茶会がぐちゃまぜになった童話が展開される。ナンセンスでハイセンスな世界がその領域を押し広げる。ぎらついたネオンの光すらランタンの灯りには遠く及ばない。
不思議の国のアリス。
無限に拡張される想像の産物。
あまりにもふざけていて、どう考えてもメグリにはお似合いの聖遺物だ。
王冠を戴きながら豪奢な玉座に牢する彼女ははたして、囚われの少女か、傲慢な女王様か。
自身が具現化したその物語に拘束されながら、メグリはまるでそれに抵抗するかのようにアーサーへと向かっていこうとする。暴力か、暴力が全てを解決するのか。
「ワタシがルジネを守るの、幼なじみだからね」
だけど、それは叶わない。不服そうな表情ではあったけど無事(?)メグリは玉座に座す。
「くだらないおとぎ話の聖遺物か、ボクの伝説がそんなものと同列に並べられるとはな」
一方のアーサーはその不条理この上ない世界に自身を捕らえんとする聖遺物を退屈そうに見上げては、吐き捨てるようにそれだけを言った。
「メ、メグリ、やめろ、そいつには、勝てねえんだ」
かろうじて絞り出した声がメグリに届いたかどうかはわからない。だけど、怒りに震えるメグリがオレのこんな言葉だけで簡単に引き下がるとは到底思えなかった。今のメグリにはそれだけの鬼気迫るものが確かにあった。
以前、メグリは、【イマジンコード】のランキングは相性差だと、そう言っていた。
確かにメグリの聖遺物は力押しのアハルギとは相性が悪そうなのに、それでもメグリの方が上位だ。メグリが言いたかったのはそういうことだろう。この理不尽極まりないおとぎ話の世界ではアハルギだって手も足も出ないだろう。
だけど。
これはもう、そういう問題じゃない。
どう足掻いても覆すことのできないんだ、聖剣の機能は。
ランカー1位と4位、その差はあまりにも大きい。
その絶対的な序列の意味を改めて思い知った。
「ルジネを殺させない」
聖剣には勝てない。
メグリだってそれを知っている。
それでも、メグリは決して退かないだろう。
いつだってそうだった、メグリはいつまでたっても魔力無しで役立たずで不出来なオレを、幼なじみってだけで守ろうとする。やかましい、うっとおしいぞ、このアマ。
その優しい怠惰に甘えたくなかったのに。
メグリはずっとオレのナイトだった。いつまでたってもオレを守ってくれる。
そんな関係が嫌いで、そんな関係を変えたくて。
オレがメグリを守る、そんな存在になりたくて。
ーーだから、オレは。
「キミの大事な幼なじみはボクがとどめを刺すまでもなくいずれ死ぬだろう」
「うるさい! ワタシはお前を許さない!」
ふたりの剣呑なやり取りにハッと我に返る。
初めて見た、メグリがここまで取り乱した姿を。
囚われることに我慢ならないのだろうか、がたがたと震えながらメグリが想像したそれは憎悪に歪んだ巨躯だった。
喰らいつく顎、引き掴む鈎爪! 両の眼を炯々と燃やしたる怪物。怒めきずりつつもそこに迫り来たらん!
それは誰しもが想像しうるよりもさらにおぞましく巨大だった。
その見上げんばかりの怪物がメグリの怒声を代弁するかのようにけたたましく吠える。
曲がりくねった木々が裂け、ティーカップは吹き飛び、ブリキの兵隊達は砕け散る。
そんな想像の規格外にいる怪物は、めきりと地面に両足をめり込ませるとアーサーに向かって一気に跳躍、いや、ほとんど低空で飛翔する。
音速を越えた突撃に空気の壁があっさり破り捨てられる。その巨体が押し出す圧力に、侵蝕の及ばなかったビルが震え、その軌跡に沿ってガラスが旧時代の石英のように簡単に弾けて飛ぶ。一瞬でアーサーの目の前に肉薄する。
しかし。
アーサーはその様子を一瞥しただけだった。
勝負は一瞬だった。
ほんのわずかに聖剣が瞬いただけ。
たったそれだけで、その怪物はおろか、その後方にいたメグリさえも完全に沈黙する。
「なッ……」
メグリでさえ何が起きたのか理解していないみたいだった。驚愕に見開かれたその魔眼は効果を発揮させる間もなく。瞬時に機械的な明滅を失う。
がくり、力なく玉座から滑り落ちるメグリの身体。
物語の消失。
侵食されていた風景が耳障りなノイズとともに元に戻る。
アーサーがメグリのことを気にも留めていないのは明らかだった。唯一の救いはアーサーがメグリを殺さなかったことだろう。
「メグリ、といったかな。キミは当局に連行する、ボクのスケジュールを乱しやがって」
苛立ちをほんの少しだけ滲ませながら小さなガラス片を肩から払いのけると、アーサーは聖剣の具現化を解除した。
そして、ようやくオレをちらりと一瞥する。
「こんなふざけた幻想が現実に存在するなんて認めない」
アーサーはうつ伏せに倒れていたオレの身体を蹴り上げると、心臓に戻っていた魔剣に手を掛ける。
「や、やめ、」
何の躊躇もなく無理やり引き抜かれる魔剣。噴き出す血。それは何のカタチにもならずに無様に撒き散らされる。ああ、寒い、寒い。
「ま、待てよ……」
オレの声を無視して、気を失ったままのメグリを乱暴に抱えるアーサー。
揺れる視界をどうにかこじ開ける。オレは声も出せずにその光景を、急速に薄れゆく意識の中で睨み上げることしかできなかった。
ああ、まただ、どうしてオレはメグリを……
ーー螳悟?縺ェ繧区風蛹
オレ達の間に割って入ってきた招かざる闖入者に対し思わず後方に飛び退くアーサー。
そして、そんな空高くから落下してきたちっさい未確認飛行物体は、一切の現状も把握しないまま無条件でオレを擁護する。甘い、甘すぎる!
そして、そのまま激情に任せて。
「ファンタズム・セットアップ、アリス・イン・ワンダーランド!」
間髪入れない幻想具現化。さては相当怒ってらっしゃるな。
周囲の無機質で無味乾燥とした景色を躊躇なく侵食しながら、捩じくれ曲がった木々とトランプとお茶会がぐちゃまぜになった童話が展開される。ナンセンスでハイセンスな世界がその領域を押し広げる。ぎらついたネオンの光すらランタンの灯りには遠く及ばない。
不思議の国のアリス。
無限に拡張される想像の産物。
あまりにもふざけていて、どう考えてもメグリにはお似合いの聖遺物だ。
王冠を戴きながら豪奢な玉座に牢する彼女ははたして、囚われの少女か、傲慢な女王様か。
自身が具現化したその物語に拘束されながら、メグリはまるでそれに抵抗するかのようにアーサーへと向かっていこうとする。暴力か、暴力が全てを解決するのか。
「ワタシがルジネを守るの、幼なじみだからね」
だけど、それは叶わない。不服そうな表情ではあったけど無事(?)メグリは玉座に座す。
「くだらないおとぎ話の聖遺物か、ボクの伝説がそんなものと同列に並べられるとはな」
一方のアーサーはその不条理この上ない世界に自身を捕らえんとする聖遺物を退屈そうに見上げては、吐き捨てるようにそれだけを言った。
「メ、メグリ、やめろ、そいつには、勝てねえんだ」
かろうじて絞り出した声がメグリに届いたかどうかはわからない。だけど、怒りに震えるメグリがオレのこんな言葉だけで簡単に引き下がるとは到底思えなかった。今のメグリにはそれだけの鬼気迫るものが確かにあった。
以前、メグリは、【イマジンコード】のランキングは相性差だと、そう言っていた。
確かにメグリの聖遺物は力押しのアハルギとは相性が悪そうなのに、それでもメグリの方が上位だ。メグリが言いたかったのはそういうことだろう。この理不尽極まりないおとぎ話の世界ではアハルギだって手も足も出ないだろう。
だけど。
これはもう、そういう問題じゃない。
どう足掻いても覆すことのできないんだ、聖剣の機能は。
ランカー1位と4位、その差はあまりにも大きい。
その絶対的な序列の意味を改めて思い知った。
「ルジネを殺させない」
聖剣には勝てない。
メグリだってそれを知っている。
それでも、メグリは決して退かないだろう。
いつだってそうだった、メグリはいつまでたっても魔力無しで役立たずで不出来なオレを、幼なじみってだけで守ろうとする。やかましい、うっとおしいぞ、このアマ。
その優しい怠惰に甘えたくなかったのに。
メグリはずっとオレのナイトだった。いつまでたってもオレを守ってくれる。
そんな関係が嫌いで、そんな関係を変えたくて。
オレがメグリを守る、そんな存在になりたくて。
ーーだから、オレは。
「キミの大事な幼なじみはボクがとどめを刺すまでもなくいずれ死ぬだろう」
「うるさい! ワタシはお前を許さない!」
ふたりの剣呑なやり取りにハッと我に返る。
初めて見た、メグリがここまで取り乱した姿を。
囚われることに我慢ならないのだろうか、がたがたと震えながらメグリが想像したそれは憎悪に歪んだ巨躯だった。
喰らいつく顎、引き掴む鈎爪! 両の眼を炯々と燃やしたる怪物。怒めきずりつつもそこに迫り来たらん!
それは誰しもが想像しうるよりもさらにおぞましく巨大だった。
その見上げんばかりの怪物がメグリの怒声を代弁するかのようにけたたましく吠える。
曲がりくねった木々が裂け、ティーカップは吹き飛び、ブリキの兵隊達は砕け散る。
そんな想像の規格外にいる怪物は、めきりと地面に両足をめり込ませるとアーサーに向かって一気に跳躍、いや、ほとんど低空で飛翔する。
音速を越えた突撃に空気の壁があっさり破り捨てられる。その巨体が押し出す圧力に、侵蝕の及ばなかったビルが震え、その軌跡に沿ってガラスが旧時代の石英のように簡単に弾けて飛ぶ。一瞬でアーサーの目の前に肉薄する。
しかし。
アーサーはその様子を一瞥しただけだった。
勝負は一瞬だった。
ほんのわずかに聖剣が瞬いただけ。
たったそれだけで、その怪物はおろか、その後方にいたメグリさえも完全に沈黙する。
「なッ……」
メグリでさえ何が起きたのか理解していないみたいだった。驚愕に見開かれたその魔眼は効果を発揮させる間もなく。瞬時に機械的な明滅を失う。
がくり、力なく玉座から滑り落ちるメグリの身体。
物語の消失。
侵食されていた風景が耳障りなノイズとともに元に戻る。
アーサーがメグリのことを気にも留めていないのは明らかだった。唯一の救いはアーサーがメグリを殺さなかったことだろう。
「メグリ、といったかな。キミは当局に連行する、ボクのスケジュールを乱しやがって」
苛立ちをほんの少しだけ滲ませながら小さなガラス片を肩から払いのけると、アーサーは聖剣の具現化を解除した。
そして、ようやくオレをちらりと一瞥する。
「こんなふざけた幻想が現実に存在するなんて認めない」
アーサーはうつ伏せに倒れていたオレの身体を蹴り上げると、心臓に戻っていた魔剣に手を掛ける。
「や、やめ、」
何の躊躇もなく無理やり引き抜かれる魔剣。噴き出す血。それは何のカタチにもならずに無様に撒き散らされる。ああ、寒い、寒い。
「ま、待てよ……」
オレの声を無視して、気を失ったままのメグリを乱暴に抱えるアーサー。
揺れる視界をどうにかこじ開ける。オレは声も出せずにその光景を、急速に薄れゆく意識の中で睨み上げることしかできなかった。
ああ、まただ、どうしてオレはメグリを……
ーー螳悟?縺ェ繧区風蛹
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる