11 / 43
11 聖女と交換日記
しおりを挟む日記を持つ手が震える。
どういうこと? 聖女オリヴィア?
私はあわてて続きを読んだ。
『混乱しているわよね。
私は、これを日本で書いているの。
私は日本で、死んだ人間の体に入り込んで日本人として暮らしているわ。
もちろんあなたの体ではないわよ。』
えっ、オリヴィアが日本に!?
私みたいに魂だけ移動したってこと!?
『私は神殿にいる時、身の危険を感じていたの。
だから、万が一に備えて自分の神力でしか開かない日記をあらかじめ作っておいたのよ。
それが今あなたが読んでいるもの。
そして日本でも同じものを作って、それとつなげたの。』
身の危険……?
『何か気になることがあったらその日記に書いておいてね。
ただ、日本とそちらでは時間の流れが違うから、私の返事が届くまでに時間がかかるわ。
日本の時間の流れはそちらの約五倍なの。
さて、一度に書ける文字数は決まっているから、今回はここまで。』
え、気になる情報をチラ見せして、今回はここまで!?
『最後に一つだけ。ルシアンを信用しては駄目よ。
すべての元凶はあいつなの。』
その言葉にドキッとする。
ルシアンを信用するなって、どういうこと……? 元凶?
『私の言葉を信じられないかもしれないから、あなたに制約魔法をかけるわ。
あなたが読んでいる日記にあらかじめ仕込んでおいたの。
あいつの誓約魔法と違って死んだりしないから安心して。
あなたと私の身を守るためなの、どうか理解してね。』
そこまで読んだところで、頭にちりりとした痛みが走る。
また何か魔法をかけられた!?
みんな私をなんだと思ってるの、もう!
オリヴィアの魔法のせいなのかあまりの情報量ゆえか、頭が痛む。
考えをまとめるため、ひとまずソファに腰掛けた。
それにしても驚いた……まさかオリヴィアが日本にいるなんて。
しかも死んだ人間に入り込んで生活している? まるで私みたい……。
情報を整理すると、オリヴィアは日本にいる。
オリヴィアは乙女ゲームの世界から飛び出た人で、私は乙女ゲームの中に入り込んでしまった人、なの?
うーん……何か違和感。
いずれにしろ、オリヴィアは今、なんらかの力……たぶん神力を持っている。
日本でこれと同じ日記を作ってそれをつなげて、なんて普通の人間にできるわけがない。
それと、日本の時間の流れはここの約五倍。
……ってことは、オリヴィアの体から魂が抜けて八か月くらいだから、えーと……オリヴィアが日本に行って三年以上経ってる? 魂の移動時間をほぼゼロと考えれば、だけど。
一番気になるのは、オリヴィアが身の危険を感じていたということ。
ルシアンの話では、オリヴィアは自分で毒を飲んでそれが原因で魂が抜けてしまったということだけど……。
身の危険を感じてあれこれ準備していたオリヴィアが自殺って、何か不自然じゃない?
そのオリヴィアが、ルシアンを信用するな、すべての元凶は彼だと言う。
まさか、ルシアンがオリヴィアを……!? ううん、いくらなんでもそんなこと。
寒気がする。
どちらかが嘘をついているの?
どちらを信じればいいの?
怖い。
元気に楽しく生きられればそれでいいと思っていたのに、思っていたよりも事態は複雑なのかもしれない。
そうだ、オリヴィアは気になることがあるなら日記に書いておいてと言っていた。
どちらが信用できるかなんて、まだ判断できない。
まずは情報を集めなきゃ。
私は日記に書き込んだ。
『初めまして、桜井織江といいます。
ここは『あなたに捧ぐ聖なる祈り』というゲームの数年後の世界に思えるのですが、私はゲームの主人公(聖女)に憑依したのでしょうか。
それと、あなたはなぜ神力らしきものを持っているのでしょう。
ルシアンを信用するなというのはどういうことですか?』
ここまで書いて、急に疲労感に襲われる。
単純に疲れたというよりは、エネルギーが急に奪われたみたいな。
そういえば、字数に制限があると書いてあった。
もしかして、この日記に文字を書くのって体力を消耗するものなの?
オリヴィアはあんなにつらつら書いていたのに、私はたったこれだけで疲れてしまうなんて。今は健康体なのに。
仕方がない、とりあえずある程度聞きたいことは書いたから、返事を待とう。
日記を閉じると、カチッと音が鳴って自動的に鍵がかかった。それを引き出しにしまい、ベッドに体を投げ出す。
体が重い。
だめだ、眠い。今日はもう眠ろう……。
130
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる