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2.病院ではお静かに

その結論、無理矢理

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 この一連のしょーもないやり取りを見ていた遥場さんはふと銃を下ろし。

「春嘉木さん」

「遥場さん、この子は」

「いえ、それは私にもわかっています。そうではなく」

「な、なんでしょうか」思わず身構える。

「まずは謝りたいのですがそれは日を改めます。今は時間がありません」

「?」

 時間がない? 避難するのにってことか?

「お願いがあります」

「お願い?」

「ええ、今頼めるのはあなた方しかいません」

 お願い? この状況で? あの超人バトルを繰り広げた遥場さんが? オレ達みたいな一般人に? え、こわ。

 遥場さんはちらりとオレが抱えている少女を一瞥すると、ほんの少しだけ躊躇うように視線を逸らしてから。

「この後始末は私達がなんとかするので、あなた達はその子を連れて行ってもらえませんでしょうか」

「はあ? 何言ってるんですか、あなた?」

 そうすっとんきょうな叫び声を上げたのは、オレじゃなくて五日香の方。

 だけど、遥場さんもそのお願いが途方もなく馬鹿げているのは百も承知だということは理解しているようで。

 それでも、まっすぐにオレ達を見つめる真剣な、そして、懇願するかのような眼差し、そんなことをこの場にいただけのオレ達に頼むくらいには切羽詰まっている。

「さっきのこの子の力、あなた方も見たでしょう?」

 そうだ、あれは一体何だったんだろう。

 突然ファンタジーみたいな大剣を作り出し、それを簡単に振り回し、天井の落下からオレ達一家を助けてくれた。

 そのどれもが現実離れしている。

 まるで、本当に異世界から転生してきたファンタジーの勇者みたいだ。

「警察の手に負えない、というか、こんなの行政がなんとかしようとするのが間違っているまであるわ」

「だけど」

 五日香は反論しようとしているけど、どれに対して異を唱えればいいのかわかっていないみたいだった。

 だって、遥場さんの言うことは一理どころか百理くらいあると思う。誰にもこの状況を説明できやしない。

「私達警察がこの少女を何とかしようとすればまたこんなことが起きてしまうかもしれない」

 周囲の惨状を見渡す遥場さんの声は疲弊しきって、まるで胸の奥から絞り出すようだった。彼女はあの攻撃から何も守れなかった。それを悔やんでいるんだと思った。

「だから、あなた方のような穏やかな家庭で保護してもらう方がずっと安心なんです」

「マジか……」

 次の日、どのチャンネルでもトップニュースになっていた赤神無市立病院で起きた爆発事故の映像の隅っこに、慌てて車で走り去るオレ達の姿が映っていたけど、誰にも自慢できそうにはなかった。
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