亡国の少年は平凡に暮らしたい

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少女は自分が不甲斐ない(絵有)

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 ロムの手がアイラスの手を強く握りしめた。それで理解した。彼が怒ったのは、自分がその餌になり、さらわれたからだ。
 睨みつけるロムの視線を受けて、ニーナは辛そうに顔をそらした。



「続きは私が話すよ」
「ホーク……」
「私が考えた案だからね」

 ホークはニーナの肩を抱き寄せた。彼は何も言わなかったが、大丈夫と言っているように思えた。



「彼女……ヘラはね、ニーナの行動にいちいち干渉してくるのさ。だから、いつも一人で参加していた彼女が、仲間を大勢引き連れてくれば、興味を持つと思ったんだよ」



 ホークの話を聞きながら、アイラスはロムの手を両手で包み込んだ。
 来た時にも彼に不快な思いをさせた。聞き込みを頑張っていたのも彼だ。連れ去られた後、助けてくれたのも。

 自分を想ってくれるのがとても嬉しい。同時に負担をかけてばかりの自分がとても嫌だった。二つの気持ちが混じりあってモヤモヤして、ロムにかける言葉が見つからなかった。



「彼女に、いつもとは違う楽しみを提供できれば、対価は絶対に払ってもらえる。私達が館内で聞き込みを行っていれば、その情報を提供してくれると思ったのさ」
「結果、あいつが興味を持ったのがアイラスだったってわけだ」

 レヴィの言葉に、ついにロムが声を上げた。

「アイラスは殺されかけたんだよ!?」
「それはねぇよ。別の意味ではヤられてたかもしれねえがな……」
「どういう意味?」
「ああ、まあ、そりゃあ、なぁ……」

 追及するロムに、レヴィは口ごもった。代わりにホークが答えた。

「ちょっと営みの趣向がね……一定の年齢以下がお好みで、しかも両刀使いで……」

 彼の言う意味が、アイラスには全くわからない。ぽかんとしていると、ロムが顔を赤くして、さらに声を張り上げた。

「もっとダメですよ!! ……あ、もしかして……だとしたら、実際に餌になってたのは、未成年の俺達だけ……?」
「まあ、そういう事だね」

 怒りのせいか、真っ赤な顔で言葉を詰まらせている。自分のせいだと思うと、申し訳なくて見ていられない。

「ロム、ごめんネ……私、ロムに迷惑かけてばかり……」
「いや、違……アイラスは、悪くないよ」
「私は、さらわれたのが私でよかったと思ってるヨ」
「な、なんで……!?」
「逆に、ロムがさらわれていたらどうなってたと思う? 魔法で身動きできなくされていたら? 私には、ロムを助ける力はないヨ……」

 ロムはふてくされた子供の様に顔をそらした。いや、子供なのだけど。
 もし狙われたのが自分でも、そんな事にはならないと思ってそうだ。実際そうかもしれないけれど。



「すまないね。他の子はともかく、ロムにだけは話しておいた方が良かったかもしれないね」
「他の子というのは誰じゃ?」
「もちろん、君も含めた子供達だよ。君達は正直で素直だから、誰かをだますような事は難しいだろう?」

 物は言いようだ。トールは褒められたのかけなされたのかわからず、何も言い返せないようだった。



「レヴィは知ってたノ?」
「まぁな。っつーても、本当にお前らを差し出すつもりだったわけじゃねえぞ? ヘラに興味を持ってもらう事が、目的だったんだからな?」

 何も知らないふりをして、何でも知っているのはレヴィかもしれない。以前、ニーナが何でもかんでも相談してきて面倒だと言っていた。
 それは信頼されている証拠なのだから、嫌がらなくてもいいのにと思う。



「あの、聞いていいかわからないんですけど」

 そう前置きをして、今まで黙っていたアドルが口を開いた。

「『知識の子』って何ですか? アイラスの事を指していたみたいですけど……。それに、トールとアイラスはどういう関係なんですか?」

 ついに、その事を突っ込まれた。話していいんだろうか。いいとしたら、どこまで?
 アイラスは判断できずにニーナを見たが、彼女も迷っているようだった。





「……全ての、言霊、知る者」 

 突然ザラムがぽつりと答えた。なぜ彼が? と驚いた。『知識の子』の事は、一般には知られていないと聞いていたのに。

「アイラス、トールに、言った。『真の名』を。……そうだろ?」
「エ……」

 ザラムは疲れた顔で額を押さえ、言葉を続けた。

「ミアも、そうだった。言霊以外、知らない。世界の理も、常識も。だから、名乗る。『真の名』を」
「どうして、知ってるノ? ミアって……?」



「オレの、『知識の子』」



「エッ……?」
「もう、隠す必要、ない。見つけた」

 ザラムは笑っていた。泣きそうな顔で、笑っていた。

 彼の口から言霊が紡ぎだされた。とても早口で長く、声は小さく弱々しかった。聞き取れた一部は、全てを解除するという意味だった。



 ――解除? 何を?



 その意味はすぐにわかった。彼の漆黒の目と髪が、周囲の雪に解けるように薄くなっていった。黒から灰色へ。灰色から白へ。

 真っ白に変わった彼がアイラスの方を向いた。彼の口から、また言霊が発せられた。意味は、眠れ。





 強い眠気がアイラスを襲い、それに抗うことはできなかった。

アイラスはドレスに慣れてなくて一人で歩けないから、ずっとエスコートされてるんだろうな…等と考えながら描きました。
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