世界を救った勇者は迫害され、獣人と空中領地で都市を築く。

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計画遂行、それから

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リリーは剣を納め奥にある扉を開けた。その先は廊下だった。「どうやらこの城は床や階段に仕掛けがあったようだね」「王様の位置はわかるの?」そんなエアの問いかけにリリーは最後にコイツを置くと言っていた物を取り出した。良く目を凝らして見るとうっすらと線が繋がっていて伸びてる方向によって濃さが違っている。「この濃さが均等になる辺りがいい」廊下は見張りの一人もいない。それどころか最初に見たあの謎配列な大量の魔導具もない。そのまま大きな扉の前に着いてしまった。「やっと着いた、エア的にどう?」扉を指差し蹴る仕草をするリリーにエアは「どんな犯罪者の国であれモラルを欠くような行為は良くないってリリー本人が言ってたでしょ?普通に開けよ」と言った。リリーは「大きくなったな、私はその返答を待っていたよ」と少し惜しげに頷くと扉を開いた。教会のような椅子の配列、王様がリリー達に気付くと椅子から立ち上がりこちらを向いた。王様の拍手の後すぐに拍手が鳴り響き少しギョッとするリリーとエア。魔水晶を通して一連の戦闘が音無しだが流されていたようだ。「ようこそ試練を乗り切った、異国の使いよ」真ん中の赤い道を歩いてくる王様、椅子から立ち上がっている大勢の人間はこちらを見ている。「初めまして。私の名前はセオリィ・キサリギィ、この横の者はこの国の案内人です」「案内人を務めましたサドゥラです」挨拶を終えるとゾロゾロと集まっていた人達は外へと出ていった。「彼等はギャラリーじゃ、せっかく買った魔導具の性能を見たくてたまらんうちの国の貴族でな。主らには悪いことをしたな」椅子に座り偉そうにキセルを吸う王様にリリーは今回の仮目的を告げた。「おぉ、そうだったの。して一匹あたりどれほど積める」リリーはマジックボックスから金貨の入った袋を取り出し地面にお金を落としていく。それをエアがタワーのように重ねていく。「10枚」その落ちる金貨を見て涎を垂らしそうになる王様は10枚と聞いて我にかえる「一応相場は知っておるかの?」「えぇ、本来国外の人は販売する時は金貨2枚が相場です。そこから外交料・出国手数料その他もろもろを私個人的に判断して追加で乗せました」金貨はその国と固定された通貨ではなく万国共通通貨として使われる。製造国の印はあるものの社会的信用が低く無い限りは価値が変わらない無変の通貨、それが10枚。上位冒険者2人を一年雇える額に相当する。
リリーはここまで色々な調査をしたが具体的に調べれなかった事がある。それを埋める為に最後の一手を進めた。「獣人の契約印はこの国でなければ結べませんか?」そう聞くと王様はニヤリと笑った。「あぁ聞いておったか。あと600枚積めるなら話せんこともないぞ」王様の発言にリリーは少し怒りを覚える。「聞きたいので支払いましょう」先に六百枚分を手渡す。発行元のしっかりした袋に記載があるせいか碌に確認もしないで話す王様。「あんなもん飾りじゃ。最初の数日は効力があるがだんだん切れる。それまでに恐怖を植え付ければいいのじゃ」「その効力はどんなものですか?今から実践できるのなら見せてもらいたいです」王様はお金をもらって喜んでいるのかすぐに手配した。兵士に連れてこられたのは幼い獣人だ「大抵は大きくなる前に売るんじゃよ。こんな汚れた奴らと交じるアホも居るからなぁ、混血なんて生まれたら後楯のヒィーピェル教会になんと言えば…おっと今の発言は忘れてくれ」聞き覚えのある名前にリリーの眉が少し上がる。フィーピェル教会は世界で1番信仰されているガッドス神の祭壇を持つ教会であり、表向きは万物平等論など人当たりのいいことを並べているが実態は料理場の油よりも汚く色々なところにこびり付いている。「参考にさせてもらいます」人間であるリリーでさえ怒りの余りにこの城ごと吹き飛ばす想像をたてるなか、エアはとても静かにその場にいた。「ではとくとご覧あれぃ。手のひらに契約印を書くじゃろ?その後に契約したい者がその上に手を乗せ使役したい方法を述べれば完璧じゃ」そう言って王様は契約印の書かれた獣人をこちらに持ってきた。リリーは手をかざしすぐに解読を始めた。「使役方法は荷物持ち」獣人の手のひらから光が伸びリリーの手のひらに似た紋様が乗っかる。獣人は脅えて声が出ないせいか終始震えたままだ。「これで契約は完了じゃ。あと何体じゃったかの」「そうですね、あと四人ほどいただきたい」王様がまた持ってこさせようとしたタイミングで扉が開け放たれた。「誰じゃ!この神聖なとりひ、…これはこれはアクラム様でしたか。ほ、本日はどのような支援を?」アクラムが悪どい笑みを浮かべながらレッドカーペットの上を進む。「東の方よ、味を聞きにきたぞ」「ばっちり。美味すぎて毒じゃないか疑ったよ」なんの話かわからない王様はあたふたしてリリーとアクラムを交互に見る。「あぁそうだった。伝え忘れていたけど王よ、今この状況は魔水晶を通して各審査議会に流されているぞ」あまりの事にパクパクと口を開くだけの王様にアクラムは笑う。「人件費削減案を求める割に内容を確認しないからだな。商会の魔導具配置は全てこの国に怨恨のある獣人達にこの結末を予見した上で頼んだ。今頃腹を抱えて笑っているだろうな」魔導具は全て魔力を得て起動する。この城は特殊な魔力炉を持つが、そのパスは全てクラージュ商会がリンクを設定し燃料供給、整備を行う為にそのパスが繋がる全ての場所で魔水晶を使った投影が可能になる。時間の誤差は出るも各教会、各国に様々なギルドや商会がそれを見ればこの国は壊滅だ。「じゃがわしと同罪で東の奴らも共に破滅するぞ!はっ、あいつらはどこにいった!」王様が辺りを見渡す。リリーはすでに国の真ん中、巨大なガッドス神の頭の上にいた。魔導具は完全詠唱が終わり起動は始まっていた。置いた順に魔石が光を放ちそれがガッドス神の頭の上に作られた仮の足台へと集結していく。「ばかな、そんな」「犯罪者、しかも小国でさえ認知する程の凶悪な。そんな彼等に貴方は獣人を売った。これは社会的なルールを逸脱していると思わないかな?」アクラムは喋り終えると近くの椅子に腰を下ろした。王様は膝を付き天井を見上げながら口から泡を吹いていた。「よし、起動する!魔導具-ワフィプクリスション・デュオデシマルシークレットコード」リリーの持つ魔導具を頂点に円錐が完成した。その場ではエアと幼い獣人の少女が、その他の場所では従事中から休息中まで全ての獣人がリリーの天空領土へと運ばれた。「んで、王様どーすんの?」放心状態の王様はコヒュッコヒュッと酷い呼吸をしていた。「あとはこの国の入り口で待機している世界平和連盟会の軍が処理をしてくれるさ。街中の混乱はこちらでどうにかするから君は自地に戻るように。それからこれは色々なところに見られているからね。私はしがない貴族といえど立場があるので一撃放った後に消えてもらえると助かる」アクラムのセリフに頷くやいなリリーが先手を仕掛ける。魔導具ではなくセイクリッドアイリアスを振るう。アクラムのデュアルフィパーがそれを弾く。剣先が二股に分かれたデュアルフィパーと振るう度に天使の御幸が射す破魔剣がぶつかり合い強烈なエネルギーが生まれる。リリーはその光に身を委ねワープして消えた。アクラムは天蓋が完全に消し飛んだ城で1人剣をしまう。

戻ると厄介な事が発生していた。例の裏切り者ブルンズが人質を取っていた。空中領地のど真ん中には指標となる大きな噴水がある。そこで喚いていた。「村長の娘だ、どうなってもいいのか?お前ら戻れ」正確にはブルンズ含む数名だ。「やめてください!そんなナイフではどうこうできる問題でありません」武装というには弱々しいナイフ数本。「責任者を出せ!」「そうだそうだ!俺らに今からでも協力すれば人間と同じ地位が保障されるぜ?」リリーは自分の家で装備を着替えた。勇者の時につけていた装備に着替えた。ダークドラゴンの鱗で作られた冑、ブラッドフェンリル突然変異種個体の毛皮で作られた首巻き。ウィルガ神の胸当て、サバルスガドラの皮で作られた腰当て。最後はバーンリドアスの皮と骨で作られたブーツ。「人間に近いほどに私は畏怖する対象に変わるからね」外に出る。圧倒的な魔力量で半分の獣人は毛が逆立ち警戒姿勢をとりリリーを見る。「ここでは暴力行為を禁ずる」地面に剣を突き立てると光の粒子が領地を包み込んだ。ブルンズが持っていたナイフが光に変わっていく。「なんだこれは?!いやいい、ならば」「ちょっとあなた!」そのまま村長の娘を抱きかかえると簡易転送の様な何かで領地から飛び降りた。「結界飛びを持っていたとは」リリーは人智を超える速度で走り出した。そのまま落下していく2人より早く地面に降り立った。「っと、私の領民はむやみに殺さないし殺させないよ」落下した2人を受け止め立ち上がらせる。村長の娘は幸いどこも怪我は無い。「ワー、誰だ」茂みにいる男に声を投げるリリー。男は勇者に萎縮したのか声を振るわせながら出てきた。「お、俺はブルンズによ、よ、用があってきた」「あなたは帰りなさい、ワープ」村長の娘を領地に戻したリリーはブルンズの首根っこを持つと男の方へ向かう。「こ、殺す気か」歩み寄るリリーに言いようのない恐怖を覚えたのかズボンにシミができ始める男。「解除、何ただの領民が心配な領主さ。事の顛末を見たいだけのね」警戒はされるも許可されたので男に着いていくと大きなテントについた。悪臭が漂いリリーはむせ返りそうになっていた。「ここはなんだ?」「ここは獣人でことを済ませる人御用達の店さ」勇者の格好を解いたおかげか相手はだいぶ余裕のある態度に変わり出していた。中にはもちろん獣人なぞ居ない。もう全てがリリーの領地に移送されたのだから。そのはずだった。「さぁもうここを出ればじゆ、フェルム男爵?!」クホンが赤子を抱いた女性を連れて外に出ようとしていた。「おや、これは獣人領の監視役クホンじゃないか。何のようだ?」「あ、これはその……」その女性は目が虚でふらふらとクホンについてくる。「人間の娼婦をこっちに連れてくるな。まったく、にしても優秀な監視も娼婦を買うとは」フェルム男爵と呼ばれた男は気付いて居なかったがブルンズが気付いていた。「あ、姉貴!」その言葉にフェルム男爵の口角がニィと上がる。そのままニヤニヤとクホンに近寄る。「まさかお前が子の親とはな!」「クホン、不確定要素の理由はこれだったか」リリーは下を向く。フェルム男爵は思いっきり杖を振り上げクホンを杖で打とうとする。リリーが止めに入り腕を負傷した。「つっ、やめとけよあんた。人の幸せを僻むのは良くない」フェルム男爵は大笑いする。「ブルンズ、お前の姉を助けたいならそこの男を殺せ」「させるか!ってまさかあんた」杖から蔦が伸びてリリーの腕を捕まえていた、地面から
伸びていてリリーは即座に動くことができない。さらに男爵の指輪がひかり、赤ん坊の方に光が向いていた。「赤ん坊が死ぬぞ?ほら早くしろ」ブルンズの姉は力なく近くの箱に寄りかかり、赤ん坊はその箱の上。クホンはブルンズに端まで追い詰められていた。「早く殺せ、じゃないと撃つぞ」「やめろブルンズっ!フェルムをあんたが殺せばみんな助かるがクホンを殺したらそのまま共倒れだ!」リリーは叫ぶ。ブルンズもある程度は予測が付いているのか爪先が震えている。「殺せよ、娘を頼んだぞ義兄。それからリリーは領主だろ?俺達なんか見捨ててとっとと戻ってればよかったのに」ブルンズが爪を振るう。「やめろぉ!!」リリーの叫びも虚しく鮮血が飛ぶ。先に声を上げたのはブルンズだった。「こども、たのむよおとー」虚げだったブルンズの姉がクホンを庇う為に飛び出てきていたのだ。ブルンズはそのまま抱き抱えられ膝から落ちた。クホンがすぐに赤ん坊に覆い被さり、リリーはそれを見てすぐに魔導具を召喚した。「な、何だこの魔力量は!」「平和ボケもいいところだ、こんなんだから野党にパーティを狙われたり簡単に魔物に殺されるんだ!」魔導具はリリーの怒りに呼応してか隙間が開き紫の魔力が漏れ始める。「実力を隠していたとはな!だがもう遅い、私の蔦は聖アルバント様の物だ!腰先まで伸びていてはもう勝ち目なんぞない!」リリーは苦痛の顔を浮かべる。言われたように蔦はリリーの魔力を吸いながら破壊していく。「どうだ、どうだ。このままお前を転覆罪で国に突き出せば俺は公爵なんだ!さぁ蔦よそのまま飲み込め!」リリーの魔力が無理やり蔦を焼き切ろうとするが足りない。「はっ!バカめ!私に知恵をくれた\$$$$$\様はこの時を全て予見されていた。貴様が勇者のような格好をしていた時はヒヤヒヤしたがやはり信じていてよかったな!」そのセリフを見越してか聖騎士が何人か入ってきた。「獣人は手足の腱を落として拘束しろ。そこの赤子と兵はこちらに来い」フェルムは何の話だ?と言わんばかりにキョロキョロ聖騎士を見ている。「御協力感謝致しますフェルム男爵」「おい、どうなっとるんだ!こいつはどうする」リリーを指差すフェルム男爵に聖騎士は告げる。「こちらは重罪人として教会裁判にかけます。あなたはその時の重要参考人として来ていただきたく思います。後日\$$$$$\様から正式に爵位と教会内での地位が与えられます」その言葉ににっこりし大声で笑うフェルム。聖騎士はリリーに巻き付いた蔦をうまく使いそのまま手枷へと変えていく。「これが例の」「えぇ、\$$$$$\様曰く生捕りでもってこいとの」聖騎士数人の言葉が耳に入る。テントの外に連れ出されクホンやブルンズ達と同じ荷馬車に放り込まれた。「フィリーナ、僕の、僕のせいだ」布を被されたブルンズの姉ことフィリーナにクホンが鳴いてすがる。ブルンズはいまだに放心状態だ。リリーは膝の上に赤子を乗せて揺られている。「おとなしくアクラムに調査を任せれば良かった」手枷を見て呟く。計画の完遂率はあの像で魔導具を起動した時点で96パーだった。だが暗躍する敵対組織やクホンの事に気を取られすぎた結果、移民計画のみで今や自分の身すら危ういかもしれないリリー。「魔導具は何とか消したし、領地もエアに一通り叩き込んだから村長と何とかやれるはず。問題は今だ」リリーの持つ魔力は人間が魔導具を媒介して使ったり先ほどのフェルムのようにアーティファクトを起動する魔力とは根源が違う。人工的な本人から溢れ出る魔力なのだ。魔王を倒すまではそんなものは無かったが最近では特に色濃く出ていた。「必死に抑えていたけどその抑える魔力が今こうして吸われていると幸か不幸かこの匂いを嗅ぎ分けてくるんだよね」制御用に魔力が消えて魔力がダダ漏れになり出す。そのまま意識は夢の中に入っていった。

最初はいつだったか。魔王を倒した帰り道に起きた、それは十日後あたりだろう。魔王幹部で最も強く魔王に信頼を寄せていた副将ヴィドスが1人休憩がてら釣りをしていたリリーの前に現れた「魔王様、お迎えにあがりました」突然のことにリリーは脳処理が追いつかずしばらく共に釣りをしながら語った。「なるほど、私の魔力が魔王のものになってそれを辿ったらわかったと」「はい、まだ微量で私しか関知していませんが」銀髪で執事の格好をした悪魔、忠誠心がとても高く初手合わせは王城に潜入してのを見抜いた時だ。破神ノ矢を撃ち警告と言わんばかりに神々の祭壇を破壊して消えていった。「そんなに強くて忠誠心の高いあんたが私に難のようだ。魔王の逆恨みか?」何気なく尋ねると首を横に振る。「私たちはもとより魔王の生誕により現れた使役されるものです。なので恨みなどはありません。ただ貴方様の命令を聞き、その通りに動きます」「そうなのか、ちなみに魔王の誕生を認知するのはみんなか?」ヴィドスは従順すぎる。次に何がくるか全て知っているのだろう。「皆知っていますがまだ探している段階です。もしまだ勇者として今後来るだろう忌みの目を耐えたいのであれば、私が貴方のゆく先々を探査の拠点として他の魔王軍が貴方に接触できないように計らいますよ」「ふふ、なら頼むよ。それから忌みの目なんてないよ。私は勇者なんて肩書きを捨てて魔導具専門店でもたてて暮らす事が夢なんだからね」ヴィドスは頷くと消えていった。それから国に戻り祝福を受けている間は良かったが。ある日恐れられるようになった時から魔力が溢れ出し、人々の恐れと共にそれが増長されていった。

リリーは赤子の鳴き声で現実に引き戻された。「魔王様、お迎えに参りました。魔力封印を一度ならず二度も、それも長時間垂れ流しにしているというのは降臨の意を示したということでよろしいですね」狭い荷台にヴィドスが立っていた。七列にも並んだ馬車は全てが急停止して聖騎士が一斉に馬車から降りてきた。「取り囲め!魔族の気配だ」「いや私は魔王になんてならないよ」蔦は近くにいた強大な魔力源、そうヴィドスの魔力をくらい弾け飛んだ。「ふぅ、構築する前に食われると何もできないんだよね」魔導具を召喚し手につけるリリー。「魔王様は魔王になる気がないと、では我々がなりたくなるように力を誇示しますよ。お下がりください」黒と紫の入り混じった雷が地面を焦がす。「魔王軍憂鬱のふらんだぁどぉう、はぁ…」腕の見えない程長い袖にその小さな身には合わない大きな槌。悪魔を象徴する角に一般人なら肌を引き裂かれかねないほどの鋭い魔力。「な、何だと!勇者が滅ぼしたはずでは!」聖騎士は構える手が震える。また雷が落ちて誰か現れた。「魔王軍、愉悦のミュルシアよ。あぁ光悦」ストレートに腰まで伸びた黒髪に艶やかな肌。手には鞭を持っている。「邪魔だばばー、あしゃは魔王軍が1人!欺瞞のルームンじゃい!」空から降ってきたのは短めのピンク髪に口元まで隠れるほどでかい襟、小さなその手には紫電が走っている。「んだよ、乗り遅れたなワシ」白い髭を蓄えた初老、魔王軍のトレードとも言えるだろう軍服の上からも伝わる筋肉質。「隠し通すのも限界でしたので。でもちょうど良かったですね?聖騎士を殺しなさい、王命です」指を下にして指示を出すヴィドス。「うー」「えぇ」「まかせろー!」「うい」4人がそれぞれ四方の騎士と対峙する。フランダードーウはその巨大な槌をその体躯には見合わない使いこなしを見せた。「とー」地面が抉れ、こちら側にまで振動がくる。当たらずとも足元直に喰らえば聖騎士だろうが意識が吹き飛ぶ。「えっへん」最速で終わらせたフランダードーウ。リリーが一度敗れた相手である。
「紫電怡悦」ミュルシアが鞭を地面に叩きつけると電撃が聖騎士に降り注いだ。「あぁ」腑抜けた声で堕落する聖騎士たち。「ほんとならこんなに可愛い子たちとのお遊びを辞めたくは無いけど魔王様の命ですもの」再び地面に鞭が当たる。今度はドス黒い雷が聖騎士を襲い殺した。死体自体は傷もない笑顔のままである。「あらおふたりは未だ苦戦ですか?」
「なーに、少し遊んでいるだけじゃい!ミュ・フォーディア」聖騎士達がひっくり返る。何が起こったのか理解できずに立ち上がるがまたひっくり返る。「滑稽滑稽、あしゃのまえでは人なんぞ円に入れられた小動物じゃい」その聖騎士たちは横から飛んできた光に消し飛ばされた。
「すまんのぅ、まさか一卒でこれも耐えれんとは」「ショギィース!あしゃの獲物まで飛ばすとはなんごとじゃい!やんのか!」拳を前に突き出した初老の手からは煙が出ていた。「正逆位のショギィース、無事任務遂行」
聖騎士を殲滅し終えると整列する五人。「魔王様、次のご命令を」リリーは頭を抱える。「魔王じゃないって勇者だって…」「では、魔王ユウシャ様と」リリーは立ち上がり荷馬車から降りた。フランダードーウの倒した聖騎士は死んでいなかったのでその1人を起こし五人の前に放り投げた。「もうそれでいいよ。んで、フランダードーウがせっかく生け取りにしたんだ。そいつを尋問して全て吐かせて」残りの4人を木に縛り付け装備を全て剥いだ。「少年ばっかじゃないか…まぁ野盗とかと変わらないからね」近くに転移用の魔法陣を作成するリリー。ヴィドスがそれを見て首を傾げた。「ユウシャ様、何のためにこの場所に転移門を?」「あぁ、とりあえずお前ら五人とあそこの3に」言いかけてリリーは止まった。「何やってんだクホン!」爆速とも言わんばかりに加速するリリーは魔導具を起動させながらブルンズの首を絞めるクホンを突き飛ばした。「こいつが、こいつが悪いんだ!フィリーナが死んだのは!」「げほっ、げほっ…」無気力に項垂れるだけのブルンズ。クホンは激昂し暴走していた。「何かおかしいヴィドス!」「はい、仰せのままに」リリーの言葉に二言返事でクホンの解析をしたヴィドスは少し納得気味な顔で告げた。「教会二杯、裏切りのクヒン・ラーバス・ウォンディ・バーラガですね?」「おかしい、そんな高位者がこんな所にいてのうのうとしているはずがない」リリーはヴィドスの解析を疑う。だがクホンは間違っていないと言わんばかりの高笑いを浮かべる。「裏切りって普通死だよな?でも便利なんだよ、お前みたいな恋から身を引いてますー系の女は特にな。おかげで計画も割れたし後は使えねぇ無能男爵フェルムを有効利用して次なる魔王を殺そうとしたんだがなぁ」くるっと身を翻すと一般兵から教誨師へと変貌していた。「やたらクホンクホンって、もしかして惚れてたのなぁ?俺の別人格にヨォ。会いたいなら俺の女になりな、いつでもあの人格で愛でも何でも囁いてやるぜ!」魔導具に灯る焔が消えた。リリーの手から魔導具が抜け落ちる。「はっ!ショックで声もでねぇか」リリーの手はかすかに震えていた。ヴィドスは動かない。ただ腕を組み見守るのみ。「私は事前に忠告してやっただろ!」リリーは周りにいた全てのものが観測しうる速度を超過しクホンの頬をぶん殴っていた。「テメェがなんなのかは大体見当もついていたけどな!私は優しいからテメェじゃないテメェには理解を示していたんだよ」吹き飛んだクホンはあまりのダメージに転がりながら体勢を立て直すも手のひらで抜けた歯を見て固まっている。「流石です、我々でも見抜けませんでした」魔王軍は冷や汗を浮かべている。リリーはふらつき膝をつく。「ふぅ、なんとか耐えてくれたな。あいつは処理しろ、どーせ私の弱みに付け込もうと人格を変えてくる」リリーはヴィドスとすれ違い荷馬車へと戻る。奥からは命乞いの声が聞こえる。「ひぃっ!俺は騙されてたんだ!な?リリー!娘を殺されたくなければって」「魔王ユウシャ様は貴方の死を望みました。醜い命乞いよりも最後くらいは何か残して消えたいとか思わないものなのか」剣が鉄の擦れる音を立てながら抜かれる。ヴィドスは魔王軍の中ではトップクラスに強い。魔法・剣術・体術・掌握術など昔の人為査定評価という六角形の模様で表すならば均等に大きい六角形である。敵意が無いだけで遭遇してから今まで全員を千回は違う殺し方で殺せただろう。「や、やめろ!」そんな男が抜く剣に恐怖しないものはいない。ましてやかなりの実力者だ、対峙する相手の強さも理解しているであろう。剣が振り下ろされる為にクホンの頭上へ上がった。「へっ、そこの獣人を口封じに殺せなかったことが心残りだぜクソ野郎」その捨て台詞を最後に真っ二つに割られた。「どこの教会か聞き忘れていましたがどうしますか」「私は魔王になどなる気はない。だがお前達が私のすることについて来たいのならそれ相応の用意はしてやる」マジックボックスを取り出し陣の上に置いた。「「「「「我らは魔王様に付き従います」」」」」陣の起動が始まりブルンズと亡きフィリーナ、魔王軍が転送された。

リリーは古屋につくなり駆け込んできたエアに愚痴を言われた。「リリーどこ行ってたのさ!みんなの受け入れ終わったはいいけど仕事もないしで途方に暮れてるよ」特殊な魔法で作られた噴水を取り囲むように建てられた塔、いや円筒形の巨獣区域という方がいいのだろうか。外から見てもせいぜい屋根のついた3階建て程にしか見えない高さだが中に入ると10階近くある。かく部屋もかなり広い。リリーの見立てではみんな部屋選びに時間をかけるのでは?としかしみんな入った順に決めたせいかすんなり決まり暇を持て余していたようだ。「早速だけど各エリアに領主というか貴族というか、定めるんだけど魔王軍がいるのバレるとやばいから君達はみんな貴族でそれぞれ管轄区域がある人って設定ね?」まず居住区が置かれたメインにはメウス家としてフランダードーウが指揮を。教育及び訓練機関にバリティ家としてショギィースが。農作・畜産にはイナシュ家としてミュルシアが。開発発明及び隔離区域にシーラジュ家としてヴィドス。残ったルームンはこの領地の領主リリーの付添人としてそれぞれ配役が決まった。「えっと言われた通り任意の調査書渡してきたよ。で、誰なの?」エアは厄介払いともいうべくヴィドスが高速で作成した個人単位の出来ることとやりたい事リストを住民に配る仕事を与えられていたが終わったようだ。「あぁ、紹介するよ。領地を運営する上で必要な家名持ちの人たちだ。私が勇者でも構わないと協力してくれる心強い仲間だ」一人一人が丁寧に挨拶をする。エアは見抜いていたようだった。「いいの?リリーは勇者なのに悪魔なんて連れて」そのセリフにルームンが反応した。「なんじゃいガキ!あしゃがとってくーたろじゃい」「なんだとちびすけ!」手を掴み合い押し合いを始める2人。ゴロゴロと床を転がりドタバタと揉め合う。「ヴィドスとめてくれ」頭を抱えながらリリーがいうと2人の頭を持って制止するヴィドス。「まずエア、私は私を怖がらずエア達みたいに接してくれる人たちを集めた場所を作る目的なんだ」その次にルームンを見る。「ルームンもわかった?」「なにがじゃい!」結局エアはルームンとだけ分かち合えないまま本格的な領土村群としての始動を始めた。
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