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集会
少女は怖かった(絵有)
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ヘラは片眼鏡をしている。
ガラスを通すと、魔法使い同士のつながりが見える。ホークが目が悪くないのに片眼鏡をしているのと同じで、彼女も繋がりを確認するためにしているのだろう。
「『知識の子』って……何? アイラスの事?」
「トール、アイラスの、使い魔……?」
アドルとザラムが、当然の疑問を口にした。
彼らはトールが『神の子』だと知っている。だから彼らには、自分とトールの繋がりについて話していない。自分みたいな弱い魔法使いが支配しているなんて、どう考えたっておかしいのだから。
「あ、ち、違う。逆なノ。私が、トールに……」
「アイラス」
ホークにいさめるように名を呼ばれ、口をつぐんだ。彼は険しい顔でヘラを睨んでいた。
彼女の方は、獲物を見つけたような顔でニヤニヤと笑っていて、アイラスはまたぞっとした。
「うちの子達に、余計なちょっかいを出さないで。……さあみんな、帰りましょう」
「もう帰るのかえ。夜はまだ長いぞよ?」
「幼子がいるものでね。元々そんなに長居する気は無かったの」
追いすがるようなヘラに、冷たいニーナ。この二人の関係が何となく見えてきた。
「仕方ないのう……では一つ、わらわを楽しませてくれた礼に、土産話をしてやろう」
「……土産話?」
「ぬしらが必死に聞きまわっておった、白い悪魔と呼んでおる輩のことよ」
部屋を出かかっていたニーナの足が止まった。振り返って聞く姿勢を見せた彼女に、ヘラは満足そうに頷いた。
彼女は再びカウチに横になり、色っぽい仕草で語り始めた。毒蛇のような蠱惑的な魅力があり、アイラスは寒気がした。
「あやつらは定期的に現れる。ここ千年の間に三度、現れておる。ただ、前回現れてから三年も経っておらぬ。今回は周期が早すぎる。その前は400年以上前じゃから、ぬしが知らぬは当然じゃ」
「シンの情報は、今日私達が初めて持ち込んだはずだけど……以前から知っていたようね?」
「毎年、シンの珍味を持って来ておった魔法使いが、一昨年から来なくなってのう。気になって調べたのじゃ」
「あなた、その得た情報を流したりはしないの?」
「なぜ、そんな事をせねばならぬ?」
全く意味が分からないという風に、ヘラは首を傾げた。アイラスが知る限りでは、一番変わり者の魔法使いだと思う。
ニーナもその辺は理解しているのか、ため息をついて話を続けた。
「あいつらが何なのかは知っているの?」
ヘラはニヤリと笑って何も言わなかった。知っている顔のように思えた。ニーナはそれ以上聞かず、質問を変えた。
「では、防ぐ手立ては?」
「知らぬ。防がずとも、時期が過ぎるのを待てばよい」
「時期とは、どれくらいなの?」
「長くて一年じゃろう。シンでは、どこぞの魔法使いが発生地域を丸ごと消してしもうたがの」
「発生地域? 白い裂け目が出る地域は限られているの?」
「毎回違う場所じゃが、一度現れ始めると、その周辺以外では出ぬ。わらわの知る限りはな」
「わかったわ。ありがとう。……では、失礼するわ」
部屋から出ようとするニーナの背中に、ヘラが諭すように語りかけた。
「遠くを見すぎじゃよ。もっと足元をみよ。手の内に闇を抱えておる事に、ぬしは気づいておらぬのか?」
ニーナは一瞬だけ動きを止めたけれど、そのまま振り返らずに歩き去った。
「もっと質問しなくてよかったんですか? 何か知ってそうだったのに」
廊下を歩きながら、ロムがニーナに聞いていた。しかしアイラスは、一刻も早くヘラから遠ざかりたかった。彼女がとても怖かった。
「いいの。あれ以上は聞き出せないわ」
「まだ集会は続いていますよ? 他の人への聞き込みも、続けなくていいんですか?」
「それより彼女に目を付けられた事の方が危険よ。街までは追ってこないから、早く帰りましょう」
そっけない反応に、ロムが足を止めた。手を繋いでいたアイラスも、止まらざるを得なかった。
「……あの人に話を聞くことが、今回の目的ですか?」
冷たい口調だった。声から怒りが伝わってくる。
ニーナが困った顔で振り向いた。
「外に出てから話すわ。この館の中の会話は、全て彼女に聞かれていると思っていいのだから」
館の門から出て、ニーナの前にホークが口を開いた。
「ニーナを責めないでやってくれないかな。提案したのは私なんだ」
「いいえ。それでも、決めたのは私よ……」
「どういうことですか?」
ロムの声から怒りは消えていた。少し落ち着いたのかもしれない。
彼が怒っていた理由は何だろう。目的を隠して連れてこられたから? それにしたって結果的には情報が入ったのだから、いいんじゃないかと思う。アイラスには、ロムの気持ちがわからなかった。
「まず、ヘラについて説明するわね。毎年、魔法使いの集会を主催している『神の子』よ。少なくとも千年以上生きていて、私の知る限り最高齢。高い魔力と豊富な知識を持っているわ」
ニーナはゆっくり歩きながら話を続けた。宴はまだ続いているのだから、他に帰る者の姿はない。
「本人は隠居したとか言っているけれど、世界の情報収集には余念がない。集会もそのために開いているの。彼女なら絶対に何かを知っていると思ったし、彼女が知らなければ誰も知らないと思っていたわ」
歩みはさらに遅くなった。道の先には、来た時に使ったと思われる転移装置があった。
「ヘラはね、見てわかったと思うけれど、一筋縄じゃいかないのよ。普通に聞いても何も教えてくれないわ。金銀財宝にも興味がなくて、交渉も無駄。対価となるのは、彼女自身が面白いと思った事だけなの。だから、それを提供するために……」
そこでニーナは一旦言葉を切った。歩みを止めて、皆を振り返った。
「みんなを餌にしたの」
ザラムは盲目なので、きっとカッコイイ服着せられてもよくわかってないんだろうなぁとか思いながら描きました。
ガラスを通すと、魔法使い同士のつながりが見える。ホークが目が悪くないのに片眼鏡をしているのと同じで、彼女も繋がりを確認するためにしているのだろう。
「『知識の子』って……何? アイラスの事?」
「トール、アイラスの、使い魔……?」
アドルとザラムが、当然の疑問を口にした。
彼らはトールが『神の子』だと知っている。だから彼らには、自分とトールの繋がりについて話していない。自分みたいな弱い魔法使いが支配しているなんて、どう考えたっておかしいのだから。
「あ、ち、違う。逆なノ。私が、トールに……」
「アイラス」
ホークにいさめるように名を呼ばれ、口をつぐんだ。彼は険しい顔でヘラを睨んでいた。
彼女の方は、獲物を見つけたような顔でニヤニヤと笑っていて、アイラスはまたぞっとした。
「うちの子達に、余計なちょっかいを出さないで。……さあみんな、帰りましょう」
「もう帰るのかえ。夜はまだ長いぞよ?」
「幼子がいるものでね。元々そんなに長居する気は無かったの」
追いすがるようなヘラに、冷たいニーナ。この二人の関係が何となく見えてきた。
「仕方ないのう……では一つ、わらわを楽しませてくれた礼に、土産話をしてやろう」
「……土産話?」
「ぬしらが必死に聞きまわっておった、白い悪魔と呼んでおる輩のことよ」
部屋を出かかっていたニーナの足が止まった。振り返って聞く姿勢を見せた彼女に、ヘラは満足そうに頷いた。
彼女は再びカウチに横になり、色っぽい仕草で語り始めた。毒蛇のような蠱惑的な魅力があり、アイラスは寒気がした。
「あやつらは定期的に現れる。ここ千年の間に三度、現れておる。ただ、前回現れてから三年も経っておらぬ。今回は周期が早すぎる。その前は400年以上前じゃから、ぬしが知らぬは当然じゃ」
「シンの情報は、今日私達が初めて持ち込んだはずだけど……以前から知っていたようね?」
「毎年、シンの珍味を持って来ておった魔法使いが、一昨年から来なくなってのう。気になって調べたのじゃ」
「あなた、その得た情報を流したりはしないの?」
「なぜ、そんな事をせねばならぬ?」
全く意味が分からないという風に、ヘラは首を傾げた。アイラスが知る限りでは、一番変わり者の魔法使いだと思う。
ニーナもその辺は理解しているのか、ため息をついて話を続けた。
「あいつらが何なのかは知っているの?」
ヘラはニヤリと笑って何も言わなかった。知っている顔のように思えた。ニーナはそれ以上聞かず、質問を変えた。
「では、防ぐ手立ては?」
「知らぬ。防がずとも、時期が過ぎるのを待てばよい」
「時期とは、どれくらいなの?」
「長くて一年じゃろう。シンでは、どこぞの魔法使いが発生地域を丸ごと消してしもうたがの」
「発生地域? 白い裂け目が出る地域は限られているの?」
「毎回違う場所じゃが、一度現れ始めると、その周辺以外では出ぬ。わらわの知る限りはな」
「わかったわ。ありがとう。……では、失礼するわ」
部屋から出ようとするニーナの背中に、ヘラが諭すように語りかけた。
「遠くを見すぎじゃよ。もっと足元をみよ。手の内に闇を抱えておる事に、ぬしは気づいておらぬのか?」
ニーナは一瞬だけ動きを止めたけれど、そのまま振り返らずに歩き去った。
「もっと質問しなくてよかったんですか? 何か知ってそうだったのに」
廊下を歩きながら、ロムがニーナに聞いていた。しかしアイラスは、一刻も早くヘラから遠ざかりたかった。彼女がとても怖かった。
「いいの。あれ以上は聞き出せないわ」
「まだ集会は続いていますよ? 他の人への聞き込みも、続けなくていいんですか?」
「それより彼女に目を付けられた事の方が危険よ。街までは追ってこないから、早く帰りましょう」
そっけない反応に、ロムが足を止めた。手を繋いでいたアイラスも、止まらざるを得なかった。
「……あの人に話を聞くことが、今回の目的ですか?」
冷たい口調だった。声から怒りが伝わってくる。
ニーナが困った顔で振り向いた。
「外に出てから話すわ。この館の中の会話は、全て彼女に聞かれていると思っていいのだから」
館の門から出て、ニーナの前にホークが口を開いた。
「ニーナを責めないでやってくれないかな。提案したのは私なんだ」
「いいえ。それでも、決めたのは私よ……」
「どういうことですか?」
ロムの声から怒りは消えていた。少し落ち着いたのかもしれない。
彼が怒っていた理由は何だろう。目的を隠して連れてこられたから? それにしたって結果的には情報が入ったのだから、いいんじゃないかと思う。アイラスには、ロムの気持ちがわからなかった。
「まず、ヘラについて説明するわね。毎年、魔法使いの集会を主催している『神の子』よ。少なくとも千年以上生きていて、私の知る限り最高齢。高い魔力と豊富な知識を持っているわ」
ニーナはゆっくり歩きながら話を続けた。宴はまだ続いているのだから、他に帰る者の姿はない。
「本人は隠居したとか言っているけれど、世界の情報収集には余念がない。集会もそのために開いているの。彼女なら絶対に何かを知っていると思ったし、彼女が知らなければ誰も知らないと思っていたわ」
歩みはさらに遅くなった。道の先には、来た時に使ったと思われる転移装置があった。
「ヘラはね、見てわかったと思うけれど、一筋縄じゃいかないのよ。普通に聞いても何も教えてくれないわ。金銀財宝にも興味がなくて、交渉も無駄。対価となるのは、彼女自身が面白いと思った事だけなの。だから、それを提供するために……」
そこでニーナは一旦言葉を切った。歩みを止めて、皆を振り返った。
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