18 / 43
18 日記再び
しおりを挟む大神殿から帰ってきて以降、私は怠惰な日々を過ごしていた。
なんだかもう気が抜けちゃって。
ごはんもおやつも美味しいし、神殿内は自由に過ごせるし、この世界の本も読み放題だし、身の回りのこともやってもらえるし、快適。
だけど、ちょっと退屈なんだよねえ。
オリヴィアの気持ちがわかるとは言わないけど、暇だから刺激を求めてろくでもないことをしていた部分もあったのかなと思う。
ああ、スマホが欲しい……。
少し早いけれど、もそもそとベッドにもぐりこむ。今日も何もせず終わった……。
ナイトテーブルに手を伸ばして、そこに置いてある球体に触れる。灯かりがふっと消えた。
このタッチセンサーライトは大神殿でもらったお土産で、聖なる力が宿った聖具。安眠ももたらしてくれるのだとか。
ほかにも扉のところに掛けてある魔除けのお守りに、私が今身に着けている双子石の聖石。これはルシアンがもう一つ同じものを持っていて、私の体調に急激な変化が起きたらわかるのだとか。
ある日突然魂が抜けちゃったりするかもしれないしね……。
ルシアンも聖皇から大量にお土産をもらっていたようだし、遊びに来た孫に大量のプレゼントを渡すおじいちゃんみたいだと密かに思った。
そういえば、ルシアン。
私にかけた誓約魔法は、死ぬ魔法じゃないって教えてくれた。
少しの間しゃべれなくなるだけだって。
抗議したら、聖女が死ぬような魔法をかけるわけないでしょう、私が困るだけですから、と笑顔で言い放った。
腹立つわぁ……。
でもそれ以上抗議できない小心者な私。
もう寝てしまおうと目をつむったけれど、ふっと部屋が明るくなった気がして目を開ける。
チェストに目をやると、その引き出しから青い光が漏れていた。
って、あー! 忘れてた!
オリヴィアと交換日記してたんだった!
そうだ、ルシアンに言おうとした途端にこのことを忘れて……これが制約魔法の効果だったのかぁ、ぐぬぬ。
みんな私に好き放題魔法かけすぎじゃない?
とはいえ、日記は気になる。
私は日記を手に取ってソファに掛け、おそるおそる開いた。
『ご機嫌よう、桜井織江さん。
元気に過ごしているかしら?
退屈で仕方がないんじゃない?
そうそう、あなたはアナイノのプレイヤーだったのね。驚いたわ。
実はあのゲームの製作者の一人が私なの。
体の持ち主がもともとそういう仕事をしていたのよ。
私一人で作ったわけじゃないし、キャラデザはあまり似ていないでしょうけど。』
えー!?
オリヴィアがこの世界をもとにアナイノを作ったの!?
どうりで……。
つまり、ここは異世界ではあるけれど仮想の世界ではなかったということ。
ただ、私が憑依したこととアナイノは無関係なんだろうか? 出来すぎているよね。
『ところで、そちらと日本には、次元的につながりがあるようなの。
私が日本に逃げて来られたのもそのためよ。
思いがけない事態で日本人に憑依することになったけど、私は自由を満喫しているわ。
こちらは本当に楽しくて、絶対に戻りたくないわね。』
日本に逃げた?
『ルシアンを信用するなということだけど。
あいつが、私を殺したのよ。
もしかしたら、あなたには自殺とか都合のいいように言っているかもしれないけど。』
……えっ。
どういう、こと?
ルシアンが……オリヴィアを殺した?
『危機を感じていた私は、少しずつ体から魂に神力を移していったの。
ごめんなさいね、そのせいで体の神力はほぼ空よね。
でも、生き延びるにはそうするしかなかったのよ。
ごめんなさい、今回はここまで。』
日記はそこで終わっていた。
心臓がどくどくと嫌な音を立てる。
ルシアンが、オリヴィアを殺した? そんな馬鹿な……。
ああもう、もうちょっと肝心なところをしっかり書いてよ。これじゃあ何も判断できない。
ルシアンの言っていることが本当だった場合。
理由は不明だけどオリヴィアは自殺し、その空になった体に私がなぜか入り込んだ。
オリヴィアの言っていることが本当だった場合。
ルシアンに狙われていると悟ったオリヴィアが、肉体から魂に神力を少しずつ移し替えていた。そして彼に殺されたときに魂だけ日本へと逃げた。私が体に入り込んだ経緯はまだ不明。
オリヴィアの言っていることのほうが具体的だけど……。
でも、本当にルシアンはそんなに悪い人だろうか。
いくらオリヴィアを嫌っていたとしても、彼が聖女を殺す?
神殿のことを誰よりも考えていると聖皇が言っていたのに。
それに……あくまで主観だけど、どうしても彼のことを悪い人だとは思えない。
一方のオリヴィアは、嫌われまくっていたことを考えると素直に信用するのは難しそうな性格。
だとしたら、私に嘘をついているの? なぜ?
ルシアンに相談できれば早いんだろうけど、制約魔法を受けているからそれもできない。
別の人にオリヴィア死亡の経緯を聞こうにも、ルシアン以上に知っている人がいるとは思えないし、また制約が発動してしまうかもしれない。
仕方がない……もう少しオリヴィアから詳しい話を教えてもらおう。
『どうしてルシアンは聖女であるあなたを殺したのですか?
そして、私はどうして聖女オリヴィアの体に憑依してしまったのですか?
アナイノをプレイしたこととは無関係なのでしょうか』
質問を多くしすぎると肝心の部分への返信が薄くなりそうだから、今回はこれだけにしておいた。
文字数が少ないせいか、前回よりも疲労感が少ない。
とりあえず、返信を待とう。
135
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる