太陽はなにを照らすのか

天久 縁

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ifストーリー -アイドル-

将来の希望と歩み

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 曲が流れると身体が自然に動くほど踊り慣れた振り付けをしていると、さらりと風になびく白い髪が目に入った。

俯きがちに歩いている白髪の男性の周りは心做しか少しどんよりとしている気がしてほっとけないと思った。アイドルを目指そうと思ったきっかけがまさにあのような人を救うためだったから余計にそう思わせた。

 ハーフの自分はいじめこそ無かったが、避けられていたり、よそよそしかったりと周りに馴染めずにいた。そんな時、救ってくれたのが街中にある大型の液晶画面に映るアイドルという存在だった。自分と似たハーフのような顔立ちの男性や女性が歌って踊って色々な番組に出て、視聴者を、ファンを笑顔にしていた。

まだ幼く単純なルイは救われた恩返しに自分もアイドルになることを決意した。
そして同じくアイドルに憧れを抱く真島まじま 蒼生あおいとユニットを組んで今日ここまでやってきた。

まだまだひよっこで地下アイドルほどの認知度の域を出ない崖っぷちアイドルだ。特別に借りることが出来た小さな、それでいて過去一番大きな野外ステージ。携わった方は少なくとも思いは普通のライブ会場と変わらない。

時間帯が宜しくないのか立ち止まってまで見る人は少ない。だが、そんなことルイには些細なことだった。むしろこんな機会中々無いため楽しんでやろうとだけ思っていた。

 煌めく太陽とそれを助長するスポットライトの下で自分色のペンライトを振るファンの姿。会場の熱気がこちらまで伝わってきて、ファンもスタッフも自分達も汗だくになりながら声を張り上げる。数曲歌い終わり会場が暗くなると前振りの声掛けが始まる。再びぱっとステージが明るく輝いて自分達が登場する。それに合わせて歓声をあげるファンの姿。ライブが終わっても余韻に浸る観客。

そんな景色がルイの脳内を埋め尽くしていた。きっと隣にいる蒼生もそうなのだろう。日の当たらない場所で踊っている時以上に目が輝いて、楽しんでいるように見える。

もう体は疲れているはずなのに、心は全く疲れていなくて、今歌い始めたかのように新鮮な気持ちで歌っていた。頬や首、背中を伝う汗を気にも留めず、精一杯のパフォーマンスをするなんて、幸せで喜ばしいことだろう。そんな姿を一人でも多く見てもらいたくて、立ち止まってくれた彼へ指を伸ばしてみる。

少し驚いた表情をした彼からは最初見たどんよりとした空気が少し和らいでいた。
蒼生も彼に気付いたようでにこりと微笑んでいる。珍しい蒼生の微笑みは向けられた本人以外にも刺さったようで、黄色い歓声が上がった。
二人からファンサをされた彼は頬を赤らめて佇んでいた。その表情が画面の前でアイドルを見ていた幼少期の自分と重なり、感極まってしまった。

 結局その人は最後までいてくれた。曲に浸るように、拍手も声もあげず、微動だにせず、ただそこにいた。見守るように虜になるように。

そして、なんと円盤を購入してくれた。珍しい男性ファン─になってくれたら嬉しい─ということもあり、見てくれただけでなく円盤まで購入してくれたことに驚きを隠せなかった。いや、そうではない。買ってくれると信じていたことが裏切られず嬉しかったんだ。

必死に踊った甲斐があった。ここの会場を直談判してまで取った甲斐があった。見つけてくれた。それだけで嬉しかった。ありがたかった。笑顔で去っていく彼の姿が暖かくて、こちらまで微笑ましい気持ちにさせられた。

 これからテレビで見ない日はないぐらい人気になってやる。だからずっと推していて欲しい、そう思った。彼との出会いはきっと今後も忘れないだろう、人気になった時、彼のような幼少期の新鮮な気持ちを持ち続けていたい。
そんな彼の背中に、ファン候補の背中に、深々としたお辞儀で送り出した。





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感想 1

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みんなの感想(1件)

ぱっぱらぱー

表現がとても上手で映像作品を見ているようでスラスラ読めました

2025.02.16 天久 縁

感想ありがとうございます!
短編も少しですが用意しているので楽しみにしていてください〜

解除

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