死後の世界のハローワーク

半次郎

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勘違いした大人とピュアな子供

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 死後の世界のハローワーク関東支店開店前。

窓口業務を担当する巫女の楓は、気怠るそうに支店長の話を聞いていた。

「いいですか、みなさん!ここ最近の関東支店の評判が良くありません!お客様に満足頂けるよう、我々がしっかり寄り添ってベストな転生先を導きだしてあげなければいけません。そのためにはじっくりヒアリングして、ニーズを吸い出して…って聞いてます?楓さん!」

「あー。聞いてます。聞いてます。」
楓は支店長の話を適当に聞き流す。

「まったく!あなたのクレームが一番多いんですよ!支店の評判をこれ以上落とさないで下さい!じゃあ後10分後に業務開始しますからね!みなさん!今日も張り切っていきましょう!」

「はいっ!」
「はーい。」

窓口の椅子に座ると隣から後輩の桜が話しかけてくる。

「楓先輩!最近どうですか?仕事の方は?」

「どうしたもないよ。皆んな口を開けばバカみたいに異世界!異世界!って言うんだから。」

「そりゃそうですよ!ここは転生先を紹介する場所なんですからー。」

「そうだけどさぁ。なんか“勇者になりたい”とか“チートスキルで無双したい”とか、なんか勘違いした人達多くない?キレそうになるよ。」

「……いや。先輩いつもキレてますよ。」

「そうだっけ?別に異世界を希望する分には全然良いんだよ。でも大体そういう奴に限って、現世でろくでもない人生送ってんだから。そんな奴に紹介出来る転生先なんかないっつーの!」

「まぁまぁ。人は見かけじゃ分かりませんよ。」

「いや。私には分かるね。大体異世界に変な憧れを持つ奴なんてブラック企業に勤めてたか、交通事故で死んだニートしかいないんだから!」

「偏見がすごいな…。まぁ今日も頑張りましょう!」

「そだね。」

時刻は9時。建物のシャッターが開き、次々と面談者がやってきた。
スタッフ全員が大きな声で挨拶をする。
楓は仕事モードに切り替えて、全力の営業スマイルで面談者を出迎えた。

「受付番号5番の方ー。」
楓が呼び込むと一人の男が窓口にやって来た。

「うほっ!巫女さん衣装じゃん!死後の世界まじウケるw」

髪は乱れ、無精髭の顔、ヨレヨレのスウェットを着た清潔感ゼロのその男は遠慮なく椅子に座った。

「織田拓三様ですね。38年間の人生お疲れ様でした。早速ですが、死後のプランはお決まりですか。」

「もちろん、転生一択っしょ!」
カッコつけながら織田は言った。

「…分かりました。どのような転生先をご希望で?」

「異世界!それも可愛いヒロイン付きで!」

楓は込み上げる怒りをグッと堪えて話を続ける。

「では、異世界転生するにあたって、活かせる特技やスキル、資格等はお持ちですか?」

「うーん…。まぁゲーム全般は得意だね。RPG系ならほとんど全クリしてるから異世界転生も余裕っしょ!」

(ダメだコイツ…。)

心の底から呆れた楓は織田の現世での職業について尋ねる。

「織田様。現世ではどういったお仕事をされてたのですか?」

「…一応、小説家。」
一瞬言葉に詰まりながら織田は答えた。

楓はデスクのPCを操作する。このPCでは面談者の現世での姿が閲覧出来る。そこに映っていたのは部屋の中でダラダラ過ごす織田の姿だった。何度早送りしても、小説家を名乗る織田がペンを握る事はなかった。

「大変申し訳ございません。正直に申しまして、あなたの能力ではご紹介出来る転生先がございません。転生ではなく天国に向かわれる事もご検討されてみてはいかがですか?」

「はぁ?何それ?やってみなきゃ分かんないじゃん!俺、異世界行ったら本気出すし!」

腹を立てた織田が楓に詰め寄る。

「異世界転生に強いこだわりがあるようですが、そもそも異世界で何がしたいのですか?」

「……世界を救う。」
少し間を空け織田がドヤ顔で言い放った瞬間、楓の顔から笑顔が消える。

「…世界を救うだと。異世界転生なめんなっ!!!!」

楓は完全にキレた。

「いいか!お前みたいに現世で何も成し遂げれなかった奴が世界救えると思うな!まともに働きもしない、努力もしない、実績もない。一体現世で何やってたんだ!理想だけは一丁前に語り、現実を見ようともしない。大体その見た目はなんだ!面談するのにその格好で来れる神経が理解出来ない。そんなだから…」

「………」

楓に散々捲し立てられ、織田は何も言い返す事が出来なかった。顔は真っ赤になり、すでに涙目だ。

「つまり一言で言うと…。私はあなたに世界を救って欲しくないのです。」

「今日はお帰りください。」

「…ふざけやがって。二度と来るかーー!」
叫び声はフロア全体に響き渡った。
多くの人が怪訝そうな顔で見るので、気まずくなった織田は静かに去って行った。

「ちょっと楓さん!今のお客様、すごい怒鳴っていたけど何したの?」
唯ならぬ状況に支店長が焦りながら聞いてきた。

「支店長。あの人の転生先、地獄に出来ないですかね?」

「何言ってるの!朝礼でも言いましたよね?ちゃんとお客様に寄り添ってお話をしたんですか?」

「寄り添いましたよ。その結果、転生を諦めるようしっかり助言しました。私の判断は間違ってません。あのような人が異世界に行ったら大迷惑になりますよ。」

「でもすごい怒ってたじゃない。楓さん、言い方がキツすぎるよ。はぁー。クレームにならないか心配だ。また菩薩様に怒られたらどうしよう。はぁー。」
支店長はぐったりしながら席へ戻って行った。

楓は気を取り直して次の面談者を呼び込む。
「受付番号31番の方ー」

「はいっ!」

窓口にやって来たのは幼い少年だった。
細身の色白で、ぶつかったら壊れてしまいそうなほど華奢な体格だった。

「白川純様ですね。12年間の人生お疲れ様でした。早速ですが、死後のプランはお決まりですか。」

「はい。異世界に転生したいです。」

「そうですか。では異世界転生したい理由を教えて下さい。」

白川少年は現世での人生を話始めた。
小さい頃から体が弱く、外で遊ぶ事が許されなかったため、家でずっと読書をしていたようだ。特にファンタジー系のライトノベルが好きで、多くの数を読み漁り、次第に物語の世界で活躍する主人公達に強く憧れたと言う。死後の世界で転生出来る事を知り、自分も異世界で活躍する事を夢みて志願したのだった。

楓は一通り話を聞き終えた後、白川少年に告げた。

「分かりました。では、一つご紹介させて下さい。」

席の横にあるファイルを取り出し、一枚の紙を引き抜き窓口カウンターに置いた。

「こちらの紙はある異世界のスカウト票になります。現在、数名の冒険者を募集しております。募集背景としましては、複数のダンジョンが発現し、その攻略をお願いしたいとの事です。いかがでしょうか?」

(……ゴクリっ)

思わず生唾を飲み、白川少年はスカウト票をまじまじと見た。憧れの物語が今まさに始まりそうな予感を感じている。

「……正直ここに行きたいです。でも不安なんです。こんな弱々しい体で冒険なんて出来るのでしょうか?」

「心配ございません。転生の際は新たな肉体が手に入ります。私どもも全力で白川様をバックアップ致します。」

「ありがとうございます。決めました!ここに転生させてください!」

「分かりました。それでは転生の手続きを進めますね。少しお時間を頂きます。来週のこの時間にまたお越しください。」

面談が終わると白川少年は深々とお辞儀をした。その顔は晴れやかで、目に輝きを纏っていた。

楓が書類を書いていると横の席の桜が話しかけてきた。

「先輩ってホント子供には甘いですよねー。あんなあっさり異世界先を紹介しちゃって。一つ前の面談者さんに恨まれますよー。」

「別に甘くしてる訳じゃないよ。ただ若い人の方が人生経験が短い分、純粋で柔軟だから異世界転生に有利ってだけ。ほら、異世界って何が起こるか分かんないじゃん?そういう環境に適応するのって純粋さや柔軟さってすごく大事だから。」

「そんなもんなんですかねー。」

「そう!勘違いした大人よりピュアな子供に異世界を託したいって事よ!」

「先輩なりに色々考えてるんですね。」

(キーンコーンカーンコーン……)

「おっ!午前の業務終了ー!よし!桜!お昼行こーぜー!」

12時のチャイムが鳴り、窓口業務は一旦終了となった。今日も朝から多くの面談者が訪れた。希望の転生先を見つけた者もいれば、転生を諦めた者もいる。こうして皆それぞれ死後の進路を決めて行くのである。午後も多くの面談者が来るだろう。死後の世界のハローワークは大忙しだ。
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