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蔓延する厄災2
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「職員会議ってもねぇー」「まぁまぁ、魔族が最近暴れてるらしいよー」「それより聞きました?帝国もついにチャンダ制圧に軍を派遣するって」「イーヴ経由で売ってたアレが売れなくなったからだろ?」
ザワザワとする職員室。
「静粛に、最初の議題は魔王軍残党についてです。職員寮に現れた魔族の解析が完全となりました」
グロスの登場によりざわめきが収まる。
「して、やはり魔王軍残党で?」「結論は先に申し上げたとおりです。魔王軍幹部、いえ最近神聖魔王と名乗っている虚飾と言われるものと判定しました」「な、それが何のようだって!」「大体軍は何をしている!自国の問題より先にイーヴの方かよ!」「演習がなくなる可能性もあります、特に三年を担当する教員は生徒に悟られる事なく生活してください。次の議題に移ります」
魔導具で空間に情報を映し出すグロス。
「今年で8人目になります、軍より優秀な生徒のスカウトが来ました。各先生方説明のほど」「やりましたな、これで給与アップですぞ」
ザワザワと喋り散らかす教員。準教員と正教員がいるのだが、特に準教員の方はリリーのような雇われが多い。早ければ数日で交代することもある。
そんなはぐれものは騒ぐのが好きなようだ。
「はぁ、生徒に示しがつかないですよ」
リリーも毎度の騒ぎように参っていた。グロスの後ろでコソコソと書類をまとめていた。そんな空気を壊すかのように扉が開かれた。
「みっなさーんお集まりのところ失礼」
帽子見て察した教員は話をやめて声の方を向いた。
「おうおう、貴族様が偉そうにでむきぃ」
何者か知らずに近寄った男は簡単にひっくり返された。
「うちの教員が失礼を。皆の者控えなさい、帝国随一の魔導組織です」
帝国紋様をしたエンブレムの下に杖のマーク。間違いない。
「しかしなぜ突然の訪問を?報告はしましたが、」
「グロス学園長はお下がりを。教員寮を利用するうちあの付近にいた6名に強制調査状が出ている」
強制調査は帝国及び付近を構成する数カ国、通称ヨーウィ群のみにおいて国王さえも縛れる特殊な状である。
「とっ、みなさん動かないでねー」
扉を開けた男はリーダー、コードネーム忠義。その男の後ろに控える2人は双子、あとはわからない新しい部下。マラキア時代に何度か任務を共にしたが、危険で野蛮な集団である。
「まずは、リリー先生」
尋問室へ誘導される。魔王なんてそっちのけで国内の利益を得る政策ばっか進めていた帝国が今更関心あるとは思えずリリーは考え込む。
「あぁ、別に取って食べたりはしませんよ。話をしてくれればいいのです」
その顔を見て不安と捉えたのかそう答える男。彼らは名前も素性も私生活も、全てを明かさない。のくせにこちらをよく調べて把握してから事を確認しだす。
「ここにきた時からずっと感じていたのですが」
不穏な空気を察しマジックボックスを準備するリリー。
「貴女左利きなんですね」
あまりの回答にへ?と固まる。
「いや失礼、他人を観察する癖が強くてね」
「は、はい?日常生活はほとんど左手です」
ニコニコと椅子に座り直し、帽子のツバを後ろに向ける男。
「それでは単刀直入に、魔族に関わった事がありますね?」
「はいあります」
魔族に関わらない人間が殆どだが、生徒の中には隠して過ごしているのもいる。
「どんな印象を受けますか?」
「暗い者から明るい者まで、人と変わりません」
嘘では無い、聞きたい答えではないのを知っているが。
「仕事とはズレますが僕と会った事はありますか?」「あります、帝国図書館で」
「だよねー、確か本を抱えて泣きながら逃げてたもんね」
「それじゃ次の質問、君は勇者の行方を知っているかい?」
「知りません」
「そっか、能力無理矢理解かせて職員に吐かせたら君が勇者の身代わりってことわかったから聞いたんだけどね」
嘘である。職員はもう死んでいる。勇者マラキアとリリーの関係性を知るものはリリーが把握していないとありえない。
「身代わりですか?」
あえてとぼける。この身代わり制度は上位身分の為にある制度。リリーの経歴で見れば噂にすら聞かない秘匿情報である。
「冗談ですよ。では次に冒険者カードを見せてもらえますか?」
「えっと…あ、領地に忘れました」
正確には別のリリーが冒険者として活動しているだけだが。
「では、皆さんもやっていますので軽い本人照合をっ!」
突然机を蹴られ、壁と机に挟まれるリリー。顔を上げると目先まで剣が迫っていた。魔力で壁を構築し横へ逸れる。
「おっと、やりますね」
「なんの冗談ですか。魔導組織が領主に手を挙げたとあれば…いや、よくあることか」
すぐにその場から飛び退き龍の爪を構える。
「それが偵察隊の言っていた龍の爪ですが、実は例の獣人事件以降貴女は勇者に関係するナニモノカとして監視していたんですよ」
偵察は知らなかったが、領地には入れない工夫があるしグロスとの会話は基本目で話している。ヴィドス達にも魔法糸での会話をメインにしているので勘付かれるほどのヘマはないはず。
「一体何の冗談ですか!私は一介の領主にすぎませんよ」
爪で剣を弾いたはずが軽く回され斬り落とすような勢いで刃が迫る。
「一介の領主?やけに帝国式に詳しいようですが」
尻餅をつきつつも靴底で剣を受け止めるリリー。
「卒業生だからですよ!」
反撃代わりに剣を蹴飛ばし魔導具から魔弾を放つ。が、弾を軽々しく指で弾かれた。
「子供騙しですか?これ撃ってる間に五回は殺せましたよ」
言葉通りと言うには遅いが、五連撃が飛んできた。全て寸止めされていた。
「在籍中には認可二品と実売品六品。うちの組織からもスカウトしてこいと。知っていますよ」
嘘である。これは勇者マラキアの実績だ。
「(何の目的でなぜ私に接触を)」
「だいたい思っていることはわかりますよ、では答えましょう」
剣筋が変わった。これは刺突を目的とした、剣ではない戦い方だ。
「剣が使いにくいならレイピアに変えたらどうですかっ!」
龍の爪で受け止めるが、切先からの勢いは衝撃のようにリリーの体を襲う。
「最近捉えた魔族が、貴方の領地に向かっていたんですね。聞いてみたところ、勇者を殺すためにと言っていました」
「それだけで動くとはおたくも随分と腑抜けたもんだ」
衝撃が抜けずにまだ震える体で身構える。
「1番魔族に近いのは貴女、教員寮に現れた魔族が他の場所に現れたらならいざ知らず。貴女のところを中心に莫大な魔力が発生しているんですよ」
「わかりました。答えますよっ!」
油断を突いて煙を吐き出す。白煙に紛れて部屋から出ようとしたが鍵を閉められていたことを思い出すリリー。
「うぐっ」
鞘で思いっきり横腹を殴られ壁にぶつかる。
「確かにこんな小物じみた人間が勇者というには、しかしそれでは」
「私はただ脅されただけなんです、勇者に」
ヤッケになるかのように武器を取り出し乱雑に振るう。
「隙だらけですよ」
合間を縫い、喉元に刺突を繰り出す忠義。
「なっ、乱舞ですか…」
「勇者に貰った魔導具で私はあの領地を組み上げました。それからは会ってなかったのに!突然やってきて魔族に狙われているから匿えと。強者はいつもそうやって弱者を蔑ろに!」
「やりにくい太刀筋、利権関係…やれやれ僕とした事が200年ぶりに計算を見誤ったようだ。しかし仕事は仕事、不意の事故で勇者と思われる人間の処刑はやらないとな」
また変わった雰囲気にリリーも覚悟を決める。
「まぁ君の所は僕らで管轄してあげるからさ」
気付けば肩に手を乗せられ、首にナイフが迫っていた。
「なーに私の道具に手を出してんだ」
突然の刺客に忠義は蹴飛ばされた。
「な、どこから」
気配すら感じれなかった相手に冷や汗を流し一度ブルッと震える忠義。
「こいつは私が育てた、私が隠れ蓑に使うための駒だ」
仮面を付けた女。手にはセイクリッドアイリアス。
「その聖剣、まさか本物の勇者に2度も逢えるとは!」「本性を出したな」
忠義は強い、遊んで闘っても負けを知らないほどに。その驕りが格上との対峙で恐怖心を打ち砕く。
「祖国のために死んでもらおうか勇者マラキア!!」「ふんっ!」
セイクリッドアイリアスではなく、もう片方のボロい剣で攻撃を否した。
「これが実力の差だ、お前に勇者は倒せない」「魔導具-解放」
両手の袖に隠れた紐を引き抜く忠義。
「ほぅ、長年の魔力を貯めていたのか」「な、なにあの力は」
リリーは驚くフリをする。もちろん勇者とは別動体のリリーである。
「死んでくれ勇者」
恐ろしい速度で戦闘が始まる。忠義の移動した後には魔力の痕跡が残る程昂っている。一方の勇者は禍々しいオーラを纏い、空間ごと斬らんとする斬撃を放つ。
「(ちょっとこの教室じゃ耐えれなくない?!)」
あたふたする教師リリー、机を衝立にして震えるふりをしながらグロスに連絡を送った。
「(相手が相手だ、手を抜いて勘繰られても困る)」
早々に最大魔力へと至った斬撃が狭い室内でぶつかり爆発を起こそうとしている。
「…庭園はここにあり。この場において限定的な魔力制限の解除を行います。固有魔術-罪なき世界」
何もない虚無の空間が4人を包み込んだ。
「これは、学園長邪魔はするなと言いましたが?」「グロス、友といえど次やれば」「るっさい!学園壊すなバケモン」
言葉に呼応して2人の首に黒い枷が嵌められる。
「法廷侮辱罪で2人には一呼吸ごとに体重の半分重さの増える枷をつけました」「罪重いな」
蚊帳な外のリリーはツッコミを入れるが無視されてしょぼくれていた。
「良い条件じゃないか」「あぁ、息なぞせずとも戦えるわ!」
剣と剣がぶつかり合う。忠義は右手、マラキアは左手
「なぁグロスなんであいつらよんだ」「バレていましたか。私は中立です、帝国に部下が書いた所見を送りました」
「まぁいいや、今進行しているプロジェクトにはピッタリ」「まさか学校を巻き込んだりしませんよね」
そんな話をしている最中、爆風で二人の前に貼られていたバリアにヒビが入った。
「おい、マラキア!私の魔術壊す気か!」
「固有魔術の中で固有魔術使ったらそりゃ、壊れるわね」
「勇者も案外腑抜けだな」
煽る忠義に対してセイクリッドアイリスを捨てることで応える勇者
「忠義とやら、私は剣を使わないで倒してやろう」
「舐めた真似をしてくれますね」
「まぁ試しに斬れろ」
勇者が指で虚空を斬った。
その意味を理解できたのは斬った勇者と斬られた忠義だけだろう。
「なんですかその技は、私の腕が内的に斬られましたよ」
「理解をするのは無理だ、さて次はそこだな」
指を心臓に向けられた忠義は流石の恐怖に一度距離を置いた。
「なんだと…避けたはずなのに、いやそもそも何もされていないはずなのに」
心臓が破裂したと思うほど軽快な破裂音と、左胸の膨張。
「安心しろ、お前たちの部下も残らず私の部下が殺した」
グロスが罪なき世界を発動したのとほぼ同時に現れたヴィドス。
その後ろには拷問でくたびれ果てた教師がゴミのように転がされていた。
「魔族の失態で一般の俗世を生きるものに危害が及ぶのは容認できない」
そのヴィドスに針が何百本も迫っている。
天井の2隅に張り付く双子はその針が届かない事を悟り、次の一手に出た。
「これは私の流儀だ。魔王軍幹部、魔王様代理のヴィドス」
名乗り、構え、飛び上がる。
「子供相手にも妥協はしない。これが私の流儀だ」
双子のうち、片方の頭を掴み扉の方へ投げ飛ばした。
「アドゥース・スプレプト」
鋭い斬撃がもう片方を襲う。
「このおじさん強いよ、ほんきだしちゃう?」
「だそうだそう。殺せ殺せ」
双子の連携は魔王軍にない斬新なスタイルだとウィドスは感動する。
「もしこっちについてくれるのなら意地でも誘いたいくらいですよ。お二人とも」
片方の死角を片方がカバー、片方の不利を片方が補填。
「完璧な人間はいない。だが完璧に近い人間が補い合うことはできると。アドゥース!そこか、インフェルノ!」
攻撃のたびに精度が上がるヴィドスの猛攻でさえ掻い潜る2人。
「おじさん魔族の割にやるね、その角記念にもらいたいな」
「角は別にあげてもいいが、私の役目が果たされるまではダメだな」
角はいわば魔力倉庫、折れても再生可能だし、ないからと言っての弊害も特にない。バランスが少し悪くなる程度だ。
「そっか、なら役割をここで終えてもらおうかな」
双子の1人がヴィドスの首に鎌を付けていた。
「ほぅ。これは予想外だった、だがまぁ私を殺すには程遠い」
鎌がスゥーッとすり抜けた。まるでそこに実態がないかのように。
「へっ?なるほどね……対策変えて」
「わかったよ。迅速に殺そう」
除霊系などに用いられるライトスペルが両端から飛んでくる。
「その対策力は誇れるな、魔王様が警戒をしろと言っていただけある。アドゥース•インフェルノ」
「それは甘いよ」「私でも避けれるよ」
予測不可能な攻撃が飛んでくるのに、それをモノともせずに突撃する双子。
「ふむ、魔王様が固有を展開したようですね。では私も、固有魔術式-堕落の抱擁」
双子は確かにヴィドスの心臓を前と後ろから貫いたはず。気付けば互いに刺していた。
「どうしてと言った目ですね。単騎で見れば私は魔王様より強いですよ、ですが今回は条件付きだったので少しばかり手を抜いていただけです」
死んだ双子の首を持ちどこかへと帰るヴィドス。今回の時間は魔族及び勇者の介入により殲滅させられた事実を隠蔽したい帝国側により、職員へ高位記憶除去処置がされた。
グロスは反対したが、リリーの安全面などを考慮した結果飲まざる得なかった。
ザワザワとする職員室。
「静粛に、最初の議題は魔王軍残党についてです。職員寮に現れた魔族の解析が完全となりました」
グロスの登場によりざわめきが収まる。
「して、やはり魔王軍残党で?」「結論は先に申し上げたとおりです。魔王軍幹部、いえ最近神聖魔王と名乗っている虚飾と言われるものと判定しました」「な、それが何のようだって!」「大体軍は何をしている!自国の問題より先にイーヴの方かよ!」「演習がなくなる可能性もあります、特に三年を担当する教員は生徒に悟られる事なく生活してください。次の議題に移ります」
魔導具で空間に情報を映し出すグロス。
「今年で8人目になります、軍より優秀な生徒のスカウトが来ました。各先生方説明のほど」「やりましたな、これで給与アップですぞ」
ザワザワと喋り散らかす教員。準教員と正教員がいるのだが、特に準教員の方はリリーのような雇われが多い。早ければ数日で交代することもある。
そんなはぐれものは騒ぐのが好きなようだ。
「はぁ、生徒に示しがつかないですよ」
リリーも毎度の騒ぎように参っていた。グロスの後ろでコソコソと書類をまとめていた。そんな空気を壊すかのように扉が開かれた。
「みっなさーんお集まりのところ失礼」
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「おうおう、貴族様が偉そうにでむきぃ」
何者か知らずに近寄った男は簡単にひっくり返された。
「うちの教員が失礼を。皆の者控えなさい、帝国随一の魔導組織です」
帝国紋様をしたエンブレムの下に杖のマーク。間違いない。
「しかしなぜ突然の訪問を?報告はしましたが、」
「グロス学園長はお下がりを。教員寮を利用するうちあの付近にいた6名に強制調査状が出ている」
強制調査は帝国及び付近を構成する数カ国、通称ヨーウィ群のみにおいて国王さえも縛れる特殊な状である。
「とっ、みなさん動かないでねー」
扉を開けた男はリーダー、コードネーム忠義。その男の後ろに控える2人は双子、あとはわからない新しい部下。マラキア時代に何度か任務を共にしたが、危険で野蛮な集団である。
「まずは、リリー先生」
尋問室へ誘導される。魔王なんてそっちのけで国内の利益を得る政策ばっか進めていた帝国が今更関心あるとは思えずリリーは考え込む。
「あぁ、別に取って食べたりはしませんよ。話をしてくれればいいのです」
その顔を見て不安と捉えたのかそう答える男。彼らは名前も素性も私生活も、全てを明かさない。のくせにこちらをよく調べて把握してから事を確認しだす。
「ここにきた時からずっと感じていたのですが」
不穏な空気を察しマジックボックスを準備するリリー。
「貴女左利きなんですね」
あまりの回答にへ?と固まる。
「いや失礼、他人を観察する癖が強くてね」
「は、はい?日常生活はほとんど左手です」
ニコニコと椅子に座り直し、帽子のツバを後ろに向ける男。
「それでは単刀直入に、魔族に関わった事がありますね?」
「はいあります」
魔族に関わらない人間が殆どだが、生徒の中には隠して過ごしているのもいる。
「どんな印象を受けますか?」
「暗い者から明るい者まで、人と変わりません」
嘘では無い、聞きたい答えではないのを知っているが。
「仕事とはズレますが僕と会った事はありますか?」「あります、帝国図書館で」
「だよねー、確か本を抱えて泣きながら逃げてたもんね」
「それじゃ次の質問、君は勇者の行方を知っているかい?」
「知りません」
「そっか、能力無理矢理解かせて職員に吐かせたら君が勇者の身代わりってことわかったから聞いたんだけどね」
嘘である。職員はもう死んでいる。勇者マラキアとリリーの関係性を知るものはリリーが把握していないとありえない。
「身代わりですか?」
あえてとぼける。この身代わり制度は上位身分の為にある制度。リリーの経歴で見れば噂にすら聞かない秘匿情報である。
「冗談ですよ。では次に冒険者カードを見せてもらえますか?」
「えっと…あ、領地に忘れました」
正確には別のリリーが冒険者として活動しているだけだが。
「では、皆さんもやっていますので軽い本人照合をっ!」
突然机を蹴られ、壁と机に挟まれるリリー。顔を上げると目先まで剣が迫っていた。魔力で壁を構築し横へ逸れる。
「おっと、やりますね」
「なんの冗談ですか。魔導組織が領主に手を挙げたとあれば…いや、よくあることか」
すぐにその場から飛び退き龍の爪を構える。
「それが偵察隊の言っていた龍の爪ですが、実は例の獣人事件以降貴女は勇者に関係するナニモノカとして監視していたんですよ」
偵察は知らなかったが、領地には入れない工夫があるしグロスとの会話は基本目で話している。ヴィドス達にも魔法糸での会話をメインにしているので勘付かれるほどのヘマはないはず。
「一体何の冗談ですか!私は一介の領主にすぎませんよ」
爪で剣を弾いたはずが軽く回され斬り落とすような勢いで刃が迫る。
「一介の領主?やけに帝国式に詳しいようですが」
尻餅をつきつつも靴底で剣を受け止めるリリー。
「卒業生だからですよ!」
反撃代わりに剣を蹴飛ばし魔導具から魔弾を放つ。が、弾を軽々しく指で弾かれた。
「子供騙しですか?これ撃ってる間に五回は殺せましたよ」
言葉通りと言うには遅いが、五連撃が飛んできた。全て寸止めされていた。
「在籍中には認可二品と実売品六品。うちの組織からもスカウトしてこいと。知っていますよ」
嘘である。これは勇者マラキアの実績だ。
「(何の目的でなぜ私に接触を)」
「だいたい思っていることはわかりますよ、では答えましょう」
剣筋が変わった。これは刺突を目的とした、剣ではない戦い方だ。
「剣が使いにくいならレイピアに変えたらどうですかっ!」
龍の爪で受け止めるが、切先からの勢いは衝撃のようにリリーの体を襲う。
「最近捉えた魔族が、貴方の領地に向かっていたんですね。聞いてみたところ、勇者を殺すためにと言っていました」
「それだけで動くとはおたくも随分と腑抜けたもんだ」
衝撃が抜けずにまだ震える体で身構える。
「1番魔族に近いのは貴女、教員寮に現れた魔族が他の場所に現れたらならいざ知らず。貴女のところを中心に莫大な魔力が発生しているんですよ」
「わかりました。答えますよっ!」
油断を突いて煙を吐き出す。白煙に紛れて部屋から出ようとしたが鍵を閉められていたことを思い出すリリー。
「うぐっ」
鞘で思いっきり横腹を殴られ壁にぶつかる。
「確かにこんな小物じみた人間が勇者というには、しかしそれでは」
「私はただ脅されただけなんです、勇者に」
ヤッケになるかのように武器を取り出し乱雑に振るう。
「隙だらけですよ」
合間を縫い、喉元に刺突を繰り出す忠義。
「なっ、乱舞ですか…」
「勇者に貰った魔導具で私はあの領地を組み上げました。それからは会ってなかったのに!突然やってきて魔族に狙われているから匿えと。強者はいつもそうやって弱者を蔑ろに!」
「やりにくい太刀筋、利権関係…やれやれ僕とした事が200年ぶりに計算を見誤ったようだ。しかし仕事は仕事、不意の事故で勇者と思われる人間の処刑はやらないとな」
また変わった雰囲気にリリーも覚悟を決める。
「まぁ君の所は僕らで管轄してあげるからさ」
気付けば肩に手を乗せられ、首にナイフが迫っていた。
「なーに私の道具に手を出してんだ」
突然の刺客に忠義は蹴飛ばされた。
「な、どこから」
気配すら感じれなかった相手に冷や汗を流し一度ブルッと震える忠義。
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仮面を付けた女。手にはセイクリッドアイリアス。
「その聖剣、まさか本物の勇者に2度も逢えるとは!」「本性を出したな」
忠義は強い、遊んで闘っても負けを知らないほどに。その驕りが格上との対峙で恐怖心を打ち砕く。
「祖国のために死んでもらおうか勇者マラキア!!」「ふんっ!」
セイクリッドアイリアスではなく、もう片方のボロい剣で攻撃を否した。
「これが実力の差だ、お前に勇者は倒せない」「魔導具-解放」
両手の袖に隠れた紐を引き抜く忠義。
「ほぅ、長年の魔力を貯めていたのか」「な、なにあの力は」
リリーは驚くフリをする。もちろん勇者とは別動体のリリーである。
「死んでくれ勇者」
恐ろしい速度で戦闘が始まる。忠義の移動した後には魔力の痕跡が残る程昂っている。一方の勇者は禍々しいオーラを纏い、空間ごと斬らんとする斬撃を放つ。
「(ちょっとこの教室じゃ耐えれなくない?!)」
あたふたする教師リリー、机を衝立にして震えるふりをしながらグロスに連絡を送った。
「(相手が相手だ、手を抜いて勘繰られても困る)」
早々に最大魔力へと至った斬撃が狭い室内でぶつかり爆発を起こそうとしている。
「…庭園はここにあり。この場において限定的な魔力制限の解除を行います。固有魔術-罪なき世界」
何もない虚無の空間が4人を包み込んだ。
「これは、学園長邪魔はするなと言いましたが?」「グロス、友といえど次やれば」「るっさい!学園壊すなバケモン」
言葉に呼応して2人の首に黒い枷が嵌められる。
「法廷侮辱罪で2人には一呼吸ごとに体重の半分重さの増える枷をつけました」「罪重いな」
蚊帳な外のリリーはツッコミを入れるが無視されてしょぼくれていた。
「良い条件じゃないか」「あぁ、息なぞせずとも戦えるわ!」
剣と剣がぶつかり合う。忠義は右手、マラキアは左手
「なぁグロスなんであいつらよんだ」「バレていましたか。私は中立です、帝国に部下が書いた所見を送りました」
「まぁいいや、今進行しているプロジェクトにはピッタリ」「まさか学校を巻き込んだりしませんよね」
そんな話をしている最中、爆風で二人の前に貼られていたバリアにヒビが入った。
「おい、マラキア!私の魔術壊す気か!」
「固有魔術の中で固有魔術使ったらそりゃ、壊れるわね」
「勇者も案外腑抜けだな」
煽る忠義に対してセイクリッドアイリスを捨てることで応える勇者
「忠義とやら、私は剣を使わないで倒してやろう」
「舐めた真似をしてくれますね」
「まぁ試しに斬れろ」
勇者が指で虚空を斬った。
その意味を理解できたのは斬った勇者と斬られた忠義だけだろう。
「なんですかその技は、私の腕が内的に斬られましたよ」
「理解をするのは無理だ、さて次はそこだな」
指を心臓に向けられた忠義は流石の恐怖に一度距離を置いた。
「なんだと…避けたはずなのに、いやそもそも何もされていないはずなのに」
心臓が破裂したと思うほど軽快な破裂音と、左胸の膨張。
「安心しろ、お前たちの部下も残らず私の部下が殺した」
グロスが罪なき世界を発動したのとほぼ同時に現れたヴィドス。
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「これは私の流儀だ。魔王軍幹部、魔王様代理のヴィドス」
名乗り、構え、飛び上がる。
「子供相手にも妥協はしない。これが私の流儀だ」
双子のうち、片方の頭を掴み扉の方へ投げ飛ばした。
「アドゥース・スプレプト」
鋭い斬撃がもう片方を襲う。
「このおじさん強いよ、ほんきだしちゃう?」
「だそうだそう。殺せ殺せ」
双子の連携は魔王軍にない斬新なスタイルだとウィドスは感動する。
「もしこっちについてくれるのなら意地でも誘いたいくらいですよ。お二人とも」
片方の死角を片方がカバー、片方の不利を片方が補填。
「完璧な人間はいない。だが完璧に近い人間が補い合うことはできると。アドゥース!そこか、インフェルノ!」
攻撃のたびに精度が上がるヴィドスの猛攻でさえ掻い潜る2人。
「おじさん魔族の割にやるね、その角記念にもらいたいな」
「角は別にあげてもいいが、私の役目が果たされるまではダメだな」
角はいわば魔力倉庫、折れても再生可能だし、ないからと言っての弊害も特にない。バランスが少し悪くなる程度だ。
「そっか、なら役割をここで終えてもらおうかな」
双子の1人がヴィドスの首に鎌を付けていた。
「ほぅ。これは予想外だった、だがまぁ私を殺すには程遠い」
鎌がスゥーッとすり抜けた。まるでそこに実態がないかのように。
「へっ?なるほどね……対策変えて」
「わかったよ。迅速に殺そう」
除霊系などに用いられるライトスペルが両端から飛んでくる。
「その対策力は誇れるな、魔王様が警戒をしろと言っていただけある。アドゥース•インフェルノ」
「それは甘いよ」「私でも避けれるよ」
予測不可能な攻撃が飛んでくるのに、それをモノともせずに突撃する双子。
「ふむ、魔王様が固有を展開したようですね。では私も、固有魔術式-堕落の抱擁」
双子は確かにヴィドスの心臓を前と後ろから貫いたはず。気付けば互いに刺していた。
「どうしてと言った目ですね。単騎で見れば私は魔王様より強いですよ、ですが今回は条件付きだったので少しばかり手を抜いていただけです」
死んだ双子の首を持ちどこかへと帰るヴィドス。今回の時間は魔族及び勇者の介入により殲滅させられた事実を隠蔽したい帝国側により、職員へ高位記憶除去処置がされた。
グロスは反対したが、リリーの安全面などを考慮した結果飲まざる得なかった。
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