イマジンコード・オーバー・ザ・シンギュラリティ~少年は幻想魔剣の夢を見るか~

儀仗空論・紙一重

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少年は全てを失って何を想うのか

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「ルジネは何も悪いことなんてしてない! 幼なじみのワタシが言うんだから間違いないわ!」

 オレ達の間に割って入ってきた招かざる闖入者に対し思わず後方に飛び退くアーサー。

 そして、そんな空高くから落下してきたちっさい未確認飛行物体は、一切の現状も把握しないまま無条件でオレを擁護する。甘い、甘すぎる!

 そして、そのまま激情に任せて。

「ファンタズム・セットアップ、アリス・イン・ワンダーランド!」

 間髪入れない幻想具現化。さては相当怒ってらっしゃるな。

 周囲の無機質で無味乾燥とした景色を躊躇なく侵食しながら、捩じくれ曲がった木々とトランプとお茶会がぐちゃまぜになった童話が展開される。ナンセンスでハイセンスな世界がその領域を押し広げる。ぎらついたネオンの光すらランタンの灯りには遠く及ばない。

 不思議の国のアリス。

 無限に拡張される想像の産物。

 あまりにもふざけていて、どう考えてもメグリにはお似合いの聖遺物だ。

 王冠を戴きながら豪奢な玉座に牢する彼女ははたして、囚われの少女か、傲慢な女王様か。

 自身が具現化したその物語に拘束されながら、メグリはまるでそれに抵抗するかのようにアーサーへと向かっていこうとする。暴力か、暴力が全てを解決するのか。

「ワタシがルジネを守るの、幼なじみだからね」

 だけど、それは叶わない。不服そうな表情ではあったけど無事(?)メグリは玉座に座す。

「くだらないおとぎ話の聖遺物か、ボクの伝説がそんなものと同列に並べられるとはな」

 一方のアーサーはその不条理この上ない世界に自身を捕らえんとする聖遺物を退屈そうに見上げては、吐き捨てるようにそれだけを言った。

「メ、メグリ、やめろ、そいつには、勝てねえんだ」

 かろうじて絞り出した声がメグリに届いたかどうかはわからない。だけど、怒りに震えるメグリがオレのこんな言葉だけで簡単に引き下がるとは到底思えなかった。今のメグリにはそれだけの鬼気迫るものが確かにあった。

 以前、メグリは、【イマジンコード】のランキングは相性差だと、そう言っていた。

 確かにメグリの聖遺物は力押しのアハルギとは相性が悪そうなのに、それでもメグリの方が上位だ。メグリが言いたかったのはそういうことだろう。この理不尽極まりないおとぎ話の世界ではアハルギだって手も足も出ないだろう。

 だけど。

 これはもう、そういう問題じゃない。

 どう足掻いても覆すことのできないんだ、聖剣の機能は。

 ランカー1位と4位、その差はあまりにも大きい。

 その絶対的な序列の意味を改めて思い知った。

「ルジネを殺させない」

 聖剣には勝てない。

 メグリだってそれを知っている。

 それでも、メグリは決して退かないだろう。

 いつだってそうだった、メグリはいつまでたっても魔力無しで役立たずで不出来なオレを、幼なじみってだけで守ろうとする。やかましい、うっとおしいぞ、このアマ。

 その優しい怠惰に甘えたくなかったのに。

 メグリはずっとオレのナイトだった。いつまでたってもオレを守ってくれる。

 そんな関係が嫌いで、そんな関係を変えたくて。

 オレがメグリを守る、そんな存在になりたくて。

 ーーだから、オレは。

「キミの大事な幼なじみはボクがとどめを刺すまでもなくいずれ死ぬだろう」

「うるさい! ワタシはお前を許さない!」

 ふたりの剣呑なやり取りにハッと我に返る。

 初めて見た、メグリがここまで取り乱した姿を。

 囚われることに我慢ならないのだろうか、がたがたと震えながらメグリが想像したそれは憎悪に歪んだ巨躯だった。

 喰らいつく顎、引き掴む鈎爪! 両の眼を炯々と燃やしたる怪物。怒めきずりつつもそこに迫り来たらん!

 それは誰しもが想像しうるよりもさらにおぞましく巨大だった。

 その見上げんばかりの怪物がメグリの怒声を代弁するかのようにけたたましく吠える。

 曲がりくねった木々が裂け、ティーカップは吹き飛び、ブリキの兵隊達は砕け散る。

 そんな想像の規格外にいる怪物は、めきりと地面に両足をめり込ませるとアーサーに向かって一気に跳躍、いや、ほとんど低空で飛翔する。

 音速を越えた突撃に空気の壁があっさり破り捨てられる。その巨体が押し出す圧力に、侵蝕の及ばなかったビルが震え、その軌跡に沿ってガラスが旧時代の石英のように簡単に弾けて飛ぶ。一瞬でアーサーの目の前に肉薄する。

 しかし。

 アーサーはその様子を一瞥しただけだった。

 勝負は一瞬だった。

 ほんのわずかに聖剣が瞬いただけ。

 たったそれだけで、その怪物はおろか、その後方にいたメグリさえも完全に沈黙する。

「なッ……」

 メグリでさえ何が起きたのか理解していないみたいだった。驚愕に見開かれたその魔眼は効果を発揮させる間もなく。瞬時に機械的な明滅を失う。

 がくり、力なく玉座から滑り落ちるメグリの身体。

 物語の消失。

 侵食されていた風景が耳障りなノイズとともに元に戻る。

 アーサーがメグリのことを気にも留めていないのは明らかだった。唯一の救いはアーサーがメグリを殺さなかったことだろう。

「メグリ、といったかな。キミは当局に連行する、ボクのスケジュールを乱しやがって」

 苛立ちをほんの少しだけ滲ませながら小さなガラス片を肩から払いのけると、アーサーは聖剣の具現化を解除した。

 そして、ようやくオレをちらりと一瞥する。

「こんなふざけた幻想が現実に存在するなんて認めない」

 アーサーはうつ伏せに倒れていたオレの身体を蹴り上げると、心臓に戻っていた魔剣に手を掛ける。

「や、やめ、」

 何の躊躇もなく無理やり引き抜かれる魔剣。噴き出す血。それは何のカタチにもならずに無様に撒き散らされる。ああ、寒い、寒い。

「ま、待てよ……」

 オレの声を無視して、気を失ったままのメグリを乱暴に抱えるアーサー。

 揺れる視界をどうにかこじ開ける。オレは声も出せずにその光景を、急速に薄れゆく意識の中で睨み上げることしかできなかった。

 ああ、まただ、どうしてオレはメグリを……




      ーー螳悟?縺ェ繧区風蛹
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