3 / 8
スローライフ
しおりを挟む
死後の世界のハローワーク関東支店、午後の部。
楓は窓口で一人の男と面談中だった。
「あのー、龍二さん。スローライフって天国でも出来ますよね?なんで異世界じゃなきゃダメなんですか?」
「分かってないねー、楓ちゃん。天国行っちゃったら真のスローライフになっちゃうでしょ!俺はね、スローライフの中にも刺激やドラマ求めてんの!異世界に行きゃそれがあんのよ!」
「…はあ。」
「俺はね、天国でのんびり平和に暮らしたいワケじゃないのよ!男ってのは死んでも刺激を、ドラマを求めちゃうもんなのよ!分かってくれないかなぁー。」
(…面倒くせっ!)
楓が面談している男は武田龍二。(享年52歳)楓が担当してから早半年となる。一向に死後のプランを決めず、しかも毎回希望している転生先が変わる。毎週ハローワークにやって来ては長時間面談を受け、悪い時は自身の昔話や世間話だけで面談が終わってしまう事もある。楓はいつも武田の話に付き合わされ、げんなりしていた。
「龍二さん…。もう勘弁して下さいよ!どうせ今回も紹介した所で決めないでしょ!何回もお勧めの転生先紹介しましたよね?まだ満足出来る転生先見つかりませんか?」
「いやー。いつも楓ちゃんには感謝してるんだよ!俺のためを思って良い転生先を何個も紹介してくれて。でもさぁ、いざ決めるってなると踏ん切りがつかなくて。もっと良い転生先があるんじゃないかなーみたいな!もうちょい悩ませてよー。」
「ったく!いつまで悩むんですか!」
「そんな事より今日仕事終わったらご飯でも行かない?近くに美味しい店見つけたんだよ!」
「行きません!転生先探さないなら帰って下さい!」
「へへっ。怒られちゃった。仕方ないから今日は帰るよ。また来るよー!」
(一生来んな!!)
武田は一通り話し終えて満足そうに帰って行った。
楓がイラつきながら次の面談の準備をしていると、一連のやり取りを見ていた桜が話しかけてきた。
「お疲れ様でした。今日も龍二さん、面談長かったですねー。」
「あのオヤジどんだけ暇なんだよ!もうホントしんどいよ!終わりが見えないから!
…桜。お願いがある。」
「……嫌です。」
「まだ何も言ってないじゃん!お願い!龍二さんの担当変わってー!」
「嫌ですよ!楓先輩を指名して来てるんですから、しっかり対応しないと!」
「おのオヤジは若い女の子であれば誰でも良いんだよー。頼むよー。」
「無理です!!さぁ仕事仕事!」
「ちぇっ!」
担当者変更を頑なに拒否された楓は渋々次の仕事へと移る。
「受付番号56番の方ー」
窓口にやって来たのは若い女だった。スラリとした細身で、眼鏡をかけているせいか、どこか知的な印象を受けた。
「薬師寺牡丹様ですね。30年間の人生お疲れ様でした。死後のプランはお決まりですか?」
「え、えっとー。い、異世界希望です。」
緊張しているのか、声が小さく言葉に詰まりながら薬師寺は応えた。
「分かりました。ちなみに異世界転生するにあたっての目的は何ですか?」
「……あ、あのー。スローライフがしたくて…。」
(…アンタもかい!)
龍二と同じように薬師寺も異世界スローライフを希望していた。天国にいけば存分にスローライフが出来るのに、わざわざ異世界に行く理由が楓には理解出来なかった。
最近は二人に限らず、異世界スローライフを希望する面談者が増加傾向となっていた。
「わ、私、異世界で植物を育てたいんです!モフモフの動物なんかをペットにして、植物をのんびり育てたいんです!!」
薬師寺が急に大きな声で話始めたので、楓は一瞬驚いた。それと同時に彼女の熱意が強く伝わってきた。
「具体的なビジョンをお持ちのようで…。植物とは何を?」
「薬草です!!」
薬師寺は前のめりで応える。
彼女はなぜ薬草にこだわるのかを話始めた。
薬師寺は元々製薬会社の研究職として働いており、若くして様々な新薬開発に携わってきた。知識や技術を身につけ、研究者として脂が乗り始めた矢先、交通事故でポックリあの世に来てしまった。薬作りに未練があったので、異世界に転生して薬草から育て、一から自分の手で薬を作りたいと希望していた。
(…実績は申し分ないな。)
楓は関心しながらPCを操作し、薬師寺が望む転生先を検索する。
「薬師寺様。おそらく今の能力であれば多くのスカウトが来ると思います。ただスローライフで薬草を育てるとなると、現状ご希望に沿える転生先がまだないですね。ちなみに冒険者のサポートとして薬師のスカウトは数多くあるのですが、そちらでご活躍されるっていうのはいかがでしょう?」
「…うーん。私が作った薬が誰かの役に立てるのなら喜ばしい限りです。でも、まだまだ私は未熟です。薬学についてもしばらく研究したいので、やはりスローライフでの転生を希望します。」
「そうですか。分かりました。ではご希望の転生先が見つかるまでお待ち頂けますか。こちらも見つけ次第、薬師寺様にいち早くご連絡差し上げます。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
薬師寺は静かに立ち上がると、楓に一礼してそのまま帰っていった。
(…スローライフかぁ。)
楓は薬師寺との面談を終え、スローライフについて考えていた。
なぜ天国ではなく、異世界でのスローライフを選択するのか。それはきっと転生希望者がそもそも完全なる平穏や安定を望んでいないからだ。多少の前途多難があって、自分のやりたい事を成し遂げるのが深みのある人生なのだろう。そういう意味では、天国はすべてが上手く行きすぎて退屈に感じるかもしれない。武田が言っていたように、転生希望者は刺激やドラマを求めているのだと少し納得する事が出来た。
(キーンコーンカーンコーン…まもなく本日の営業は終了となります…)
業務終了を知らせるアナウンスが流れた。数名いた面談者達も用を済ませ、出口へと向かって行った。窓口スタッフが最後の一人を見送ると、本日の営業は終了となった。シャッターが閉まり、従業員達は一斉に締め作業に取り掛かる。きっと明日も多くの転生希望者が来るだろう。死後の世界のハローワークは大忙しだ。
楓は窓口で一人の男と面談中だった。
「あのー、龍二さん。スローライフって天国でも出来ますよね?なんで異世界じゃなきゃダメなんですか?」
「分かってないねー、楓ちゃん。天国行っちゃったら真のスローライフになっちゃうでしょ!俺はね、スローライフの中にも刺激やドラマ求めてんの!異世界に行きゃそれがあんのよ!」
「…はあ。」
「俺はね、天国でのんびり平和に暮らしたいワケじゃないのよ!男ってのは死んでも刺激を、ドラマを求めちゃうもんなのよ!分かってくれないかなぁー。」
(…面倒くせっ!)
楓が面談している男は武田龍二。(享年52歳)楓が担当してから早半年となる。一向に死後のプランを決めず、しかも毎回希望している転生先が変わる。毎週ハローワークにやって来ては長時間面談を受け、悪い時は自身の昔話や世間話だけで面談が終わってしまう事もある。楓はいつも武田の話に付き合わされ、げんなりしていた。
「龍二さん…。もう勘弁して下さいよ!どうせ今回も紹介した所で決めないでしょ!何回もお勧めの転生先紹介しましたよね?まだ満足出来る転生先見つかりませんか?」
「いやー。いつも楓ちゃんには感謝してるんだよ!俺のためを思って良い転生先を何個も紹介してくれて。でもさぁ、いざ決めるってなると踏ん切りがつかなくて。もっと良い転生先があるんじゃないかなーみたいな!もうちょい悩ませてよー。」
「ったく!いつまで悩むんですか!」
「そんな事より今日仕事終わったらご飯でも行かない?近くに美味しい店見つけたんだよ!」
「行きません!転生先探さないなら帰って下さい!」
「へへっ。怒られちゃった。仕方ないから今日は帰るよ。また来るよー!」
(一生来んな!!)
武田は一通り話し終えて満足そうに帰って行った。
楓がイラつきながら次の面談の準備をしていると、一連のやり取りを見ていた桜が話しかけてきた。
「お疲れ様でした。今日も龍二さん、面談長かったですねー。」
「あのオヤジどんだけ暇なんだよ!もうホントしんどいよ!終わりが見えないから!
…桜。お願いがある。」
「……嫌です。」
「まだ何も言ってないじゃん!お願い!龍二さんの担当変わってー!」
「嫌ですよ!楓先輩を指名して来てるんですから、しっかり対応しないと!」
「おのオヤジは若い女の子であれば誰でも良いんだよー。頼むよー。」
「無理です!!さぁ仕事仕事!」
「ちぇっ!」
担当者変更を頑なに拒否された楓は渋々次の仕事へと移る。
「受付番号56番の方ー」
窓口にやって来たのは若い女だった。スラリとした細身で、眼鏡をかけているせいか、どこか知的な印象を受けた。
「薬師寺牡丹様ですね。30年間の人生お疲れ様でした。死後のプランはお決まりですか?」
「え、えっとー。い、異世界希望です。」
緊張しているのか、声が小さく言葉に詰まりながら薬師寺は応えた。
「分かりました。ちなみに異世界転生するにあたっての目的は何ですか?」
「……あ、あのー。スローライフがしたくて…。」
(…アンタもかい!)
龍二と同じように薬師寺も異世界スローライフを希望していた。天国にいけば存分にスローライフが出来るのに、わざわざ異世界に行く理由が楓には理解出来なかった。
最近は二人に限らず、異世界スローライフを希望する面談者が増加傾向となっていた。
「わ、私、異世界で植物を育てたいんです!モフモフの動物なんかをペットにして、植物をのんびり育てたいんです!!」
薬師寺が急に大きな声で話始めたので、楓は一瞬驚いた。それと同時に彼女の熱意が強く伝わってきた。
「具体的なビジョンをお持ちのようで…。植物とは何を?」
「薬草です!!」
薬師寺は前のめりで応える。
彼女はなぜ薬草にこだわるのかを話始めた。
薬師寺は元々製薬会社の研究職として働いており、若くして様々な新薬開発に携わってきた。知識や技術を身につけ、研究者として脂が乗り始めた矢先、交通事故でポックリあの世に来てしまった。薬作りに未練があったので、異世界に転生して薬草から育て、一から自分の手で薬を作りたいと希望していた。
(…実績は申し分ないな。)
楓は関心しながらPCを操作し、薬師寺が望む転生先を検索する。
「薬師寺様。おそらく今の能力であれば多くのスカウトが来ると思います。ただスローライフで薬草を育てるとなると、現状ご希望に沿える転生先がまだないですね。ちなみに冒険者のサポートとして薬師のスカウトは数多くあるのですが、そちらでご活躍されるっていうのはいかがでしょう?」
「…うーん。私が作った薬が誰かの役に立てるのなら喜ばしい限りです。でも、まだまだ私は未熟です。薬学についてもしばらく研究したいので、やはりスローライフでの転生を希望します。」
「そうですか。分かりました。ではご希望の転生先が見つかるまでお待ち頂けますか。こちらも見つけ次第、薬師寺様にいち早くご連絡差し上げます。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
薬師寺は静かに立ち上がると、楓に一礼してそのまま帰っていった。
(…スローライフかぁ。)
楓は薬師寺との面談を終え、スローライフについて考えていた。
なぜ天国ではなく、異世界でのスローライフを選択するのか。それはきっと転生希望者がそもそも完全なる平穏や安定を望んでいないからだ。多少の前途多難があって、自分のやりたい事を成し遂げるのが深みのある人生なのだろう。そういう意味では、天国はすべてが上手く行きすぎて退屈に感じるかもしれない。武田が言っていたように、転生希望者は刺激やドラマを求めているのだと少し納得する事が出来た。
(キーンコーンカーンコーン…まもなく本日の営業は終了となります…)
業務終了を知らせるアナウンスが流れた。数名いた面談者達も用を済ませ、出口へと向かって行った。窓口スタッフが最後の一人を見送ると、本日の営業は終了となった。シャッターが閉まり、従業員達は一斉に締め作業に取り掛かる。きっと明日も多くの転生希望者が来るだろう。死後の世界のハローワークは大忙しだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる