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第1章
選択の儀5
シェルミーユは見覚えのない部屋で目を覚ました。
白を基調とした部屋の家具は天涯付きのベッドのみ、大きな窓がひとつと、赤と白の木製の扉が1つずつ……
「ここは……どこだ?」
選択の儀の最中に襲われたシェルミーユは足を負傷し、死を選んだ……が、その前後の記憶が曖昧だった。
(なぜ私は生きているんだ?)
シェルミーユは何か手がかりを得るため、窓の方へ向かった。質素に見えた窓枠は手のかかった細工がされている。ここはある程度上位の戦士の家のようだ。窓からはクリムゾン王国の町並みが見渡せた。
(もしかして、私は死にきれず奴隷選抜にかけられたのか?)
しかし、奴隷部屋にしては綺麗すぎるし、他の奴隷が見当たらない。
シェルミーユは自分の格好を改めて見てみた。返り血を浴びたあとは跡形もなく綺麗にされ、清潔感溢れる白い衣服を着せられている。
(伴侶に選ばれた……? 誰に?)
シェルミーユに己を背負って崖を登るような逞しい異性の知り合いなどいなかった。
思索に耽っていると赤い扉が開き、果物籠を持った少年が入ってきた。
その顔には見覚えがあった。
「ラ……イアナ?」
ライアナと目があった瞬間、シェルミーユは曖昧だった記憶がフラッシュバックした。
(意識が途絶える直前、ライアナは私に謝っていた――)
「お前が私を……奴隷に……?」
怪訝そうに問うとライアナは間髪入れずに訂正した。
「違う! 奴隷ではない」
「ではなぜ私はここにいる? なぜ生きている?」
「背負ったからだ……」
「は?」
ライアナはシェルミーユの視線に耐えられなくなり目をそらすと、頬を少し染めて言った。
「俺がお前を背負って崖を登ったからだ」
シェルミーユはライアナが何を言っているのかわからなかった。
力のあるライアナがなぜ男である自分を背負ったのか、理解できなかった。
(私は同情されたのか……?)
シェルミーユは選択の儀の際にライアナのその力を目の当たりにして、彼に憧れを抱いた。そんな彼に同情され、見下されたと思ったシェルミーユはひどく落胆した。
俯き、微動だにしないシェルミーユを心配して、ライアナは彼を下から覗いた。
「シェルミーユ、どこか痛いのか?」
「……痛い…………?」
ライアナは壊れ物を扱うようにシェルミーユの肩に触れた。
「ふざけるな……。私は男だ、そんな扱いは…………不要だ!」
シェルミーユはカッとなってそう言い、赤い扉から外に飛び出した。後ろでライアナの声がする。
一心不乱に走っていると門前でシェルミーユの前に1人の男が立ちはだかった。
「お戻りください、シェルミーユ様」
男はこの家の奴隷、もとい使用人のようだ。
「どいてくれ」
シェルミーユは焦った。ライアナの声が近づいてきているからだ。
「頼むからそこを――」
「出来ません。お諦めくださいシェルミーユ様、これは王命でございます」
シェルミーユは耳を疑った。そして、1つ気になることがあった。
「王命……。……ところでなぜ、お前は私の名を知っているのだ?」
使用人は深々と頭を下げて言った。
「……選択の儀以降、あなた様の名を知らない者は、もはやこの王国にはおりません」
シェルミーユは使用人から、両親や成人男子らがシェルミーユを賭けてライアナと戦い敗れたこと、それを見た国王がライアナを次期国王候補としてこの地に留まらせるために、シェルミーユの件を黙認、協力することを条件に挙げたことなどを聞いた。
「シェルミーユ様、あなた様は次期国王候補のライアナ様の伴侶となられる御方。性別の問題はあれど、ライアナ様が即位された暁には正室の座が決まっておられます」
シェルミーユは愕然とし、その場にへなへなと座り込んでしまった。あまりのことに言葉も出ない。国王が認めたということは、逆らえば全国民を敵にまわすということだ。
(――逃げられない……)
ライアナがシェルミーユに追いつくと使用人はライアナに一礼し、その場を去っていった。
「シェルミーユ……」
ライアナは項垂れるシェルミーユの前でしゃがみ、様子をうかがう。
「……痛い……」
シェルミーユはか細く呟いた。
裸足で走ったためにシェルミーユの足は、すり傷ができ、少し血が滲んでいた。
「傷の手当てを……」
ライアナがそう言ってシェルミーユの痛々しい足に手を添える。
「――ないっ」
シェルミーユはライアナの手を払い除けると、ありったけの憎しみを込めて睨んだ。その瞳からは大粒の涙が止めどなく溢れ出ていた。
「こんな傷、大して痛くもない! 私が痛いのはっ――こんなものでは――ないっ」
しゃくり上げながらもシェルミーユはライアナに怯むことなく睨み続ける。
「私はお前を許さない」
一瞬でも憧れた男に、同情され、か弱き者を扱うごとき扱いは、男であるシェルミーユには耐えがたき屈辱だった。
「許さないっ……」
嗚咽を漏らしながらもそう言うシェルミーユを、ライアナは苦しい表情で優しく遠慮がちに抱きしめる。
「すまない……。シェルミーユ」
ライアナは何度も何度も謝罪した。
「どうして――、どうして私が――っ」
ライアナはシェルミーユを抱きしめる力を少しだけ強くした。
「すまないっ」
その日、ライアナはシェルミーユが泣き疲れて眠るまで抱きしめ続けた。
白を基調とした部屋の家具は天涯付きのベッドのみ、大きな窓がひとつと、赤と白の木製の扉が1つずつ……
「ここは……どこだ?」
選択の儀の最中に襲われたシェルミーユは足を負傷し、死を選んだ……が、その前後の記憶が曖昧だった。
(なぜ私は生きているんだ?)
シェルミーユは何か手がかりを得るため、窓の方へ向かった。質素に見えた窓枠は手のかかった細工がされている。ここはある程度上位の戦士の家のようだ。窓からはクリムゾン王国の町並みが見渡せた。
(もしかして、私は死にきれず奴隷選抜にかけられたのか?)
しかし、奴隷部屋にしては綺麗すぎるし、他の奴隷が見当たらない。
シェルミーユは自分の格好を改めて見てみた。返り血を浴びたあとは跡形もなく綺麗にされ、清潔感溢れる白い衣服を着せられている。
(伴侶に選ばれた……? 誰に?)
シェルミーユに己を背負って崖を登るような逞しい異性の知り合いなどいなかった。
思索に耽っていると赤い扉が開き、果物籠を持った少年が入ってきた。
その顔には見覚えがあった。
「ラ……イアナ?」
ライアナと目があった瞬間、シェルミーユは曖昧だった記憶がフラッシュバックした。
(意識が途絶える直前、ライアナは私に謝っていた――)
「お前が私を……奴隷に……?」
怪訝そうに問うとライアナは間髪入れずに訂正した。
「違う! 奴隷ではない」
「ではなぜ私はここにいる? なぜ生きている?」
「背負ったからだ……」
「は?」
ライアナはシェルミーユの視線に耐えられなくなり目をそらすと、頬を少し染めて言った。
「俺がお前を背負って崖を登ったからだ」
シェルミーユはライアナが何を言っているのかわからなかった。
力のあるライアナがなぜ男である自分を背負ったのか、理解できなかった。
(私は同情されたのか……?)
シェルミーユは選択の儀の際にライアナのその力を目の当たりにして、彼に憧れを抱いた。そんな彼に同情され、見下されたと思ったシェルミーユはひどく落胆した。
俯き、微動だにしないシェルミーユを心配して、ライアナは彼を下から覗いた。
「シェルミーユ、どこか痛いのか?」
「……痛い…………?」
ライアナは壊れ物を扱うようにシェルミーユの肩に触れた。
「ふざけるな……。私は男だ、そんな扱いは…………不要だ!」
シェルミーユはカッとなってそう言い、赤い扉から外に飛び出した。後ろでライアナの声がする。
一心不乱に走っていると門前でシェルミーユの前に1人の男が立ちはだかった。
「お戻りください、シェルミーユ様」
男はこの家の奴隷、もとい使用人のようだ。
「どいてくれ」
シェルミーユは焦った。ライアナの声が近づいてきているからだ。
「頼むからそこを――」
「出来ません。お諦めくださいシェルミーユ様、これは王命でございます」
シェルミーユは耳を疑った。そして、1つ気になることがあった。
「王命……。……ところでなぜ、お前は私の名を知っているのだ?」
使用人は深々と頭を下げて言った。
「……選択の儀以降、あなた様の名を知らない者は、もはやこの王国にはおりません」
シェルミーユは使用人から、両親や成人男子らがシェルミーユを賭けてライアナと戦い敗れたこと、それを見た国王がライアナを次期国王候補としてこの地に留まらせるために、シェルミーユの件を黙認、協力することを条件に挙げたことなどを聞いた。
「シェルミーユ様、あなた様は次期国王候補のライアナ様の伴侶となられる御方。性別の問題はあれど、ライアナ様が即位された暁には正室の座が決まっておられます」
シェルミーユは愕然とし、その場にへなへなと座り込んでしまった。あまりのことに言葉も出ない。国王が認めたということは、逆らえば全国民を敵にまわすということだ。
(――逃げられない……)
ライアナがシェルミーユに追いつくと使用人はライアナに一礼し、その場を去っていった。
「シェルミーユ……」
ライアナは項垂れるシェルミーユの前でしゃがみ、様子をうかがう。
「……痛い……」
シェルミーユはか細く呟いた。
裸足で走ったためにシェルミーユの足は、すり傷ができ、少し血が滲んでいた。
「傷の手当てを……」
ライアナがそう言ってシェルミーユの痛々しい足に手を添える。
「――ないっ」
シェルミーユはライアナの手を払い除けると、ありったけの憎しみを込めて睨んだ。その瞳からは大粒の涙が止めどなく溢れ出ていた。
「こんな傷、大して痛くもない! 私が痛いのはっ――こんなものでは――ないっ」
しゃくり上げながらもシェルミーユはライアナに怯むことなく睨み続ける。
「私はお前を許さない」
一瞬でも憧れた男に、同情され、か弱き者を扱うごとき扱いは、男であるシェルミーユには耐えがたき屈辱だった。
「許さないっ……」
嗚咽を漏らしながらもそう言うシェルミーユを、ライアナは苦しい表情で優しく遠慮がちに抱きしめる。
「すまない……。シェルミーユ」
ライアナは何度も何度も謝罪した。
「どうして――、どうして私が――っ」
ライアナはシェルミーユを抱きしめる力を少しだけ強くした。
「すまないっ」
その日、ライアナはシェルミーユが泣き疲れて眠るまで抱きしめ続けた。
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