イリーナ

日暮マルタ

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生活

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「制御魔法はね、魔法を包み込むようにするんだ」
 スヴェンは約束通り、魔法を教えてくれるらしい。忙しい公務の間に妾に会いに来てくれた。スケジュール管理が大変そうだけど、自分にそれだけの価値を感じてくれている、と思うと、嬉しい。
「包み込むって言われても、感覚的でわからないわ」
「想像して。暴れ叫ぶ魔法を鋼鉄の雄牛が覆う様を」
「ファラリスの雄牛! 制御魔法はファラリスの雄牛だったのね!」
 妾は高い声を出して笑った。学園の授業とは全く違う。ああ、元気かな、制御魔法の先生優しかったんだよなぁ。
「制御魔法の鬱屈とした感覚は、鉄の処女をイメージするといい。魔法を優しく抱きしめるんだ」
「笑っちゃって、イメージできない」
「笑い事じゃない。だけど、この話で笑ってくれる人は初めてだ」
 スヴェンとの生活は刺激的で楽しい。それに、自分をさらけ出せる。教会にいた頃の貞淑な暮らし、学園にいた時の鬱屈としたあの日々。全て夢幻だったかのように、今の生活が楽しい。
 
「本当に、結婚式はしなくていいの?」
「いいんだ。というか、できない。私の見た目が変わらないことを指摘されたらまずい。私の都合で、ごめんよ」
「いいわ」
 目立つのは嫌いだ。二人とも悪評ばかりの人物だし、ちょうどいいのかもしれない。しかし……夫人の身分は妾には荷が重いように思える。貴族のマナーだって知らないのに、本当に妾でいいのだろうか。
 本当に妾でいいの? と、何度尋ねたことだろう。スヴェンは冗談を受けとるみたいに笑っている。

 綺麗なものを壊すのは気持ちがいい。スヴェンが時々出かけるという闇オークションでは、綺麗な魔人や人間が売られていて、競り落とすのもまた楽しいのだそうだ。妾も出かけてみたいわ、そんな所。そう言ったら、連れて行ってくれることになった。ただし、闇魔法を正しく使えたらという条件で。
「中に宝物が入っているから、外側だけを壊してごらん」
 スヴェンは緑の醜い魔物が這いつくばっているのを指さした。魔法学校で、これの樽版やったことあるなぁ。
「妾、中身まで壊しちゃうので有名だったの……」
 スヴェンは片眉を上げる。
「構造をよく考えることだ。この魔物は、宝物を経口摂取している。胃の辺りに触れないようにすればいい」
「樽ですらダメだったのよ」
「ははっあの試験まだ残ってたの。というか、そうか、樽でダメなら難しいかもね」
 難易度を下げてくれるかと思ったが、スヴェンはとりあえずやってみて、と面白そうに見ている。
 イボだらけの緑の生き物は死にそうな呼吸をしている。胃がどこかは知らないが、体の中心部だろう。ならば、外側の皮は要らない。手足と一緒に、メリメリとはがしていく。魔物は醜い悲鳴を上げた。
「いい判断だ」
「あら、そう?」
 褒められると嬉しい。学園ではミスばかりして褒められなかったので。
 緑の生き物から出る赤い血で床が汚れる。とはいえ、ここはスヴェンの趣味の部屋なので既に不穏なシミだらけではある。
 さてここからどうすればいいだろう。真っ二つに切り裂いてみる? 中身が切れて終わりだ。なら、両端から引っ張ってみたら?
 物理的な力を加える魔法、それなら暴走の心配もそんなにない。妾は魔物の端と端にフックを付けるイメージで、引っ張っていく。魔法はイメージと感覚で出るものだ。
 魔物はぎゃぴぃ、と甲高い悲鳴を上げた。ぶちぶちと繊維が千切れていく。自分にこんな残酷な一面があるとは知らなかった。でも、魔物相手だとやっぱり楽しくない。少ししか。
 千切れた魔物の中身も丹念にちぎっていく。最後に液と共に、鍵が出てきた。透明の袋に入っている。
「成功したみたい!」
 スヴェンは嬉しそうに拍手をくれた。
「闇魔法は使わなかったね。物理魔法だけだけど、それはどうして?」
「一番暴走しやすいし、中の宝物を傷付けたくなかったから」
「そっか。追々闇魔法も練習していこうね、また練習内容考えてみるから。……それより、宝物が何か、気にならない?」
 スヴェンは血の臭いのする魔物の体の破片から、袋に入った鍵を手に取った。
 よく触れるな、あんなもの。
「何か楽しいもの?」
「この箱を開けてごらん」
 スヴェンは懐に隠していた宝石箱のような物を袋の中の鍵と一緒に渡してきた。
 そっと鍵穴に鍵を差し込むと、かちゃりと音を立てて回る。中には、宝石で彩られた……首輪が入っていた。
「えっあの」
 妾が狼狽していると、スヴェンが首をかしげる。気に入らなかった? という顔をしている。
 魔族の国の習慣では、愛する人に首輪を送るのが愛情表現だと聞いたことがあるが、それなんだろうか。ここは人間の国のはずなんだけど。
「その首輪が似合うペットを何でもプレゼント、って意味なんだけど」
 妾の慌てようを見て何かを察したらしいスヴェンが、補足した。
 なんだ、ペットか! 慌てた。良かった、常識的な贈り物だ。
「小型の、可愛い、モフモフしたのがいい!」
「護衛も兼ねて、フェンリルなんてどう? 大きいのも可愛いと思う」
「確かに……」
 首輪のサイズはかなり大きかった。調節できるようになっているらしい。
 フェンリル、数回だけ遠くから見たことがある。一回は偶然、もう一回は学校の見学会で。賢くて恐ろしい獣という印象がある。神話では神殺しの狼だ。
「子フェンリルを大きく育てる?」
「そうしよう」
 妾はスヴェンと目を合わせて笑った。家族が増える。なんて嬉しいことだろう。
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