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2.病院ではお静かに

……魔法はホンマにあるんか?

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 轟音、真上から何かが崩れる音。

 今までかろうじてぶら下がっていただけだったのだろう、天井の残骸が落ちてくる。

 その絶望的な光景が酷くスローモーションに感じられて、ああ、これが走馬灯なのか、などと愚かしくどうでもいいことを思った。悲鳴すら上げられなかった。

 なんだか遥場さんの叫び声はとても遠くの方から水の中にいるみたいにくぐもって聞こえるような気がした。

 あ、死んだな。直感じゃなくたってわかる。

 せめて子ども達だけでも。

 だけど。

「ッ!」

 咄嗟に伸ばしたオレの手は完全に子ども達に届いていなかった。

 クソ、こんなに理不尽なことがあってたまるか。子ども達はまだ全然生きてないんだぞ。あまりにもあっけなさ過ぎる。

 この子達にはまだまだたくさんやることがあるだろ!!

 どんなに悔やんでも理不尽な運命に憤っても。

 オレには何もできなかった。

 オレ達はこんなにもあっさりと終わってしまうのか。

 悔しくて目を閉じる。終焉を恨む。

「…………?」

 何も起きない。痛みもない。これが、死?

 子ども達の泣き声たけが聞こえている。

 何があった? オレ達は死んでないのか?

 おそるおそる目を開ける。

「な、んだ……?」

 何か不思議な温かさがあった。

 目の前には少女の小さな背中があって、そして、崩れ落ちる瓦礫の雪崩を両手で、いや、両手から溢れる紫色の光で形作られた幾何学的な円形の紋様、そう、魔法陣で防いでいた。え、ウソだろ。

 そして、それはオレ達一家を包み込んでいた。この優しい温かさの正体はこれか。

 目の前で起きたことが信じられなくて。いや、さっきからずっと信じられないことばかりだったけど。

「……キミが守ってくれたのか?」

「ごめんなさい、わたしは決してあなた達を傷付けようなんて」

 彼女は前だけを向きながら瓦礫をゆっくりと安全な場所に落とす。

 そして、オレが何か言おうとする前に糸が切れたかのようにふっと力が抜けて、オレに向かって倒れかかる。

「うおっ」

 これは偶然! 冴えないおっさんに訪れた一生に一度あるかないかのちょっとラッキーなハプニング! 何もやましいことはない!

 オレの胸の中で力なく眠るように気を失っている少女を抱えながら思わず五日香の方を見てしまう。

「はあ、あのね、仕方ないときは何も言わないわよ」

「すいません」

「この子は私達の命の恩人よ、どうやったかはわからないけど。それをあなたに倒れかかったくらいでとやかく言わないわ」

「すいません」

「あなたこそ、その子を変な目で見てないでしょうね」

「すいま、見てません」
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