【本編完結】王女殿下の華麗なる「ざまぁ」【番外編更新中】

ばぅ

文字の大きさ
26 / 39
第七章:卒業パーティ

卒業パーティ(5)

しおりを挟む
 キャサリンが去ったあと、残ったのはリリアーネとヴァニエルだった。



「あらあら、キャサリンさん、せっかくのドレスが台無しになってお気の毒ですわね」



 リリアーネは涼しげな顔で口を開いたが、その言葉には毒が満ちていた。



「でも、エレノアさん、あなたが鈍臭くて避けずに私にぶつかってこなかったらこんなことにはならなかったのではなくて?」



 エレノアは冷静にリリアーネを見据えた。



「リリアーネ様、私がぶつかったと言うより、あなたがわざとジュースを溢されただけのことかと思いますわ。それをここで弁解されるのは、少々筋違いではありませんこと?」



 リリアーネの顔が一瞬引きつるが、その隣でヴァニエルが低く笑い声を立てた。



「おい、生意気な口をきくな。そもそも、こんな場にお前のような平民がいること自体が間違いなんだよ」



 ヴァニエルはあざけるように言葉を投げつける。



「まさか、俺に会いたくてここに忍び込んだんじゃないだろうな?誰か、この不審者を摘み出してくれよ」



 その場にいた周囲の生徒たちは、ヴァニエルの言葉に困惑したように視線を交わした。一部ヴァニエルの取り巻きの生徒たちはニヤニヤと事の成り行きを見守り、また一部の貴族たちはその言葉の不適切さに眉をひそめていた。



 エレノアは、あえてその場の緊張感を崩すように、落ち着いた微笑を浮かべながら言葉を返した。



「あら、ヴァニエル様、そんな風におっしゃるなんて驚きましたわ。まさか私がヴァニエル様に会いたいがためにこの場にいるなどと考えるとは……少々自己評価が過大ではなくて?」



 その一言に、周囲の観客たちから抑えきれない小さな笑い声が漏れる。ヴァニエルの顔が一瞬引きつるのを、エレノアは見逃さなかった。



「ふざけるな、貴様!」



 ヴァニエルは声を荒らげた。



「お前みたいな平民がどうしてここにいるのか、それ自体が不快なんだ!その汚い金で買った安っぽいドレスを着て、貴族気取りでうろつくなんて――」



「汚い金、とおっしゃいますが」



 エレノアは彼の言葉を遮るように、少し低い声で言った。その声にはこれまでの柔らかさではなく、確固たる自信が宿っていた。



「私の手で稼いだお金が、汚いとお感じになるのはご自由です。ですが、少なくとも、そのお金には働いた者の努力と誠実さが込められておりますわ。それに比べて――」



 彼女は少しだけ間を置き、視線をヴァニエルに向けた。



「貴方をはじめ、一部の方々が使っているお金には、一体、何が込められているのでしょうね?」



 その静かな一撃に、ヴァニエルは返す言葉を失った。彼は怒りのあまり拳を握りしめるが、どう反論していいのか分からず、ただ顔を赤らめるばかりだった。



 エレノアは、さらに続けた。



「それに、ヴァニエル様」



 彼女は静かに微笑んだが、その微笑には冷ややかな余裕が滲んでいた。



「私がここにいるのは、学園から正式に招待を受けてのことです。ヴァニエル様は、学園の権威を否定されるおつもりですの?」



 周囲の空気がピリッと張り詰める。



「口の聞き方には気をつけるんだな、エレノア」



 ヴァニエルは声を低くして言った。その声には威圧感を込めようとする意図が見え隠れしていたが、エレノアにとってはむしろ滑稽だった。



「どうやら、お前は自分が何を言っているのか、まったく理解していないようだな」



 ヴァニエルは低い声で言い放つ。



「このパーティで王家が言う“重大発表”が何か、貴様には想像もつかないだろうが――特別に教えてやる。それは、俺と王女殿下の結婚発表だ!」



 周囲の空気がざわめき立つ。聞き耳を立てていた貴族たちが驚きと興奮を露わにし、ヴァニエルの言葉に注目する。一方で、エレノアはまったく表情を変えず、ただその場に静かに立っていた。



「いずれ貴様は後悔することになるだろう」



 ヴァニエルは不気味な笑みを浮かべながら続けた。



「今ここで俺を侮辱したことが、どれだけ愚かな行為だったか――その時が来れば嫌でも思い知るはずだ」



 エレノアはその脅しを聞いても、微動だにしなかった。目の前の男の言葉に怯えるどころか、わずかに冷笑を浮かべ、軽く肩をすくめてみせる。



「そうですか。それはそれは、おめでたいお話ですわね」



 彼女の声は淡々としていたが、その中にはしっかりとした芯が感じられた。



「ですが、ヴァニエル様。そのような未来が本当に訪れるかどうかは、現時点では誰にも分からないものですわ。まして、あなたのような方が、それを口にする資格があるかどうか――」



「お前!」



 ヴァニエルは怒りに満ちた声を上げ、次の瞬間、懐から金の封筒を取り出した。その動作には誇示的な意図があり、周囲の注目をさらに集める。



「見ろ、これが何か分かるか?」



 その封筒を見た瞬間、周囲の貴族たちが再びざわめき始めた。それは明らかに王室の紋章が刻まれた本物の封筒であり、特別な文書であることを示していた。



「この中には、王家からの支援、そして『お前が王家にふさわしい人間であることを証明するならば、卒業後に王家の大事な御息女を嫁がせよう』と書かれている!」



ヴァニエルは高らかに宣言し、その手紙を誇らしげに掲げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!

ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」 「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」 王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。 しかし、それは「契約終了」の合図だった。 実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。 彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、 「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。 王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。 さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、 「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。 「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」 痛快すぎる契約婚約劇、開幕!

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。

星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」 涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。 だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。 それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。 「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」 「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」 「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」 毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。 必死に耐え続けて、2年。 魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。 「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」 涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

処理中です...