魔王オレと勇者ワタシ

松本味噌味

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魔王オレのターン

第4話 勇者様の目論見

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 オレとシャルがホテルの部屋に入った頃、そのホテルのロビーでは人々の歓声が飛び交い、賑わいを見せていた。

「おっ、お待ち申しておりました。 さささ、こちらの方へ。 おーい、お荷物をお預かりしてっ」

 先程、オレとシャルと一悶着あったフロントの係員が、お次は勇者様御一行の対応に負われている。

「ご苦労さん。 早速だけど部屋に案内してもらえるかな?」

 レイテが係員に告げると、係員はサササとフナムシのように高速で横移動しながら勇者様御一行を部屋へと案内する。

 彼らは来賓として、今夜このホテルに泊まる為、部屋はスイートルームのようだ。
 女性であるミーシャだけは別の部屋を充てがわれていたが、万が一国王が夜中に訪ねてきた場合を想定し、4人全員で泊まる事に。

 スイートルームは、オレ達が泊まるツインの優に5倍の広さで、ベッドルームやバスルーム、トイレ等も複数備わっており、まるでお城のような造りになっている。

「はぁぁ。 来るとこまで来たって感じだなーおい」

 レイテがふかふかのソファに腰掛け、恍惚の表情で天井から下がるシャンデリアを眺めながら、3人に話しかける。

「クックック。 そうだなァ。 これからはバラ色の人生だなァ」
「フォッフォッ。 苦労した甲斐があったというものじゃのぅ」

 イゲルとウィザリスも向かい側のソファに座り同調するが、

「ふんっ。 私はまだ納得してないわよ。 これからどうなるかわからないし。 ちゃんとしてくれるんでしょうね?」

 その姿を見下ろすようにソファの前で腕を組みながら立ち、謁見の間を出て以降、ずっと不満気な顔のミーシャはレイテに詰め寄る。

「任せておけよ。 そうだなぁ。 どうだ? 俺の嫁になるってのもありじゃないか?」
「じょ…… 冗談じゃないわよ。 まっ…… まぁあの国王より数万倍アンタの方がマシだけど……。 でもねぇ。 私はお金が欲しいのっ!」

 レイテの提案に一瞬は満更でも無い様子を見せたミーシャだが、すぐに考え直した。

 それはそうだろう。 レイテは勇者として、多大な褒美が約束されているが、彼女に至っては、魔王オレにバラバラの肉片にされ、命からがら戻った先で待っていたのはあの国王の妾の立場である。 納得できないのも無理はない。

「それはそうと知ってるか? 魔王オレが撃破された事になってる今、アリーシャ帝国は世界統一に向けて舵を切るらしいぜ?」
「らしいなァ。 クックッ…… 腕がなるぜ」

 アリーシャ帝国が世界統一を画策する噂は以前から囁かれていたようだ。

 魔王オレ対人類の戦いが行われていた昨今とは違い、昔は亜人種やリザードマン、エルフがそれぞれ国を統治し、その下に人間が奴隷として飼われ、互いに一触即発の状態であった。
 つまり魔王オレが居なくなれば、昔と同じ構図に戻るのは必定だろう。

 魔王オレには圧倒的な実力差で瞬殺された勇者様御一行だが、それが対人であれば話は別。
 人類の中でも飛び抜けた戦闘力、魔法力を誇る彼らが世界統一を目論むアリーシャ帝国に手を貸せば、必然的に彼らの株もうなぎ登りになる事間違いなしだ。

「そう上手くいくかしら? 万が一、魔王オレが動き出したらどうするつもり? 次は無いわよ?」

 話の腰を折るようにミーシャが彼らに問いかける。

「そ…… それはだなぁ…… どうしたら良いんだろうな」
「そうだな…… 何事も程々が一番かァ」

 急に弱気になるレイテとイゲルであったが、ウィザリスが1つの提案を出す。

「どうじゃ? 儂も国王の相談役になる事じゃから接触する機会も多いじゃろう。 今すぐとは言わずともいずれ、国王を亡き者にし、国を乗っ取るというのは?」

 ウィザリスの提案を聞き、ハッとした表情でレイテ、イゲル、ミーシャが顔を見合わせる。

「いいねいいね! 実権が握れれば魔王オレに触れず、各国とも上手い事やっていけるだろ」
「ウム! ジジィにしては良い案だ。 伊達に300年生きてないな」
「そうねぇ! それでレイテが国王になるなら王妃というのも考えても良いわよ?」
「フォッフォッフォッ! これからが楽しみじゃわい」

 序章の出来事と言い、今の提案と言い、勇者様御一行とは名ばかりの4人ではあるが、それほどまでに魔王オレの恐怖が身に沁みているのだろう。

「さて、そろそろ飯にするか? 部屋で食べても良いけど今日位は皆の拍手喝采を浴びながらってのも乙だと思うけどどうよ?」

 レイテの提案に3人は同調し、軽く身支度を済ませると一同はホテルの地下1階にある食堂へと向かった。

 【アリーシャ帝国】にある通常のホテルの食堂はビュッフェ形式が多いが、最上ランクのこのホテルは、一流シェフによるコース料理となっているようだ。
 地下1階全てが食堂フロアになっており、赤い絨毯が敷き詰めらたそのフロアには純白のテーブルクロスが敷かれたテーブルが丁度100脚ある。
 その中央に勇者様御一行が陣取ると、周りを取り囲むように各国の要人や有名人、貴族やその子女等が砂糖に群がる蟻のようにわらわらと集まってきた。

「勇者様ぁぁ」 「イゲル殿ぉ」 「ミーシャさまぁぁ」 「レイテさまぁ」

 勇者様御一行それぞれに声援が飛ぶ中、残念ながらウィザリスの名は呼ばれもしていないが、それでも満足げに皆それに応えている。

 女性客はレイテに、男性客はミーシャ(の身体)に、リザードマン種の客はイゲルに視線を浴びせ一同は注目の的だ。

 そんな中、人々が中央に群がり人集りが出来ている食堂へ、オレとシャルが足を踏み入れた。

「な…… なんです? アレ」

 シャルはオレの左袖を右手で摘むようにチョンチョンと引っ張ると、左手の人差し指を人集りの方へ向けオレに訪ねた。

「あっ? あぁ、そういや勇者だかが今日ここに泊まってるって言ってたからそれじゃねーか?」

 素っ気ない態度でシャルに答え、席まで案内する係員を探しキョロキョロと辺りを見渡すオレ。

「へ…… へぇぇ。 勇者様かぁ!」

 シャルは欲しい玩具を眺める子供のように期待で、ただでさえ大きな胸を膨らませ、キラキラと光るその瞳は人集りの方を注視している。

「あぁ? あんなのが良いのか? 変わってんなお前」
「もぉ。 お前じゃないです! シャルです!」
「お前はお前だろうが」

 オレは、やれやれといった表情で、そう答えるとウロチョロしている係員の首根っこをガッと掴み、

「おい、そろそろ席に案内しろ。 2人だ」
「はっ、はいぃ。 かしこまりましたぁ」

 突然首根っこを掴まれた係員が、驚きのあまり思いの外大きな声で返事をすると、勇者様御一行に群がっていた客がピタリと歓談を止め、オレとシャルへと視線を向ける。
 釣られて、勇者様御一行も彼らに視線を向けると、レイテは口に含んでいたワインをダラーっと零してしまった。

「か…… 可愛い……」

 シーンと静まり返る場に、レイテの声が響く。

「うぉぉ、誰だあれ?」「可愛い。 エルフ族か?」「モデルかもよ?」

 レイテの声に同調するように、勇者様御一行の周りにいた客(主に男性客)が声を上げる。
 その姿を横目に悔しさで歯軋りするミーシャ。 ウィザリスとイゲルはあまり興味が無いようだ。

 ダラーッと口からワインを垂れ流し、「可愛い……」と呟いた後、慌てて口を拭くレイテの姿を見て、

「おい、何かお前を見て騒いでるようだが、あんな口からダラーッとさせる奴が好みなのか?」

 オレは不思議そうにシャルに質問するが、その声はシャルには届いてないように見える。

「ふふふ。 これはチャンスかも……」

 小声でブツブツと呟くと、ハッと気を取り直し、笑顔で勇者レイテへ手を振るシャル。

「あ、あの、ちょっと勇者様と話してきても良いですか?」
「あぁ、先に席に座ってるからな」

 オレとシャルはそう言葉を交わすとオレは係員が案内した席へ、シャルは勇者様御一行の席の方へと歩き出す。

 シャルは先程までの見窄らしい格好では無く、オレの真空魔法によって仕立てられた純白のドレスを身に纏っている。
 それは先程までカーテンであったとは思えない、シャルの為だけに仕立てられたドレスで、シャルのスタイルをパッと確認しただけで仕上げてしまうオレの魔法能力の高さも同時に伺わせる代物だ。

 エルフ族のミーシャに負けず劣らずの強調された胸の谷間に、周辺を取り囲む男性客は釘付けになっている。

「あ…… あの、勇者様ですよね? はじめまして。 シャルって言います」
「おっ、おぅ。 どこかの貴族のお嬢さんかな? な、何か用かい?」

 シャルがレイテに挨拶すると、下心丸出しで鼻の下を伸ばしたレイテはグッと堪えるように紳士を装い返事をする。

「あっいえ、ただお見知りおき願いたくて。 あの…… また今度、お話させてもらえますか? 2人っきりで」

 軽くウィンクをして、ピースサインで2人という事を強調するシャルに対して、

「あぁ、 構わないよ。 ただ、いきなり2人きりというのは関心しないな。 まぁ後で係員に言って連絡先を伝えるから、あとでね」

 精一杯の紳士ぶりをシャルだけではなく、周りにも見せつけるが、テーブルクロスの下ではミーシャのトゥキックがレイテの脛を何度も攻撃している。

「ありがとうございます。 それでは」

 両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げてカーテシーを行い、その場を去るシャルに笑顔で手を振るレイテ。

「おぉぉさすが勇者様」「あのような女性まで虜にしてしまうとは」「さすがですなぁ」

 その場に居た客から羨望の眼差しを受け、ポリポリと頭を掻きながら満更でも無いレイテの表情とは裏腹にミーシャはかなり不満気な顔をしている。

「皆様はあのような小娘がお好きなんですねぇ。 それはそれは」

 イラッとした表情で男性客に釘を刺すミーシャに同調するように周りの女性客も少し冷ややかな視線をレイテと男性客に向けている。

「おほんっ。 んんっ、いやなに。 これも一種のマナーだよマナー。 私は国のために命を捧げるつもりですからね」

 その場を取り繕うようにレイテが言うが、イゲルとウィザリスは呆れ顔でレイテを一瞬見た後、すぐに他の客との歓談を楽しんでいる。

 そんな出来事がありながらも、勇者様御一行の元には一般客の挨拶がそれからも続き、時が深まるにつれ、一層の盛り上がりを見せていた。
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