王様と籠の鳥

長澤直流

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第2章

若き王と寵愛の雲雀1

 10年の月日がたち、ライアナの背丈は180センチを超え、さらに逞しく成長し、戦場に出ては戦果を挙げる日々を送っていた。
「次期国王はライアナに違いない」
 皆がそう噂する中、当の本人、ライアナは浮かない顔をしていた。
 ライアナとシェルミーユは、彼を勝ち取ったあの日から共に暮らしていた。
 しかし、妻でもなく奴隷でもないシェルミーユの立場は世間的には非常に不安定だったため、彼自身は外を1人で出歩くことは禁止され、ライアナの帰りを待つという生活を強いられていた。
 屋敷内ではある程度の自由を許されていたシェルミーユだったが、日に日に美しさを増す彼に民衆が騒ぎ出したため、周りの目が我慢できなくなったライアナは大きな籠を作りそこに彼を閉じ込めることにした。
 あまりの理不尽さにシェルミーユは抗議したが、待遇は改善されることはなかった。
 暇を持て余したシェルミーユは歌うことで気を紛らしていたのだが、その歌声が素晴らしかったために噂となり、また日々籠の中で生活させられていたこともかさなり、シェルミーユにはいつのまにか『雲雀』というあだ名がつけられていた。
 次期国王候補に狂的に寵愛される雲雀、誰もが一目見よう、その歌声を聴こうとライアナが留守の時に訪れるが、籠ごと厳重に鍵のかかった部屋に閉じ込められたシェルミーユを見ることも、声を聴くことも、実の親ですらままならなかった。

「俺は……王にはなりたくない、お前がいてくれればそれだけでいい」
 そう言って、ライアナはベッドに腰かけた。
 権力に興味のないライアナにとって国王の位、責務など面倒なだけだった。
「王に……なればいいだろう」
 ライアナがシェルミーユを見る。
 窓際に佇むシェルミーユは陽の光を浴びて輝いて見え、ライアナは眩しそうに目を細めた。
 シェルミーユはライアナが国王になれば妻を娶らなければならないことを知っていた。そしてその時、自分も解放されるのではと淡い期待もしていた。10年前とは違い、お互い体つきも大人になってきた。花のように美しい年頃の女達にライアナが心変りをしても不思議ではないだろう。
 閉鎖的なこの空間の中で体力の落ちたこの体では戦士としては生き残れない。シェルミーユは解放された暁には新しい地を目指してこの地を去ろうと決めていた。
 たとえその先に死が待っていたとしても――
「王になって欲しいのか? お前がそれを望むのなら俺は……」
 ライアナの瞳の中に仄暗い炎が宿る。この男に不可能など無いのだ。
(自分が望んでなれるものならなればいい、そして私を解放してくれ――)

 翌日、ライアナは国王のもとに向かった。
 クリムゾン王国では通常、国王の譲位は行われない。国王の退位、それは現国王を打ち負かすものが現れた時、現国王の死によって成立する。よって、国王の御前にて宣言するのだ。

 自分がこの国の新たな王であると――

 ライアナは臣下達に囲われ玉座に座る現国王、ジョルジュを見据えていった。
「俺がこの国の王となる、故に――」
 その一言が国王進退の儀式の合図となる。
「死ね」
 臣下一同が騒めく、名こそ知れ渡っているが若干15歳の子供が国王に盾突いたのだから無理もない。本来ならばここで現国王であるジョルジュが返り討ち宣言をして頂上決戦が始まるのだが……此度は違った。
 ジョルジュは無言で立ち上がると、ライアナの下まで降っていった。

 ジョルジュは選択の儀の際にライアナと初めて対峙し、この者が次期国王だと漠然と感じた。さらに、崖下に転がる青年の死体と頭を目の当たりにし、事の成り行きを知っている者に話を聞くと、それは確信へと変わった。その時ジョルジュは気分が高揚していくのがわかった。
(ああ、私は自分の仕えるべき王を見つけたのだ)
 10年前のあの日から、ジョルジュはこの時を心待ちにしていた。

「偉大なる若き我が王よ、どうか私めに、今一度戦士としてあなた様に仕える御慈悲をお与えください」
 ジョルジュが膝をつき、ライアナに仕官を申し入れたのだ。
 本来ならば謀反を起こしかねない前国王は排除される。しかし、ライアナはこれを承認した。
「国にではなく俺に忠誠を誓い、俺のために死ね」
 元よりそのつもりだったジョルジュは、誓いの証に頭を垂れてライアナの足に口づけをした。
 ライアナの冷ややかな顔とは対照的にジョルジュのその表情は真の主に仕えることの出来る喜びに恍惚としていた。

 こうして若干15歳という若き王が誕生した。

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