異世界転生したらΩでした！

頭の中にいる『あいつ』

「……自殺しよっかな」

　一瞬、空耳かと思った。

　僕はあいつの顔を見る。あいつは下を向いていた。イスに座って力なく腕を垂らしている。目線は何もない空間の一点を見つめていた。

「何言ってんだよ。考えすぎ」

　僕は明るく振る舞ったが、すぐに虚しくなった。僕にも明るい未来が見えなかったからだ。

　再就職をしようにもツテがない。ハローワークに行けば僕たちと同じような人たちがあふれかえるぐらいにたくさんいた。

　あいつは一度だけ、再就職に成功した。建築土木系列の会社に中途採用として。だが、自由に生きてきたあいつには合わなかった。

　せっかく雇ってもらったのに、あいつは数日で辞めてしまった。

　娯楽だから、我慢すればいい。そんなことを言う人がいるが、働いている人たちにとっては娯楽じゃない。生活だ。

＊＊＊

ーー。ーーー。

　何かが聞こえる。

ーーナ、ーーオキ。

「ナオキ！！」

　僕の名前だ。

「ん……」

　僕は目を開けた。目の前にキョウイの顔が飛び込んでくる。

「よかった……」

　キョウイは「心配したんだぞ」と涙を流す。キョウイが本気で心配している姿を見て、僕はなんだか心の中があったかくなった気がした。

「あ、れ……？」

　僕もつられて泣いてしまった。見かけの心配をずっと見てきていたから、久々に本気の心配を見た。

「よかった……死んだのかと思った」

　キョウイは変なことを言う。僕はとっくに死んでるのに。